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Covid-19の起源に関連して、よく繰り返される基本的な誤りについて-5 E13~E15

以下は、2021年8月に発表された、Some basic errors commonly repeated in relation to Covid-19 origins の日本語訳です。この記事では、E1からE30まである誤りのうち、E13~E15を掲載します。最初から読む場合はこちらをご覧ください。

筆者: ジル・ドゥマヌフ

E13「SARS-CoV-2が武漢ウイルス研究所にあったことは一度もないので、研究関連の事故仮説は非常に考えにくい。ウイルスの配列が決定されたこともない」

論理的な誤り:

a. 最初の誤りは、研究関連の事故シナリオとして研究所での偶発的な放出にのみ焦点を当てていることだ。最も思考節約的な起源の経路は、まったく異なるタイプの研究関連の事故、すなわちコウモリの野外サンプリングに関わった人の感染である。このようなシナリオでは、ウイルスはこれまでサンプリングされたことがないかもしれず、その運命的な旅でもサンプリングされていないかもしれない。 感染した、ひょっとしたら無症状のフィールドサンプラーの体の中では、ウイルスが武漢に初めて到着したまさにその時には知られていなかっただろう。

b. 2つ目の誤りは、武漢ウイルス研究所だけに焦点を当てていることだ。CDCの様々な研究室、いくつかの大学の研究室、武漢生物制品研究所など、武漢の他の研究室や機関は、コロナウイルスの研究を積極的に行っていることが知られている。

事実誤認:

c. 証拠がないのにウイルスの配列が決定されなかったと述べるのは事実誤認である。どのウイルスが部分的に (通常はRdRpのみ) あるいは完全に配列決定されたのか、我々には単純にはわからない。実際、武漢ウイルス研究所のすべてのウイルスとサンプリングのデータベースは、年表とまったく整合性が取れない公式の理由により、2019年9月からオフラインになっている [注15]。そして、正当な理由なく、これらのデータベースはいまだにオンラインに戻されていないか、あるいは単に他の手段で国際的な研究者が利用できるようになってはいない。ゆえに、確認する方法がない。

d. さらに悪いことに、データベースの主な説明にあるように、また袁志明が確証したように [注16]、これらのデータベースでは、論文の題材となったウイルスの配列のみが公開されている。パンデミック直前の数年間に中国政府が設定したコロナウイルス研究プロジェクトは、特に未発表の新種ウイルスに焦点を当てていたことを考えると、武漢で行われた最新の病原性研究の基礎となったこれらのウイルスの配列は、通常は公開されることはなかったということになる。

[注15] 例えば、中国グローバルテレビジョンネットワークのこの記事を参照。「研究所流出説の重要な部分は、武漢ウイルス研究所が2019年にサンプルデータベースをオフラインにしたことに焦点を当てている。これは騒ぐほどのことではない。武漢ウイルス研究所のウェブサイトや従業員のプライベートな電子メールまでもが、パンデミックのアウトブレイク以来、悪意のあるサイバー攻撃の波を受けていることは周知である」。より詳細な議論と正確な年表は、このレポートを参照。

[注16] 中国グローバルテレビジョンネットワークのこの記事を参照。「中国科学院武漢国家生物安全実験室長かつ武漢ウイルス研究所の研究者である袁志明によれば、武漢ウイルス研究所は生の研究を科学論文の形で提示し、出版の後に裏付けとなるデータを適宜公開しているとのことである」。これはメインDBについての説明と合致する。「一部のデータの使用権のため (ウイルス配列が発表されていない、ウイルス配列がNCBI (アメリカ国立生物工学情報センター) にアップロードされていない、サンプル採取地の野生動物サンプル情報を公開できない場合を指す)、ユーザーがこの部分のデータにアクセスして使用する必要がある場合は、このデータベースの担当管理者に連絡し、本人確認と認証を経てプラットフォームのログインアカウントパスワードを入手してから、プラットフォームにログインして関連データを使用することができます」。

E14「中国におけるSARSのようなアウトブレイクは、研究室での事故よりも、何らかの動物との自然な遭遇によって引き起こされる可能性の方がはるかに高いので、最近のエピデミックが研究室での事故によって引き起こされたかもしれないと言うのは単純に非科学的で議論する価値はない」

確率論的な誤り:

中国全体では、SARSのようなアウトブレイクが人獣共通感染症波及イベントによって引き起こされるリスクの方が、研究関連のアウトブレイクのリスクよりも高いという可能性はあるが、よりによって武漢で始まったアウトブレイクを考えると、この結果を単純に一般化することはできない。研究関連のアウトブレイクのリスクが容易に優勢になる可能性が存在する。

これは宝くじのアナロジーで例えられる。人獣共通感染症の波及とコロナウイルス研究の事故が、中国で販売されている2つの宝くじだと想像しよう。武漢は、これらのコロナウイルスのサンプリングや活発な研究を行っている中国の研究所の大半を有しているため、中国で販売されているコロナウイルス研究事故という宝くじ券の大部分を購入している (中国全土のコロナウイルス研究の約半分と見積もっていいだろう)。

同時に、武漢は全国の人獣共通感染症の波及という宝くじの1%未満しか購入していない。なぜなら、武漢は中国の人口の1%未満であり、コウモリの集団への直接的な暴露はせいぜい平均的なもので、中国にある人口100万人以上で交通の便が良く、野生動物市場がある110以上の都市の1つに過ぎないからだ。

その結果、武漢が宝くじに当選したと言われた場合、武漢は中国の平均的な場所と比較して、人畜共通感染症の波及という宝くじよりも研究関連の事故という宝くじの当選券を持っている可能性が非常に高くなる。これも、武漢が中国で入手可能な研究事故の宝くじの大半を購入したが、波及の宝くじはせいぜいそれなりの (わずかな) 部分でしかないという単純な威力によるものである。

このことから、人畜共通感染症の波及対研究事故の相対的な確率あるいはオッズは、どの都市の宝くじが当たったかによって大きく異なることがわかる。したがって、中国全体から武漢に一般化するのは全くの誤りである。

E15「研究関連の事故仮説の背後にある場所の論議は、全く有効ではない。その例を挙げよう。SARS-1は、最も類似したウイルスを持つコウモリの集団がいる雲南省から600マイル離れた場所で始まった。武漢にはむしろ野生動物市場があり、交通の便も良いので、アウトブレイクは武漢で始まった」

論理的な誤り:

a. ここでの問題は、この意見が場所と距離を混同していることだ。場所の論議は距離の論議ではない。極端なことを言えば、中国のどこかに天然ウイルスの宿主集団が生息していて、そのウイルスが中国のどこか (その天然宿主集団の近くだけではなく) で同じように簡単に最初のアウトブレイクを引き起こすと完全に仮定することができ、その結果、距離の議論は無効となる。この極端な仮定は、アウトブレイクが武漢で始まったという事実 (場所の議論) の重要性に何ら影響を与えない。

実際、人獣共通感染症の波及仮説に関する限り、武漢に特別なことは何もない。武漢は中国にある人口100万人以上で交通の便が良く、野生動物や飼育動物が販売されている中国の110以上の都市の一つに過ぎない。野生動物や飼育動物が手に入り、交通の便が良いということは、ウイルスが元の宿主集団からこれらの都市の多くに1,000マイルも移動することは実際に説明できるが、そのウイルスが武漢だけに移動する理由は全く説明できない。

b. さらに、実際にウイルスが宿主に潜んで雲南から武漢に移動したのであれば、そのような移動に最も適した宿主は野生動物や飼育動物 (これらはよりによって武漢を説明できない) ではなく、中国におけるコウモリコロナウイルス研究のまさに中心地である武漢へきちんと戻る前の、雲南で定期的にコウモリをサンプリングしていた多くのフィールドサンプラーの一人である可能性が高いという論議も可能である。

このことは、動物宿主仮説の問題点である感染源での動物宿主の検出がないことの説明にもなるし、これまでにウイルスが検出されていないことと完全に一致する。ウイルスは武漢で以前にサンプリングされたり接触されたりしたことはなく、その運命的な旅でもサンプリングされなかったのかもしれない。

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