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三島由紀夫の文章読本

最近は文章力が求められる時代なのか書店で多くの文章本を見かけます。
文章に対して興味がもっている人が多いのでしょうか。
私もそのうちの1人ではありますが。

三島由紀夫の文章読本は内容の深い本でした。
文章本というよりは哲学に近い印象でした。
三島由紀夫という当時の文豪が文章に対して本気で考えた結果を書いた本ですから、そのように感じたのかもしれません。

たとえば三島由紀夫はまず作家たるものレクトゥールではなく自らリズールとなるべきと言っています。
レクトゥールとは普通読者のこと。
リズールとは精読者のことです。

ざっくり言うとレクトゥールとはただ本を読む人。
本を娯楽の一つとして読む人のことです。
一方、リズールとは自分の体験の一つとして本を読むことで、深く内容を味わう人としています。

三島由紀夫は作家たるもの読者をリズールへ導かねばならないと本では述べています。
そのためにはまず作家がリズールとならねばならないと述べています。

たしかに本の内容を深く味わうためにはリズールな状態、つまり精読しないといけません。
そのためには深い集中と本の内容を頭で考えながら読まないといけません。
自分がリズールとなることで読書は自分の人生経験の一つになると考えられます。

私もそのような経験はあります。
自分が本当に興味が湧いた本というのはいつの間にか自分がリズールな状態になっています。
その時は深い集中力と自分の頭がフル回転しているような状態で、時間はあっという間に過ぎ去ってしまいます。
そして読み終わると軽い運動をしたあとのような疲れと充実感が得られるのです。
そして読んだ内容というのはいつまでも記憶に刻まれているのです。

本というのは人によっては娯楽にしかならないときもあるでしょう。
たとえば大衆小説などは娯楽そのものなのかもしれません。
しかし自分と本との関係を変えてみれば、自分はレクトゥールからリズールになれるのではないでしょうか?
つまり大衆小説を娯楽本として読むのではなく、自分の人生に対して何か教えを見出してくれるような本として読むのです。

もっとわかりやすく言うと、現代では漫画がよく読まれていると思います。
漫画を娯楽としてではなく、いつの間にか自分の人生の教訓を得るような読み方をしている人は以外に多いのではないでしょうか?
主人公の生き様や名台詞、またその仲間の人生などを自分の人生に何かヒントを与えてくれるのではないかという期待を込めて漫画を読む。
そのような方は以外と多い気がします。

話が逸れましたが良い本とは読者をリズールへと導く本なのでしょう。
文章家たるもの、読者をリズールへと導かねばならないと三島由紀夫は述べています。
そのためには自分自身もリズールにならなければいけない。
レクトゥールのままでは半端な文章しか書けないというわけです。

また三島由紀夫は現代の文章は多くの要素が入りこみ、本来の日本の文章というのは失われつつあると指摘しています。
それは明治維新以降、多くの言葉が海外から輸入されてきたからです。
多くの言葉が日本語に訳され、そして従来の日本の文章と混ざり合いました。
結果、現代の文章ができあがったと述べています。

つまり我々が今喋ったり書いたりしている文章は本来の日本の言葉や文章ではないとい言うのです。
主に西洋文化の概念が混ざった言葉をしゃべったり書いたりしているのです。

この辺はたしかにそうなのかもしれないと思いました。
極端ですが現代の文章と古典中の古典である紫式部の源氏物語を比べてみると違いがわかります。
源氏物語は現代人からしたらかなり読みにくい文章で書かれています。
辞書を片手に読まないと何が書いてあるのかすらわかりません。
(少なくても私には)

しかし源氏物語の文章がおそらく本来の日本の文章なのでしょう。
主に平仮名を使用して書かれたあの文章が日本古来の文章なのです。
この点は文章を勉強する上で頭に入れておいてもいいかもしれません。

このように三島由紀夫は文章に対して幅広い視点と考察を織り交ぜて文章読本をまとめています。
他にも小説や評論の文章の良さなどを文章読本で述べています。
また多くの作家の文章を紹介し参考にしています。

文章には正解がないのかもしれません。
たとえどんな文章を書いたとしても正解でもあり不正解でもあるのかもしれません。
文章を判断するのは書いた本人ではなく読み手だからです。
だから永久に正解がわからない、つまるところ永久に文章とは何なのかを考えていかなくてはいけないのかもしれません。

三島由紀夫の文章読本に文章の正解を求めてみましたが、結論は得られませんでした。
しかし文章を書く上で参考になることが多く散りばめられいました。
とくにレクトゥールとリズールについては新たな視点を得られたと思いました。





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