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【投資BOOKS】金融サービスの新潮流 ゴールベース資産管理 (日本経済新聞出版)

野村さんが、昨年につづき攻めてきた。

今年は、真正面からゴールベース資産管理だけをテーマにした本だ。なんと編集は、CEO奥田健太郎さんだ。

ググるとゴールベース資産管理の極意(仮)なんていうタイトルでもヒットした。

目次を見る限り、魅力的なテーマ満載で、ファンドラップ研究者(⁉)として、ファンドラップ沼から出る為にも読まない選択肢はなく、速攻で読んだ。

本書は、
そもそもゴールベース資産管理とは何で、何を目指すのかと、顧客が何を求め、ゴールベース資産管理が、どのように役立ち、どう実践するか!

を解説することに挑戦している。

この本で、やっとゴールベースの考え方の概要を理解できたと思う。

競合他社は、今回のこの本を読むだけでも、ゴールベース資産管理に関する業務レベルが、1ランク上がるだろう。

それでも、野村さんがこの本を公開するのは、読んだ顧客からのフィードバックを求めたいのではないかと思う。フィードバックにより、さらに先に進むという自信のようなものが伺える。

タイトルの1部の『金融サービスの新潮流』は、あくまでの金融界の新潮流であって、新鮮さはない。それでも、内容が濃すぎて、1回読んだくらいでは、脳で咀嚼しきれないぐらいの情報量がある。


今回は、本へのアプローチを変えて、書籍に関連した記事に対してコメントしながら、感想をまとめてみようと考えた。

■本家の紹介

主なポイントの焦点が、ちょっとぼやけている。本書の良さを表現しきれていない。

こんな時は、Bingに聞くとよい。

こんにちは、こちらはBingです。😊
金融サービスの新潮流 ゴールベース資産管理 (日本経済新聞出版) は、2023年2月18日に発売された本です。この本は、顧客のライフスタイルや目標に合わせて資産を管理する「ゴールベース資産管理」の概念や実践について、日米の識者が解説しています。。。

by Bing

もう怒涛のように、教えてくれる。

ゴールベース資産管理のメリットや、編集者の奥田さんが浦和レッズファンであること、特におすすめの章が、1と5章であること(誰のおすすめ??)や、Amazonでのレビューの要約、他の参考文献などなど。

野村さんは、もう少しアピールして欲しい。既に対話型AIに情報量で完敗している。


■紹介記事(JIJI Financial Solutions)

こういう記事の方が分かりやすい。
マーケットニュース長期投資応援団というサイトで、見つけた。

記者勉強会の中で、
関雄太・野村資本市場研究所常務が、本書の内容を補足的に解説し宣伝している。

この記事の中で、リテール・ソリューション開発室が興味深い。

営業店の社員が使用する各種データやツールの提供、ベストプラクティスの紹介を通じてビジネス拡大に貢献する組織らしい。

本文にも記載があったが、野村さんの定義では、
一言でゴールベース資産管理を表現すると、以下になる。

短期的なリターンから、長期的な安心へ

短期的な益を求めるのではなく、ゴールを目指し、
「予測可能・予見性の高いリターン」を求めるということ。

これは、ストンと腹に落ちた。

ゴールとは、やりたいことの集合体。

サッカーように1つのゴールではなく、ゴルフの各ホールを同時並行でプレイするイメージだ。

・これくらいのリターンなら、あれができる。
・これくらいの損失までなら許容できる。

この期待と覚悟が共存した投資スタイル。

バランスファンドと比較した、フィーやリターン金額の大小なんて関係ない。提案された予測可能・予見性の高いリターンに期待して、投資を一任するものだ。はやく言ってほしかったし、ファンドラップのパンフにも明記してほしい。

予測可能・予見性の高いリターンを実現するためのポートフォリオ。そのための銘柄選定であり、リバランスということ。だから全世界株式インデックスファンド1本のポートフォリオじゃない。

もし、億単位の資産あり、昨年から開始された「レベルフィー(残高手数料契約)」も使いながら、野村さんで投資すると楽しそうな気がするが、今の保有資産では、無理だ。。。

■ゴールベース資産管理の流れ


ゴールベース資産管理の流れに関する解説は、正直ガッカリした。

顧客とコミュニケーションして、ゴールベースで資産計画を作成し、定期的に見直すという受け身的な流れだ。先進性や新しさは何も感じない。

単に野村さんがやれていなかっただけで、顧客側で不足するサービスを補完するために、複数のアドバイザーやサービスや自身の経験で、ゴールを目指していたと思う。

現状、どのように運営されているか、金融機関側がどう考えているかは参考になる。

ITシステム構築は、よく家づくりのプロセスと比較される。
根底がよく似ているからだ。

このサイトでは本質的な部分が、うまく表現されている。

『建築家との家づくりとは「何もないところから作り、生み出すプロセス」である』

私は建築家と家を建てた経験がある。

事前に暮らしに関するアンケートに回答し、
初回の打ち合わせで、建築家との様々な会話から、
その場で、建築家がラフスケッチを描く。

私の家づくりは、少し照れながらも、
赤毛のアンのグリーンゲイブルズ風
で、お願いしますというところからスタートした。

家はゴールだらけだ。

理想のリビング、キッチン、書斎、子供部屋、
バスルーム、家内ネットワーク、外構。。。

私が「渡辺篤史の建もの探訪」で見た間取りを、自分の経験や知識、個人的な好みを元にして、こんな風に取り込みたいというと、いいですねと真意を理解し、同意してくれたあとに、

「それならこれでどうでしょう?」

と新たな知見を入れて複数の案を提案してもらえる。

建築家と一緒に、夢の暮らしを実現するゴールを1つ1つ決めていく過程は、非常に刺激的だった。

金融のポートフォリオ構築との類似性を感じる。

営業マンと作る家よりも、建築家と建てる家を。

本書の内容では、野村さんのゴールベースは営業マンレベルだと思う。

建築家と金融アドバイザーとのギャップは明確で、

建築家は建築のプロだが、金融アドバイザーは、金融のプロかもしれないが、人生のプロじゃないと思う。

金融アドバイザーが、顧客の人生のラフスケッチを描けなければ、単なる金融サービスの選択と資金プランでしかない。

もうすでに、最上流のラフスケッチでさえ、対話型AIに置換されようとしている今、逆に金融アドバイザーが対話型AIの力を借りて、人生のプロになって欲しい。

岸田金融所得倍増プランで中立的なアドバイザーの認定制度なんかを検討しているが、そんなレベルは、もうセキュアな対話型AIで充分だ。

対話型AIで少し試してみたが、充分可能なことがわかる。むしろ、対話型AIの方が得意だろう。


さわかみ投信の澤上さんが、興味深い図(生き方を学んでこその金融教育)を描いている。

本書のアプローチは、まさしく現状の金融教育のベクトルに向いてしまっていると思う。どう暮らしたいか、生きたいかが先だと思う。

どう生きたいか? 起業や個人事業か被雇用か? そのための準備は? 家族は? 人生そのものを考える教育が先にあってこそ、人生に不可欠な金融知識が生きてくる。

野村さんのゴールベースには、この発想が乏しい気がする。
あくまでも、手数料をどこから取るかに注力しているように見える。

天下の野村さんが、安易に米国の先行事例をモノまねするのではなく、
自分たちの頭で考えてほしい。


■楽天証券経済研究所 山崎氏の切り口


私は、山崎氏とは相性が悪い。何冊か書籍を読んだが、共感できなかった。特に山崎氏が、図示の下手なところが好みではない。

山崎氏ご指摘どおり、ゴールベースは、金融機関の営業マンが使う「営業話法」であることは同感だが、もう少し深い気がする。

上記の記事の中で山崎氏らしい面白い指摘を展開している。

10年後に意識する支出が、「子どもの教育費」であっても「社会貢献の寄付」であっても、(1)その時にあるお金の使い方にその時に優先度を付けたらいいのだし、(2)その時までの運用をなるべく上手くやっておくといいのだし、(3)原資となるお金を別々に管理して運用する必要は全くない。「ゴール」となる資金の使途と資金の運用方法との間に関係を設定する必要は殆ど考えられない。

このロジックでいくと、

[ゴール]
(優先度1)子どもの教育  1,000万円
(優先度2)老後資金    2,000万円
(優先度3)社会貢献の寄付    500万円 

としたときに、3,500万円がゴール(目標)、NISA口座でお得意の全世界株式インデックスファンドを非課税枠満額積み立てて終わり。

うまくいけば、計画通り。市場が暴落したら、年金だけで生活する工夫をするだけのこと。

ある意味、夫婦、子供一人だけなら、これで良いのかも知れない。


あと、よっぽど、リテール営業がお嫌いらしい。何かトラウマがあるのかもしれない。

『「顧客の人生に伴走する」というお題目は、営業マンが「いつまでもつきまとう」ということの言い換えに過ぎない。』

と言い切られる。


本書を読んだ私は、おそらく議論したい層が異なるんだろうなと思う。

夫婦には、子供がいるだけではなく、双方のご両親や兄弟がいることもある。そこに家屋や土地、ファミリービジネス、介護など様々な課題があるなかで生活している。

本書では、

ゴールベース資産管理の『ゴール』を、

顧客とその家族が資産運用を通じて実現したい目的や克服したい深刻な課題・悩みなどの総称

と定義している。資産運用は資産形成だけではなく維持、継承も含む。ゴールは、プラス面だけでなく、渋沢一族のニコ没(ニコニコしながら没落)なども含む。

また、ゴールベース投資とゴールベース資産管理を別に定義している。
資産管理は、Wealth Managementの訳で、対面のWealth Managerが、いるかいないが相違点としている。

ちょこっと話が脱線するが、
IT業界でのゴールベースといえば、
2000年にIBM社がリリースし、z/OSで採用されたゴールベースのシステムリソース最適化機能だ。

ユーザーが定義したビジネス目標(応答時間など)に基づいて、ジョブの優先度やパフォーマンスを、ワークロード・マネージャーが管理する仕組みだ。Wealth Managerが管理するゴールベース資産管理と考え方が、よく似ている。

山崎氏は、ゴールベース投資を述べられているのだろう。

また、進め方として、

『顧客の側では、個々のテーマに応じて、コンサルタント、税理士、医師、心理カウンセラー、などに費用を払って相談するのがいい』

と提案されている。

たとえば、家を建てる時に、土地探し、設計、地鎮祭、家屋建設、電気工事、外構工事、不動産登記、ローン、火災保険などを個別契約にするのは、大変だ。ただこれは、好みの問題で良い悪いではない。

昔の事例では、パソコンがデスクトップ主体で、高価だった頃。中古の安いパーツをストックし、自社で修理することで、コストを抑えようとした会社を連想する。結果は、買った方がやすいという結論が大半だった。

最近では、バルミューダのスマホ事業からの撤退を連想する。決算説明会で「ソフトウエア開発には多大な資金が必要で自分たちの事業規模では、スマートフォン市場で存分に戦うことができなかった」と説明されたようだが、ソフトウエアを甘く見すぎていたとしか思えない。某社の都合で、OSやブラウザーの仕様が頻繁に変わり、且つ脆弱性への対応は待ったなしだ。

ただ、山崎氏のような記事から、ゴールベース資産管理の理解が深まる気がする。

■ゴールベース資産管理は檸檬か?


本書の中でゴールベース資産管理の障壁として、担当者の異動問題に踏み込まれていた。ゴールベース資産管理の肝は、人なので大きな論点となる。

証券会社のリテール部門は、狩猟民のように、優秀な社員を新規開拓が必要な地域や市場に異動させ、その地域で狩りとれるだけとらせて、実績を積ませて、どこかの支店長に引き上げるキャリアモデルがあるようだ。

狩猟がうまい人が、狩りをするほうが効率的なのは理解できる。営業マンからみれば、狩りとれるだけ狩るというゴールベース営業なのだろう。

私の現在のメイン対面口座の資産管理コンサルタントは、3年継続して頂いている。ただ上司は、3年連続で変わっている。それも、バリバリ営業、知的派、昭和型と年齢も個性もバラバラなのが不思議だ。ギャップが大きすぎてどんな組織かが、わからなくなる。

体制は、分業を前提にした2名体制だ。職種は、資産コンサルタントと相続コンサルタントだ。

担当者変更が、ゴールベース資産管理の障害になるだろうか?

と思う。

単に、ビジネス優先の転勤を言い訳にして、人材育成とゴールベース資産管理の引継ぎプロセスと正面から向き合っていない印象を受けた。

私の場合、担当者が変更になり不都合があれば、おそらく再変更を申し出るよりも、他社に移る選択をするだろう。この場合の主なリスクは、業者側にあると思う。

IFA業者では、「生涯担当制」をアピールする会社が多い。また、チームカンファレン スという形で、担当アドバイザーだけでなく、チームで提案書を作成することで、人材の層の薄さをカバーしようとしている。だが、二世代三世代にわたって担当することを目指すといっても、現在のIFA業者では、経営の安定性も、社員の継続勤務も怪しいのでロジックが成り立たない。


サッカー日本代表のザッケローニ監督の退任コメントが印象的だ。

「新しい監督が新しい文化を持ってきて、このチームをさらに強くする、そういうことが必要な時が来たのだと思う」(2014年)

https://www.jfa.jp/national_team/news/00001114/

素早いパスワークとサイドを起点にした攻撃的サッカーを掲げ、世界一を目指したザックジャパンは、ブラジルW杯本大会GLであえなく敗退した。ザッケローニ監督は、自分が指導できることはすべて出したので、さらなる飛躍の為に、新しい監督に託すとコメントした。

担当変更は、顧客、担当者にとって、リスクではなく、チャンスととらえたい。人材育成していない言い訳にしないで欲しい。

担当者問題と関連して、

ゴールベース資産管理の中核を担うファンドラップは、『レモン疑惑』に晒されていると思う。

(参)『レモン疑惑』:品質が悪く価値が低いものを、英語でレモンと呼ぶ。皮が厚くて中身が分からず、質が悪い欠陥品であるという疑惑を受けやすい。

2023年3月7日の日経モーニングサテライトFTで、日本株に対する『レモン疑惑』払拭の条件が示されていた。

・成長性を示す。
・信頼を得る。
・透明性を確保する。

まさしく、ファンドラップの課題と重なる。

番組の中で、日立製作所の東原会長の講演コメントも紹介されていたが、他業種の知見も入れて改善して欲しい。

ダイワファンドラップの場合、
・選んだ投資信託によるポートフォリオの成長性を十分に説明しない。
・運用の評価に必要な信頼できる情報を開示しない。
・サービス改善やコストの透明性がない。
のが不満だ。

担当者の異動問題を、売り手側の発想ですり替えないで、「顧客の立場に立って」考えて、ゴールベース資産管理を推進して欲しい。


(まとめ)


◇タイトル:金融サービスの新潮流 ゴールベース資産管理
◇個人満足度 ★★★★☆(4)
◇個人総評
とにかく濃厚。この本のおかげで、ゴールベース資産管理が、はじめて腹落ちした。タイトルはミスリードだと思うが、今後の野村さんの総合力に期待したい。
本書からは、野村證券さんが、本気でゴールベース資産管理をしたいのかどうかは読み切れなかった。本音ベースの部分は書かれていない。IT業界で考えると、競争力がある製品販売の方が楽だ。開発案件や、運用一任は、ビジネスとして難しい。機会があれば、本音を質問しようと思う。

来年はどこを攻めてくるのかな?ゴールベース資産管理の日本での実例を5ケースぐらい示して欲しい。
優待投資家の桐谷さんは、現在ゴールがないようなので、ゴールベース資産管理に桐谷さんを巻き込んで、1例として示して欲しい。野村さんは、桐谷さんにビジネス面でお世話になったはずだから、「ゴールがない」なんて言わせないで欲しい。


【今日のひとこと】

アドバイスをする人が賢いのではなく、アドバイスを聞いて実践する方が賢くないとその言葉は生きてこない。

(ゲッターズ飯田、2023年2月28日Twitterツイート)





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