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Covid-19の起源に関連して、よく繰り返される基本的な誤りについて-10 E28~E30 (終)

以下は、2021年8月に発表された、Some basic errors commonly repeated in relation to Covid-19 origins の日本語訳です。この記事では、E1からE30まである誤りのうち、E28~E30を掲載します。これが最後となります。最初から読む場合はこちらをご覧ください。

筆者: ジル・ドゥマヌフ

E28「中国で地域的アウトブレイクが発生したとしよう。それは定義上、どこかで発生しなければならない。だから、よりによって武漢で起こる機会は小さかったと事後に言っても意味がない。それはどこかで起きなければならず、たまたま武漢で起こったにすぎない」

確率論的な誤り:

これがなぜ正しくないかを知る簡単な方法は、武漢の地域的アウトブレイクが純粋に中立的な事後の無作為観測であるためには、中国の他の地域が武漢と同様に見える必要があることに気づくことである。

それで、コロナウイルスの研究に積極的に取り組んでいたBSL-3複合研究施設が武漢に少なくとも3か所 (2カ所の武漢ウイルス研究所、武漢疫病預防控制、武漢大学) あり、武漢の人口が中国の1%であることを考えると、中国にコロナウイルスの研究に積極的に取り組んでいるBSL-3複合研究施設が少なくとも300か所あれば、この議論は正しいということになる。

興味深いことに、中国にSARS類似コロナウイルスの研究に積極的に取り組んでいる複合研究施設が300か所あると言われても、現段階ではほとんどの人は、個々の確率をより詳細に検討するまでもなく、中国のどこかで発生したSARSのような地域的アウトブレイクの起源が研究所に関連したものである確率は (純粋に無作為な人獣共通感染症の事象と比較して) 無視できると直感的に考えるだろう。しかしこれは、BSL-3複合研究施設が3か所ある武漢で最初に観測された地域的アウトブレイクの可能性を、そこでの純粋に無作為の人獣共通感染症の地域的アウトブレイクと比較して考えた場合とまったく同じ確率であることが重要だ。

E29「COVID-19の地域的アウトブレイクが、確率的にどうであれ、研究関連の事故によって引き起こされたことを証明するものはまだない。だから、研究室での事故の可能性について話すのは意味がない」

論理的な誤り:

この誤りは驚くほどよく見られる。これがなぜ間違っているかを理解するのは簡単で、単にこのアウトブレイクが実際に純粋に無作為の人獣共通感染症という事象であることの証明もないのである。どちらについても、我々にあるのは状況証拠およびアウトブレイクの既知の特徴に付随する可能性がすべてである。

これに付随して、中国全体を考えた場合、SARSのような地域的アウトブレイクは研究室からもたらされるよりも自然起源の方がはるかに可能性が高いので、その可能性が実際には人獣共通感染症の起源の証明と同等である、というよくある主張は、別の誤解 (E6~E10参照) に基づいているため、ここではまったく支持されない。

E30「中国にあるコウモリのコロニーの近くの住民がSARS類似コロナウイルスの抗体を保有していることがわかっているので、実はこれは氷山の一角に過ぎず、SARS類似コロナウイルスが関係する人間のアウトブレイクは非常にありふれている」

確率論的な誤り:

まず、関心のある可能性についての混乱がある。つまり地域的アウトブレイクの可能性についてである。この可能性と、抗体検査で検出され得る局所的な人獣共通感染症のジャンプとの間には、巨大な隔たりがある。このような局所的なジャンプは、コウモリのコロニーの近くに住む農村部の住民のごく一部にしか検出されていない (王寧他の研究 [注26] では2.7%、李紅英他の研究 [注27] では0.7%と報告されている)。

コウモリと最も接触している一部の住民の抗体レベルがこれほど低いことから、このような住民の間の地域的アウトブレイクがそれほど一般的であるとは実際には考えにくい。これらの地域的な人獣共通感染症のジャンプの大部分は、単に全くどこにも行かず、感染した人々もほとんど気づかないのである (王寧他が指摘しているように、「感染は無症状か、軽症を引き起こすだけである」[注26])。

このように、SARS類似人獣共通感染症のアウトブレイクは、今日までに2つの事例 (SARSとMERS) が記録されていることから、その重要性は決して過小評価されるべきではないとはいえ、今でも標準的というより例外である。

論理的な誤り:

また、リスクの認識と実際のリスクレベルの間には、認知的な混乱がある。具体的には、コウモリのコロニーがSARS類似コロナウイルスの天然の病原巣であり、コウモリのコロニーの近くに住む人々の中にはSARS類似コロナウイルスの抗体を持つ人がいるかもしれないという知識があったからこそ、SARS類似コロナウイルスの波及のメカニズムの可能性に対する我々の認識が高まったのは確かだが、その知識があるからといって、リスクレベル自体が比例して高まったわけではないのだ。

これは、(ずっと極端な例ではあるが) 過去30年間に小惑星を追跡した結果、地球に小惑星が衝突するリスクが高まっていないことを観察するのと似ている。実際のリスクレベルにより大きな影響を与えるのは、住民とコウモリの間で起こりうる (おそらく中間宿主動物を介した) 接触の強さ、土地の利用、交通網の発達などを支配する傾向である。

[注26] 石正麗、ピーター・ダザック、王林発の共著である以下の論文では、コウモリの洞窟から1.1~6km離れた雲南省晋寧区の4つの村の住民218人のコウモリコロナウイルス抗体を、武漢在住の240人からなる対照群と比較している。その結果、晋寧では6人の住民がコウモリコロナウイルス抗体陽性となったが、武漢では1人も陽性とならなかった。王寧他「中国におけるコウモリSARS関連コロナウイルスの人間への感染の血清学的証拠」、2018年1月。https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6178078/ で閲覧可能。

[注27] 李紅英他:「中国南部の農村住民における人間と動物の相互作用とコウモリコロナウイルスの波及の可能性」、2019年11月。https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7148670/ で閲覧可能。

謝辞
本研究は、非公式のDRASTICグループの他のメンバーとの議論、彼らの洞察力と関連する公開情報を特定する能力 (中国語で書かれていることがよくある) から大いに恩恵を受けた。

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