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Covid-19の起源に関連して、よく繰り返される基本的な誤りについて-9 E25~E27

以下は、2021年8月に発表された、Some basic errors commonly repeated in relation to Covid-19 origins の日本語訳です。この記事では、E1からE30まである誤りのうち、E25~E27を掲載します。最初から読む場合はこちらをご覧ください。

筆者: ジル・ドゥマヌフ

E25「あのデータベースに何が入っていたかは、科学者はすでに知っているし、そこにあるデータは、 石正麗自身が説明しているように、すでに発表されている」

事実誤認:

a. 研究者は、同定したすべての配列を体系的に公開するわけではない。一般的には、論文の対象となった配列だけが公開され、データベースで利用できるようになる。実際、武漢ウイルス研究所の研究者がまだ論文に書いていない配列を公開することに意味はない。というのは、配列から完全なゲノムを合成することが比較的容易になった現在では、他の研究者が彼らの研究成果にアクセスして、これらのウイルスについて興味深い論文を書くかもしれないからだ。

袁志明によると [注16]、

「中国科学院武漢国家生物安全実験室長かつ武漢ウイルス研究所の研究者である袁志明によれば、[武漢ウイルス研究所は]生の研究を科学論文の形で提示し、続いて裏付けとなるデータを適宜公開しているとのことである。これは科学界では一般的な慣習である」。

b. ピーター・ダザック自身も、これらの配列やサンプルのデータベースにアクセスできないことを非難したことがある。2020年4月のNPRのインタビューで、彼は次のように説明している。

「アメリカ人としてやって来て、「あなた方がどんなウイルスを手に入れたか知りたい」とは言えません」とダザックは言う。「現地と協力し、政府の許可を得て活動しなければなりません」。

そして、彼は2020年12月10日のメッセージでもこう書いている。

「@RudyGulianiの思慮の浅い妨害のおかげで、@realDonaldtrumpの下で資金提供された@EcoHealthNYCへの助成金が@NIHDirectorによって打ち切られ、今ではCOVIDの起源を理解するのに役立ち、ワクチンの改善に使用できる重要なサンプルにアクセスすることができない」。

c. これはまた、武漢ウイルス研究所での最近の研究の目的そのものが、新しい、つまり未公開のウイルスの病原性を研究することであったという重要な事実を無視している。

2019年の科学調査 (2019年7月開始) によると、

[15] (4) 10種類の重要な新種ウイルス/株の病原特性分析を完了する。このうち、少なくとも5種類の重要な病原性新種ウイルスについては、細胞レベルおよび小動物レベルでのバイオセーフティ・リスク評価に基づいて扱われるべきである。

d. 最後に、これはDBの説明および未公表のウイルス用にパスワードで保護されたセクションが存在することと完全に矛盾している。説明文 (英訳) を参照。

「一部のデータの使用権のため (ウイルス配列が発表されていない、ウイルス配列がNCBI (アメリカ国立生物工学情報センター) にアップロードされていない、サンプル採取地の野生動物サンプル情報を公開できない場合を指す)、ユーザーがこの部分のデータにアクセスして使用する必要がある場合は、このデータベースの担当管理者に連絡し、本人確認と認証を経てプラットフォームのログインアカウントパスワードを入手してから、プラットフォームにログインして関連データを使用することができます」。

E26「墨江の鉱山労働者」の死は、「真菌感染の方がより説明しやすい」ものだった

事実誤認:

最初の鉱山労働者が死亡した後に相談を受けた謝燦茂医師は、入院中の3人の患者 (若い2人は退院していた) について、確かに真菌感染の可能性があると診断した。この診断は、3人の患者のうち2人の様々な病因検査を (鉱山労働者たちが入院していた昆明を拠点とする) 成都軍区疫病預防控制に送ったところ、SARS-CoV感染についてすべて陰性であったことに基づいている部分がある。

2人目の鉱山労働者の死後、代わって相談された中国のSARSの第一人者である鍾南山教授は、SARS類似コロナウイルスによる一次感染の可能性が高く、一部の症例では二次的な真菌感染 (肺アスペルギルス症) の可能性もあると診断した。これは以下に基づいている。(1) 症状、(2) 少なくとも1人の鉱山労働者が抗真菌治療に反応しなかったこと、(3) 生存していた4人の鉱山労働者 (昆明疫病預防控制で陰性と判定された2人を含む) が、武漢ウイルス研究所で代わりに行われたSARSコロナウイルス抗体検査 (IgMとIgG) で陽性であったこと。

これらの詳細を記した修士論文は、次のように結論づけている。

「上記の症例と関連する調査に基づくと、重度の肺炎を引き起こした未知のウイルスは、シナキクガシラコウモリからのSARS類似コロナウイルス、あるいは他のSARS類似コウモリコロナウイルスの可能性がある」。

重要なのは、武漢ウイルス研究所と、特に石正麗自身を攻撃していることである。

「中国科学院傘下の武漢ウイルス研究所の石正麗と張淑儀の両科学者が2005年に『サイエンス』誌に発表した論文では、コウモリが保有するSARS類似コロナウイルスは人間に伝染しないと結論づけている。この矛盾は、この6例の重要性を示している」。

そして、こう提言している。

「6人の患者が全員、大量のコウモリとその糞にさらされ、糞の粉塵も吸い込んでいたことを考えると、同じ洞窟内で生きたコウモリとその糞をサンプリングすることが重要である」。

これがまさに起こったことである。雲南省の鉱山や近隣の地域で定期的にサンプリングが行われ、やがて人間に直接感染する可能性のあるコウモリSARSコロナウイルスの発見と、石正麗が著者としてその発見を発表した2013年の重要な論文につながり、したがってSARSコロナウイルス感染らしき診断に基づく修士論文の予測が完全に立証されたのである。

石正麗と武漢ウイルス研究所は、武漢ウイルス研究所が実際に返送した4回のコウモリコロナウイルス検査のうち陽性であった4例以外に鉱山労働者の症例に直接触れたことがないにもかかわらず、さらに修士論文の予測を自ら検証していたにもかかわらず、何らかの理由で (おそらく修士論文が公然と批判したため)、鉱山労働者の死因はコウモリコロナウイルスの感染ではなく、むしろ真菌感染であると示唆したのである。

2013年のほぼ同時期に、オリーバルおよびエプスタイン (エコヘルス・アライアンス) とワチャラプルエサディーが執筆した論文で、コウモリのグアノを介したコウモリコロナウイルス感染のリスクが正確に強調されている (墨江の鉱山労働者については一切触れていない)。その論文は主に、2006年から07年にかけてタイの有名なコウモリの洞窟においてDARPAプロフェシープログラムの下で収集された (「エコヘルス・アライアンス」のプレディクトプログラムは2009年以前には設立されていない) 冷凍グアノを用いつつ、コウモリのグアノ収集者におけるベタコロナウイルス感染のリスクに焦点を当てているが、次のようにも言及している。

「コウモリは、人間にヒストプラスマ症を引き起こす真菌病原体 Histoplasma capsulatum を含む非ウイルス性の人獣共通病原体を保有し、伝染させることも知られている (5)」。

したがってこの論文は、それに至った突然の直観らしきものとは無関係に、鍾南山博士が診断した一次感染と二次感染に対するもっともな説明を提供している。

E27「武漢ウイルス研究所では、コロナウイルスを培養・分離することは非常に困難なため、行っていない」

事実誤認:

a. 2013年から2020年にかけて、武漢ウイルス研究所はいくつかのSARS類似コウモリコロナウイルスの培養と分離に成功した。論文の対象となったこれらの既知の分離株は以下の通りである。WIV1 (Nature、2013年)、SL-CoV Rs4874 (PLOS、2017年)、WIV16 (JVI、2016年)。いずれも雲南省の同じ洞窟で、コウモリ (R.sinicus) から採取されたものである。[注22]

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b. 武漢ウイルス研究所では、ウイルス分離技術の向上に長年取り組んできた。

● 主な技術は、楊興婁准研究員が何年もかけて探求し、最適化して確立したもので、武漢ウイルス研究所でのコウモリコロナウイルスの研究において重要な役割を果たしている。

● 周鵬 [注23] は最近、「現在の細胞株に比べて、受容体密度、自然免疫の抑制、および現在のすべての方法でしているような細胞変性効果 (CPE) に頼らずに感染を読み取るという点で大幅な改良をもたらす、ウイルス分離専用に遺伝子操作された細胞株」の確立により改良するという仕事をした。

論理的な誤り:

c. ウイルスが分離できるかどうかはむしろ議論の余地のある問題である。別の手段としては、逆遺伝学があり、分離されていないウイルスのSタンパク質を既存のバックボーン (WIV1やSHC014など) に落とし込むだけで、キメラウイルスを作ることができる。結果として構成されるものは、キメラが複製できるとは限らないという意味で、常に成功する (または「救済される」) わけではないが、これはかなり簡単な手段である。

例えばSHC014 (2013年) は、武漢ウイルス研究所での培養・分離には成功しなかった。しかし、2015年にラルフ・バリックと石正麗が率いるチームが、マウスに適応したSARSコロナウイルスのバックボーン (MA15、若いマウスの呼吸器で15回継代して適応させた野生型SARS-CoV (ウルバーニ株)) にSHC014の表面タンパク質を挿入することで、ヒトHeLa細胞株への感染に成功したキメラウイルスを構築した。その実験のために、石正麗はSHC014スパイクの配列とプラスミドを、実験を行ったノースカロライナ大学チャペルヒル校のチームに提供した。

その直後の2017年、石正麗率いるWIVのチームは、異なるコウモリSARSコロナウイルスのS遺伝子を用いた7つの候補のうち、WIV1をバックボーンにして2つのキメラ (WIV1-Rs4231SとWIV1-Rs7327S) を作ることに成功した (胡犇他)。この2つのキメラと、新たに分離されたRs4874 (S遺伝子がWIV16とほぼ同じ) は、いずれもヒトHeLa細胞への感染に成功した。

d. ここ数年、コロナウイルスの完全なゲノムを、その配列から合成したバージョンを作成することも可能になっており、そのような作業を安価に行うことに特化した企業が存在する [注24]。したがって、必要なのは優れたコンセンサス配列だが、これは通常、ウイルスを分離する必要なくサンプルから回収することができる [注25]。

[注22] 石正麗は、『Science』誌とのQ&Aで、3つの分離株しか確認していない。これらの分離株の由来については、https://journals.plos.org/plospathogens/article?id=10.1371/journal.ppat.1006698 を参照

[注23] 周鵬は、武漢ウイルス研究所の石正麗と共同研究しているが、シンガポールのデューク-シンガポール国立大学医学大学院の王林発とも定期的に共同研究している。

[注24] この業種に特化した企業には、BioBasic、GenScript、Beijing SBS Genetech Co. Ltd.、Shanghai Medicilon inc.、他多数がある。

ある興味深い実験で、スイスのチームが、GenScript社から注文されたDNA断片を受け取った後、1週間でSARS-CoV-2の合成バージョン (業界用語では「感染性クローン」) を作ることができた。

https://onezero.medium.com/swiss-scientists-have-recreated-the-coronavirus-in-a-lab-d12816bfdbe3 および対応する『Nature』の論文 https://www.nature.com/articles/s41586-020-2294-9 を参照。

[注25] バリック博士は、2006年の論文の中で、この技術の可能性と危険性について、優れた本質的な分析を行っている (これは今日でも有効である) - 必読である。
http://oastats.mit.edu/bitstream/handle/1721.1/39658/Commissioned%20Papers%20Synthetic%20Genomics%20Governance.pdf?sequence=1&isAllowed=y

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