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Covid-19の起源に関連して、よく繰り返される基本的な誤りについて-1 E1~E3

以下は、2021年8月に発表された、Some basic errors commonly repeated in relation to Covid-19 origins の日本語訳です。この記事では、E1からE30まである誤りのうち、E1~E3を掲載します。

筆者: ジル・ドゥマヌフ

目的:
武漢での最初のアウトブレイクから20カ月が経過し、推定1,200万人が死亡[注1]したが、Covid-19パンデミックの起源はまだ定まっていない。主に2つの有力なシナリオが議論されている。1つは、中間宿主の有無にかかわらず、標準的な人獣共通感染症の波及であり、もう1つは研究関連の事故である。議論を明確にするために、この論文では、Covid-19のこれらのもっともらしい起源に関連して定期的に行われるいくつかの誤りをレビューする。

注記:
今後、誤りを3つのタイプに区別する。
- 事実誤認 (事実関係を誤ること)
- 論理的 (正しいかもしれない事実から誤った結論を導くこと)
- 確率論的[注2] (事実を部分的に考慮して誤った確率を導き出すこと)

[注1] 2021年12月1日時点での過剰死亡者数の予測。
https://covid19.healthdata.org/global?view=cumulative-deaths&tab=trend

[注2] 確率論的誤りは、適切な訓練を受けていないと非常に犯しやすい論理的誤りの特殊な形態であり、しばしば大衆的知識と数学的に等価なものを生み出す。特に認知的不協和が生じている場合には、魅力的な一般化と、それに付随する、入手可能な重要情報を考慮しないという罠に陥ることで、最高の科学者自身がこの誤りをたやすく犯してしまうことがある。

E1「SARS-CoV-2はSARS-1の再来である可能性が高く、最初の症例は野生動物市場に関連している」

事実誤認:

市場仮説は、一連の非常に強い矛盾を抱えている。

● 華南海鮮市場の動物サンプルで陽性反応が出たものはなかった。陽性反応が出た唯一のサンプルは環境サンプルであり、これらは人間への感染と一致する。
● 現在、ほとんどの科学者は、最初に人間が感染したのは2019年10月中旬から11月中旬の間 (いわゆる最も近い共通祖先の時期、通称tMRCA) で、市場につながる最初の人間への感染よりもずっと前だという点で同意している。
● また、初期の人間への感染のうち、かなりの割合が市場とのつながりがなかった。

これらの要素に基づいて、華南市場は人獣共通感染症が人間へジャンプした場所ではなく、単に後から発生したスーパースプレッダーイベントである可能性が最も高いということが、今日では大方の認識となっている。この結論は、早くも2020年2月[注3]には中国の科学者自身による論文で発表されており、2020年5月には中国疫病預防控制中心自体も到達している

その後、市場起源仮説に反対する別の説得力のある論拠が提起された。すなわち、SARS-CoV-2にはAとBの2つの初期系統があり、華南市場の環境試料からはA系統だけが検出されなかった (B系統だけが検出された)。この発見は、AとBの両系統がやがて市内に広まった華南市場とはつながりのない、より早い共通祖先を示している可能性が非常に高い。

このより単純な説明と合致して、武漢の中心部にある人民解放軍中部戦区総医院で扱われた非常に初期の症例が、実際にはA系統とB系統の両方の祖先であることも指摘されている。この最新の観察結果は、市場自体と人民解放軍中部戦区総医院、およびCovid-19の初期の症例の多くがみな、市を横切る交通量の多い地下鉄の主要路線に沿って集合していることから、武漢地下鉄2号線の限られた公共交通機関を介した感染の拡大という、興味深くかつ思考節約的な可能性を提起している。

論理的な誤り:

一部の科学者は市場仮説のかなり複雑なバリエーションを仮定し、市場での流入を二重にして、系統Aはある不明な市場で人間にジャンプしたとすることで、この系統についての最新の発見を調和させようとしている。この解釈にとっては残念ながら、華南市場は系統Aの人獣共通感染症の発生場所ではなく、単にそれ以前の祖先によるスーパースプレッダーイベントであったという、はるかに思考節約的な説明[注4]がここでもされており、これは10月中旬から11月中旬というtMRCAと完全に一致している (E3参照)。

[注3] 以下を参照。(1) http://chinaxiv.org/abs/202002.00033 (添付ファイルあり):SARS-CoV-2の既知の最近縁種が出た鉱山からほど近い、雲南省の一般的なコウモリ採集地である西双版納熱帯植物園の2人のメンバーを含むチームによる中国の論文。この論文は2020年2月19日に初版が発表され、WHOの小規模チームが武漢に到着する前日の2月21日に改訂版が発表された。(2) https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7086142/(翻訳を参照):広州南方医大 (旧第一軍医大、人民解放軍傘下) 公衆衛生学部BSL-3実験室からの中国語論文で、2020年2月20日に発表され、tMRCAは19年11月10日頃[95%下限信頼区間 = 2019年9月23日]となっている。

[注4] この二重市場仮説に対する優れた批判的なレビューについては、ジェシー・ブルームによる最近のプレプリントを参照: https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2021.06.18.449051v1

E2「12月8日に発声した最初の公的な症例は、華南市場を訪れてはいないが、彼は地元の市場で買い物をしていた」

事実誤認:

最初の公的な症例 (「会計士」) は、買い物のために市場を訪れておらず、間違いなく生鮮市場も訪れていなかった。むしろ彼が良く行っていたのは江夏区のRTマートだった (武漢ウイルス研究所の鄭店サイトからそれほど遠くない川の東側にあり、華南市場がある西側ではない)。

RTマートは、ウォルマートやテスコのような現代的なスーパーマーケットのチェーン店である。当時はフランスのオーシャン (世界最大級のスーパーマーケットチェーン) と台湾のRTマートとの外資合弁事業で運営されていたが、オーシャンの株式が2020年にアリババに買収された。そこでは、生きているか死んでいるかに関わらず、野生動物や輸入動物は販売されていない。

E3「研究関連の事故により、SARS-CoV-2の1つではなく2つの系統 (AとB) が2つの異なる野生動物市場に広がったというシナリオは、合理化が困難である」[注5]

事実誤認:

2019年12月初旬に観察された配列では、A系統とB系統の違いは非常に小さかった。それでこのことは、19年10月中旬から11月中旬頃 (初感染の時期についての総意) の研究関連の事故と完全に一致している。感染者が2つの市場に到達する前に2つの系統に多様化する時間があったからだ。

論理的な誤り:

異なる系統を介して複数の市場で感染したという人獣共通感染症の代替説明は、2つの市場で2つの分離した系統が、市場ごとに1つずつ、個別に流入したことに依拠している。これまでにSARS-CoV-2の陽性反応が出た飼育動物や野生動物はないのに、もしウイルスのいた農場が2つあったのであれば、かなり広範囲に渡ってウイルスが存在していたことを示唆しているであろう。

また、中国のすべての都市の中で、可能性のある2つの農場からこれらの動物を受け入れたのが武漢だけとはとても考えられない。対照的に、中国の2つの都市 (武漢だけではない) に渡って、2つの市場でこれらの系統が検出されることがあれば、人獣共通感染症の二重市場流入仮説はよりよく裏付けられただろう。

[注5] 良い例としては、R・F・ゲイリーの「武漢の異なる野生動物市場でSARS-CoV-2の2つの異なるゲノム系統が早期に出現したことはSARS-CoV-2が自然起源であることを示唆する」を参照。
https://virological.org/t/early-appearance-of-two-distinct-genomic-lineages-of-sars-cov-2-in-different-wuhan-wildlife-markets-suggests-sars-cov-2-has-a-natural-origin/691

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