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Covid-19の起源に関連して、よく繰り返される基本的な誤りについて-4 E10~E12

以下は、2021年8月に発表された、Some basic errors commonly repeated in relation to Covid-19 origins の日本語訳です。この記事では、E1からE30まである誤りのうち、E10~E12を掲載します。最初から読む場合はこちらをご覧ください。

筆者: ジル・ドゥマヌフ

E10「人獣共通感染症のジャンプは常に起こっている。毎日のように何らかの新しい病原体が人間に感染していると推定される。したがって、研究関連の事故よりも自然の人獣共通感染症のイベントの方がはるかに可能性が高い」

論理的な誤り:

人畜共通感染症のジャンプは常に起こっているかもしれないが、より重要なのは、これらの人畜共通感染症のジャンプの大多数はどこにも行かないということである。結局のところ、ヒトコロナウイルスのパンデミックは20年間で数回起こっただけで、1日1回ではない。これと全く同じように、「研究関連の事故は常に起こっている」と言うこともできるが、幸いなことに、アウトブレイクに至ることはそれほど多くなく、パンデミックに至ることもほとんどない。どちらの意見も等しく有効であり、それだけではどちらの仮説がより可能性が高いかを区別するのには役立たない。

確率論的な誤り:

E8と同様に、この意見には研究関連の事故のオッズを過小評価する不正確な地理的一般化も含まれている。

E11「研究室が引き金となってパンデミックが発生した例は過去になく、せいぜい数回の局所的なアウトブレイクにとどまる。したがって、COVID-19が研究関連の事故の結果であるという考えはほとんど意味をなさない」

論理的な誤り:

実際には、世界には、研究室関連の事故の重要な例は世界中に存在する。そのうち中国で起こったものがかなり多い。例えば、

● 2003年に中国雲南省のある大学で発生したハンタウイルスのアウトブレイクは、研究室のネズミと安全対策の甘さが原因だった。

● 2004年2月、当時中国で最も優れたP3研究所であった北京のCDC病毒病予防控制所 (NIVDC) において、SARSの研究室獲得感染の第1次症例が2件発生した

● 2004年4月、北京-安徽省間でSARSのアウトブレイクが発生し、北京および1,000マイル離れた安徽省で約1,000人が隔離された。この原因は、同年2月に北京ですでに2件の研究室獲得感染 (LAI) が発生していた同じ北京病毒病予防控制所でのLAIであった。

● 2006年から2017年までに中国で発生した合計10件の独立したブルセラ症研究室獲得感染 (LAI) -原因はすべて安全対策の甘さ - には、2011年にハルビン (中国) で発生した28人の感染を含め、続いて2019年11月に蘭州 (中国) で発生した大規模なブルセラ症の事故 (感染者10,528人) が含まれる。繰り返すが、対策が貧弱なことが原因である。

● USRTKが公開した電子メールのやりとりによると、2020年1月または2月上旬に、またしてもまったく同じ北京のCDC病毒病予防控制所 (NIVDC) の上級研究員がSARS-CoV-2の研究室獲得感染を起こしている。

このように、中国ではブルセラ症とSARS類似ウイルスが実験室関連事故の原因となる一般的な病原体であることがわかる。研究室関連の事故がアウトブレイクや潜在的にパンデミックにつながるかどうかは、病原体自体の特性と研究室の地域性に大きく左右される。

ブルセラ症は人間の間で感染することが非常に少ないため、中国での多くのLAIの原因となってはいても、これらの事故が人への感染拡大やパンデミックを引き起こすことはなかった。しかし、SARSのような空気感染する病原体で、(SARS-CoV-2のように) 多くの無症候性キャリアを持つ、特に人に感染する能力の高い病原体に焦点を当てた研究の場合、研究室関連の感染にアウトブレイクが続き、そしてそこからパンデミックが続くリスクは明らかに大幅に高くなる。特に、有効性が不十分なバイオセーフティレベルかつ都会の密集地でその研究が行われている場合はなおさらである。

したがって、ほとんどのLAIは局所的なアウトブレイクにとどまり、パンデミックにはならないという論議は、基本的に下記の主要なリスク要因を考慮していない誤った一般化である。

1. 研究室の地域性
2. 病原体自体とその疫学的特徴
3. その病原体が取り扱われているバイオセーフティーレベルの有効性

確率論的な誤り:

E8と同様に、この意見には研究関連の事故のオッズを過小評価する不正確な地理的一般化も含まれている。

E12「これまでに未知ではあるが病原性のあるウイルスが実験室で感染した例は記録されていない。したがって、研究関連の事故の可能性は非常に低い」

論理的な誤り:

この一般的な主張は、上記のE11のバリエーションで、「未知」というキーワードに焦点を当てている。この論議の背景にある考えは、そもそも研究室にあることが知られていない病原体のLAIは存在し得ないというものだ。残念ながら、この議論は様々な点で無効である。

武漢の様々な研究室がコウモリコロナウイルスの研究をしていたことが知られている。しかし、

● これらの病原体の多くは一度も発表されておらず、武漢ウイルス研究所のウイルスデータベースの公開セクションで利用できるようになっていない (すべてオフラインになっている)[注12]。データベースや研究室の記録などのデータへのアクセスが認められなかったため、これらの研究室にどのような病原体が存在していたのか、物理的な形 (培養された状態) でも、よく知られているように物理的な形をかなり迅速かつ安価に合成できるシリコンの形 (配列) でも、単純にわかっていない。

● さらに武漢の研究者自身が、どのウイルスが細胞培養に存在していたか、一見して成功したのかしなかったのか、あるいはそこでどのような組み換えが行われたかを正確に知らない可能性もある。[注13]

● また、研究者は必ずしも、研究室に持ち帰られたコウモリの中にどのようなウイルスが存在するかを、完全に証明されているかのように知ることはできないだろう。[注14]

● 最後に、フィールドサンプリングの旅の途中での研究者の感染には、これまでサンプリングされたことのない、つまり全く未知のウイルスが関与している可能性が非常に高い。

[注12] DRASTICのこの論文 (特に2ページ目と6ページ目) と、武漢P4の室長である袁志明が確証していることも参照。「それでも、これは武漢ウイルス研究所が生のデータを隠していることを意味しない。中国科学院武漢国家生物安全実験室長かつ武漢ウイルス研究所の研究者である袁志明によれば、武漢ウイルス研究所は生の研究を科学論文の形で提示し、出版の後に裏付けとなるデータを適宜公開しているとのことである (強調は筆者)。これは科学界では一般的な慣習である」。
https://news.cgtn.com/news/2021-07-29/Why-WHO-s-second-origin-tracing-plan-defies-science-12hKjwEWuhW/index.html

[注13] 例えば、スタンフォード大学のデビッド・レルマン博士が起こりうる事故のシナリオについて述べているこのインタビューのセクション3を参照。

[注14] 例えば、2009年にはすでに武漢ウイルス研究所でコウモリが時々保持されており、少なくとも2017年からはコウモリが飼育されている。この年表と関連資料を参照。

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