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#41 お守りさん/泖

【往復書簡 #41 のやりとり】
月曜日:及川恵子〈A3用紙に、詰まっている〉
水曜日:泖〈壊れても傷ついても〉
金曜日:くろさわかな

壊れても傷ついても


わたしの ”お守りさん” はこちらです。

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もう3年前でしょうか。これは友人たちと岩手県一関市にある猊鼻渓の舟下りに行ったとき、ナイスなお土産屋さんで購入した(本当は暗闇で光る)クマのキーホルダーです。

一目惚れして、購入したあとは車のキーにつけて肌身離さず持ち歩いていたのですが、見てお分かりの通り、キーホルダーの命綱とも言っていい「つなぎめ」が壊れてしまったのです。

このクマがわたしのそばにいるだけでものすごくハッピーになれました。見てくださいこの穏やかなお顔。あるべくして、そこに配置されている目と鼻と口。そして胸についているネクタイらしきとんがった飾りもの。極め付けは、堂々すぎる仁王立ち。このクマが一緒にいると感じるだけで、ウキウキと心が躍りました。

でも、あるとき、壊れてしまった。

ものすごくショックで、こんな声が出せたんだと自分の意外な一面を発見するくらい「えぇぇ……(※声色はご想像にお任せします)」と声を上げてしまいました。一人、部屋のなかで。

キーホルダーの役割がなくなったとはいえ、「捨てる」という選択肢は自分の中にありませんでした。「もう一度猊鼻渓のお土産屋さんに行って同じものを買う」という選択肢も頭をよぎりましたが、わたしはもうこのクマじゃないとダメだと思ってしまったんです。

もう持ち歩けない。これを想像するとすごく悲しい気分になって、自分の利き手が無くなったような感覚になりました。どうにか持ち歩きたい。でも持ち歩けない。じゃあどうする。これしかもう方法はない。という感じで、いまは財布の小銭コーナーに入れて持ち歩いています。

ちなみに「じゃあどうする」から「これしかもう方法はない」までの流れには2年くらい費やしました。そのくらいわたしの中ではデリケートな問題として扱われていたのです。財布に入れるという案は、クマが壊れてから割と早い段階で出されていたんですけど、もっと傷つけることになるかもしれないと思ったら「部屋のデスクに飾って見守ってもらっていたほうがクマも幸せなのでは」という結論に至り、持ち歩くという案を一度却下したのです。

しかし。やはり、持ち歩きたい想いが勝ちました。今年の4月から財布に入れて持ち歩いています。財布の小銭コーナーを開けるたびに、「あ…… クマさん……」と胸の中で手のひらを合わせて拝んでいます。

クマがいるとがんばれる。
今日だってまだまだやらなきゃいけないことが残っているけど、クマがいると荒れた心にやわらか〜〜い、あったか〜〜い光がさします。

「なんでただのクマ a.k.a. 元キーホルダーが ”お守りさん” になってるの?」と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。ごめんなさい、わたしもそれは細かくは説明できる自信がありません。

もう理屈じゃないのです。出合ったときから、たぶん、クマはわたしの ”お守りさん”   だったので。


追伸。
これを機にクマさんに名前を付けたいと思います。こちらが候補名です。
「熊治郎」「熊五郎」「ぽんちゃん」
他にもいい候補名あったら教えてください。

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