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2023年5月15日(月)

 午前中に仕事をしたあと、午後はフリータイム。最近は外出が多かったからか、家のなかを移動すると飼い猫のスミがくっついて回り、わたしの進行方向を見極めてから通せんぼをするほどだった。寂しかったのかな、と察して「今日はとことん甘えさせてやろう」とスミを抱っこして頭や背中を撫でつづけたところ、とても気持ちよさそうな顔をしていた。自分が満足するとすぐにどこかへ行ってしまうが、わたしのそばを離れない。いまは机に座るわたしの足元で毛繕い中である。スミはわたしが落ち込んでいるときも、べったりすることなく同じ空間にいてくれる。ただそばにいる。わたしにとって、これはとても安心する距離感だ。言葉を交わさずとも何かが通じ合うのは奇跡だ。だけど、スミと接しているとそんな奇跡が頻繁に起こる。
人と接していても、何かが通じ合う瞬間がある。そんなときは、思わず「なんでわかるの〜〜〜!?」と普段は上げることのない大きな声量を発してしまう(自分でも毎回「こんなに大きな声が出るのか」と驚く)。コミュニケーションは相手の話を聞き、自分のことを話すことが基本で、相手によって方法を柔軟に変えていく必要のあるものだと思うけれど、何かが通じ合っているときは非言語の領域。何かが通じ合っているときは何が通じ合っているのだろうか。ほんとうに不思議に思う。

今日もニュースをみたり、読んだりしていると、さまざまな情報が飛び込んでくる。怒り、悲しみ、喜び。感情の浮き沈みがとても激しくなる。納得のいかないニュースが多く、こんな社会になっているのはなぜなのかと「なんでわかるの〜〜〜!?」というテンション以上に大きな声量で叫びたくなる。人権を軽視するニュースをみると、涙があふれる。なぜ、こんなにも心無い言葉を吐き出せるのか。この人の思いやりはどこに向けられているのか。人の傷みや不安を分かち合うことすら、この世界では無理なのだろうか。わたしは、1ヶ月ほど前のニュースについてもいまだに考え続けており、思い出しては心が苦しくなる。

先月だったか、元迷惑系YouTuberが区議選に立候補した。掲示板に貼られた選挙戦ポスターには「高齢者に厳しい社会へ」の言葉。若者が挑戦しやすい社会をつくることは、もちろん素敵なことだ。しかし、そのために困っている人や救いを求めている人も排除するのなら、わたしは断固として許さない。すこし前だろうか。成田悠輔氏が「高齢者の集団自殺」という言葉を発した。その言論に影響された中学生は「老人は退散したほうがいい。老人が自動的にいなくなるシステムを作るとしたらどのような方法があるのか」という内容を成田氏に質問した。その異様さが、とても気持ち悪いと思った。子どもに平然と「高齢者の集団自殺」について深掘りさせる大人はもちろん、その現場で「人が自動的にいなくなるシステム」について話し合われていることが気持ち悪かった。これはナチス政権でも行われたことだ。ホロコーストは、会議で決められた。ユダヤ人大虐殺を、ビジネス会議のように決めたのだ。論点が飛躍したと感じる人もいるかもしれない。でも、その論点の出発点はほとんど同じではないだろうか。この世に必要ない命などあってたまるか。ただのインテリ人間や、ただの暴力的な人間に命を選別されてたまるか。
わたしも「老害」と呼ばれる高齢者に悩まされた経験はある。だけど、高齢者から学ぶことはとても多い。博識な人も、とても多い。実際にお話していると、自分が知らないことを知っているからお話を聞くのが楽しい。好奇心が刺激されてどんどん質問したくなる。たまに「わたしもそれ知ってる」「それさっきも聞いたな」と思うこともあるけれど、間違いなく重要なメッセージなのだろうと素直に受け取れることもある。贅沢三昧に暮し、人を見下し、負うべき責任を他に投げる老害も、確かにいる。ただし、現代はすでに高齢者に厳しい社会でもある。年金の受給年齢は引き上げられ、高齢者医療負担も増え、真面目に働いてきた人でさえ今日の食事に困っているケースもある。これほど高齢者にも厳しい現状があるというのに、なぜ人を切り捨てる言論に寄ってしまうのか。

そもそも、政治は誰かを排除するのが役割ではないはず。わたしが求めるのは、弱き人も自分らしく暮らしやすくなるような政治だ。強い言論が勝ってしまう世の中ではあるが、わたしは過激な言論や排除の言論を持ち出す人に貧しさを感じる。真の豊かさとは、他人の傷みに寄り添えることだと思う。顔見知りでもないのに、傷みを想像し、自分ごとのようにとらえられることが豊かだ、と最近は思う。社会で肩身の狭い思いをしている人のために行動する人の言論を、物事の真理をとらえずにネット上でただ否定するやつらも貧しい。自尊心や優越感を得るために言葉の暴力性を小賢しく使うやつらも貧しい。人と人が支え合って生きていくことは、難しいことなのだろうか。


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