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Covid-19の起源に関連して、よく繰り返される基本的な誤りについて-7 E19~E21

以下は、2021年8月に発表された、Some basic errors commonly repeated in relation to Covid-19 origins の日本語訳です。この記事では、E1からE30まである誤りのうち、E19~E21を掲載します。最初から読む場合はこちらをご覧ください。

筆者: ジル・ドゥマヌフ

E19「武漢の研究所からウイルスが漏れるはずがない。武漢ウイルス研究所のBSL-4実験室は非常に安全だ」

論理的な誤り:

a. 武漢のBSL-4は、Covid-19のアウトブレイクの起源としての研究室からの流出の可能性についての議論とは、実際にはほとんど無関係である。実際、SARS類似コウモリコロナウイルスの研究のほとんどはBSL-2またはBSL-3で行われ、BSL-4では全く行われなかった。また、中国は2017年にBSL-4を開設する前から、SARS類似コウモリコロナウイルスの研究を何年も行っていたことも忘れてはならない。つまり基本的に、武漢のBSL-4は単に無視して、代わりにSARS類似ウイルスの研究のほとんどが行われたBSL-2とBSL-3に焦点を当てることができる。[注16]

b. 武漢ウイルス研究所がある鄭店 (P4があるところ) には、20室のP2と2室のP3もあり、これらはP4とは異なり、コロナウイルスの研究に関連している。付け加えると、武漢ウイルス研究所は小洪山にある古いサイトでもコロナウイルスの研究をしていたらしいが、そこにはより多くのP2とP3がある。

c. 武漢の他の少なくとも3つの機関がコロナウイルスの研究をしていたことが知られている (武漢CDC、武漢大学ABSL3、武漢生物制品研究所)。他にもそのような研究を行っていた可能性がある機関がいくつか存在する (湖北省動物疫病預防控制中心、華中農業大学)。

d. 研究関連の事故仮説は、研究室での事故にとどまらない。この仮説には、完全な個人防護具が使用されない (「通常の」保護のみ、E22参照) のが普通であるフィールドサンプリング中の感染の可能性も含まれる。

事実誤認:

e. 武漢ウイルス研究所のP4がコロナウイルスの研究とは関係ないとしても、研究室獲得感染はすでにP4で起きたことがある。最も有名なのは、2003年12月に台湾の軍用P4ラボ18で発生したSARSの研究室からの流出 [注18] や、2007年にイギリスで発生した口蹄疫のアウトブレイクで、ABSL-4施設のパイプの不具合が原因であった可能性が非常に高い。

f. そのリスクは実際に中国で理解されていた。遡って2015年、中国共産党が所有し、中国政府の政策の指針としてよく使われる英字新聞「China Daily」は、「P4研究室の潜在的リスクと戦う用意をせよ」と題した記事を掲載した。この記事では、中国初のP4研究室が開設されたことを歓迎する一方で、バイオセーフティレベルの高い研究室の管理・維持・監督に関する既存の問題点を改めて指摘している。

「しかし、政府は同様に危険な病原体や外来の病原体の研究に対する監督・監視を厳格化し、そのような研究が行われている施設の管理を強化しなければならない。その上、リスクに対抗するために用意されたツールは、戦いに備え、良く管理して時間内に適切に機能することを保証し、裏目に出て人民に害を及ぼすことがないようにしなければならない。
これは非常に重要なことである。国家として、2004年のような病原体の流出事故を二度と起こすわけにはいかないのだ」。
[注:2004年に北京で発生したSARSの研究室事故を指している]

[注18] この軍用P4 (台湾國防大学予防医学研究所、設備はフランスだが設計は異なる) は、スーツラボではなくキャビネットラボであったことを明確にしておく。つまり、P4の作業は特別なバイオセーフティーキャビネット (グローブボックスとも呼ばれる) の中で行われ、研究者が完全なP4ルーム内を防護服を着て移動することはなかった。

E20「BSL-2およびBSL-3の研究室は非常に安全である」

事実誤認:

a. SARSのような病原性ウイルスに関するいくつかの作業は、石正麗や他の情報源によって確認されたように、確実に武漢のBSL-2で行われていた。[注19] BSL-2は、SARS-1やSARS-CoV-2のような空気感染する病原体を扱うにはまったく不十分なバイオセーフティーレベルである。

b. ブルセラ症 (感染力は高いが、幸いなことに人間の間で伝染することは非常に稀な病気) を例にとると、最近の研究で、中国の研究室で12年間に10件のLAIが発生し、BSL-2レベル (推奨されるバイオセーフティレベルの下限) が典型であったことが示された。この研究には、蘭州で発生した、期限切れの消毒剤とワクチン工場での流出が引き起こした3ヶ月間のエアロゾル排出による10,528人の直接感染は含まれていない。[注20]

c. BSL-3研究室での事故は定期的に起きている。例えば、2年間にSARSの研究室獲得感染症 (LAI) の第1次症例が1件ではなく6件発生したことがある。シンガポールのP3で1件、台湾軍のP4で1件、そして残りの4件の第1次症例は、当時の中国の超一流のウイルス研究所 (北京にあったウイルス研究所、当時の武漢ウイルス研究所に相当) のP3で発生した。最近公開された電子メールによると、2020年1月か2月に、同じ北京のP3でSARS-CoV-2のサンプルを扱っていた上級研究者が感染しており、その単一施設でSARSまたはSARS関連ウイルスに感染した5件目のLAIとなっている。

[注19] 「私たちの研究室でのコロナウイルスの研究は、BSL-2またはBSL-3の研究室で行われています」と、石正麗が「Science」への回答で述べている (https://www.sciencemag.org/sites/default/files/Shi%20Zhengli%20Q&A.pdf)。武漢ウイルス研究所でのSARSのような研究がBSL-2条件で行われた例については、https://journals.asm.org/doi/10.1128/jvi.03079-15 も参照。武漢ウイルス研究所に設置されていたウイルスリソースセンターには、BSL-2作業の材料として、コウモリや齧歯類のコロナウイルスが掲載されていた。https://bit.ly/2UGg0Oc を参照。

[注20] その事例について財新が良いレビューを提供している。
https://asia.nikkei.com/Spotlight/Caixin/China-s-quiet-brucellosis-outbreak-sickens-thousands-in-northwest。

E21「中国には自国の研究所が安全で、SARSのような病原性ウイルスを扱えるという確信がある」

事実誤認:

a. 2020年9月現在、中国にある112か所ほどのBSL-3研究室の多くはうまく運営されていると思われるが、P3の全体像を見ると、かなり未熟なバイオセーフティシステムが改善を必要としている兆候が見られる。例えば袁志明博士は、パンデミックの前に中国の多くの研究室の構造的問題を繰り返し非難していた。最近では、2019年10月に、次のように書いている。

● 「投資源、所属、管理システムの違いのために、これらの研究室での研究の実施は、目的および協力ワークフローの収束についての困難に直面している。このシナリオでは、実施効率とタイムリーな運営が相対的に損なわれるため、実験室のバイオセーフティを危険にさらすことになる」。
● 「いくつかの高レベルBSLでは、日常的かつ核心的なプロセスのための運用資金が不足している。リソースが限られているため、BSL-3研究室の中には極めて少ない運用費で動いているところもあり、場合によっては運用費が全くない」。
● 「現在、ほとんどの研究室にはバイオセーフティーの専門的な管理者や技術者がいない。そのような施設では、非常勤の研究者が熟練したスタッフを構成していることがある。このため、施設や設備の操作における潜在的な安全上の問題を十分早期に発見し、軽減することが難しくなっている」。

b. このような構造的な問題から、過去15年間に地方および全国レベルで、実験動物の転売の阻止からバイオセーフティ規制の統一まで、バイオセーフティの複数の側面を網羅する定例法改正が行われた。

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