(非専門家による)再生産方程式の説明

2020年5月24日修正

西浦先生が2020年5月12日に「実効再生産数とその周辺」という発表をされた.その前半で解説された再生産方程式の説明を補うノート.西浦先生のスライドは次のリンクからダウンロードできる. 
https://github.com/contactmodel/COVID19-Japan-Reff

再生産方程式

時刻 t の新たな感染は,過去に感染した人から移されたもの.t の新規感染者数 i(t)は,その時間までに感染したその時々の新規感染者の人数 i(t' < t) と,感染から時間 τ だけ経過した感染者一人当たりの時刻 t における感染率 A(t, τ)が分かっていれば,計算することができる.(過去の時刻 t' と経過時間 τ の関係は t-t' = τ ).この計算式を再生産方程式という.

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感染は連続的な時間の中で起こるけど,実際のデータは日毎に与えられることが多いので積分よりも和で書いたほうがわかりやすいかもしれない.m日目の新規感染者数は i_m は,(m-1)日目での新規感染者から A_{m, 1} i_{m-1} 人,(m-2)日目での新規感染者から A_{m, 2} i_{m-2} 人,...,と歴代の新規感染者からの感染者数の和で表すことができる.(m ≤ 0 の新規感染者がゼロだろすると,k ≥ m の和はあってもなくても同じ)

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元の積分に戻って説明を続ける.感染してからτ経過した感染者一人の時刻 t における感染率 A(t, τ) は2つの因子の積でかける.つまり A(t, τ) = g(τ)*C(t, τ).

1つ目の因子 g(τ) は一人の感染者が一人の未感染者に出会ったときの感染率.患者から外に出るウイルスの量に比例すると考えられるもので、病気の経過時間 τ の関数で与えられる.最初の2日間の潜伏期間中は感染させる能力がないとか,3日目が一番感染させやすいとか.そして10日目に回復してウイルスをださなくなるなど,病歴による感染率の時間変化として与えられる.

2つ目の因子 C(t, τ)=η(τ)*X(t) は,時刻 t に未感染者と出会う確率.感染者の環境の時間変化で t に依存する部分と,経過時間 τ で変わる病状に応じた活動度の部分がある.環境部分は,未感染者が多いほうが未感染者に出会う可能性が高いので感受性人口 X(t)に比例する.その比例係数 η が感染者本人の活動度で,家で寝込んだり入院隔離など感染からの経過時間 τ の関数で表せるだろう(社会的距離やロックダウンなど環境の変化で η が t に依存する可能性もある).

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g(τ)とη(τ) の例を想像で描いてみる.

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病気の特性g(τ)と感染者の行動パターンη(τ)を決めれば,i(0)を与えれば X(t) を以下で計算しながらi(t)を計算することができる.

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実行再生産数 Rt(t) は,一人の感染者が感染から回復までの間に感染させる人数の時刻 t における期待値.その時刻 t において,いろんな経過時間 τ の感染者についてその感染率を積分することで計算することができる.感受性人口X(t)は,流行の状況とともに変化する環境因子で t に依存するから,τ についての積分の外にだせる.

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基本再生産数 R0は,全ての人がまだ感染していず感染する可能性があるという特別な場合の再生産数.X(t) = N とするだけ.

体からウイルスが放出されていても,人に合わなければ感染させない.病気の性質 g(τ) と行動 η (τ) の積を足し合わせる量なので,η(τ) がゼロに近ければ Rt(t)や R0 はゼロに近づく.ワクチンは X(t)の部分をかえる.薬は症状を緩和し回復を早めるので g(τ)を小さくする(もしかしたら,ηを大きくしてしまうかも).そして,ロックダウンや隔離などは,η を小さくするための努力.一人の感染者が一人以上を感染させてしまう場合は感染はいつまでも終わらない(集団免疫で終わるかもしれないし,終わらないかもしれない).一人の感染者が一人以下にしか感染させないなら,いずれ感染は終息する.でも,100人の感染者が98人に感染させた場合と,10人だけしか感染させなかった場合で,いつ終息するかの速度が変わってくる.減少傾向はいいことだけど,経済についての消耗戦でもあるので「ハンマー」の部分の対策をしているときには,少しでも短時間で目標を達成するためにも,しっかりした対応をするのが正解だろう.

SIRモデルとの関係(主に計算ノート)

一番簡単なSIRモデルの場合は A(t, τ) = β X(t) exp(-γ τ) となることを以下で具体的に計算してみる.X(t)は感受性人口で,βは未感染者との接触での感染率.t-τに感染した人の感染力は exp(-γ τ) で減衰する.SIRモデルでは,感染させる状態の人数から回復など感染力が0の状態の人数への移り変わりで表現したが,再生産方程式の中では感染率 g(τ) が 0 に近づくことが回復を意味する.SIRモデルと再生産方程式を見ると,SIRモデルは特別単純な時間経過を仮定したものだということが分かる.

SIRモデルは

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SIRモデルの場合に A(t,τ) がどのようになるかを具体的に計算してみる.

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SIRモデルの場合の基本再生産数 R0 も確認しておく.
基本再生産数は,全ての人が感染しうる状態で,一人の感染者が感染させる総数.
基本再生産数は X(0)=N での理論値だから,考えている感染者をt=0に留めながら,その感染者の経過時間 τ で積分する(つまりt=0での感染者数の期待値を求める)

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補足:素朴には t=0 で感染した人の経過時間 t=τ で感染率を積分して,一人の感染者が感染させる人数の期待値を計算できるが,感受性人口 は感染とともに減少するため「基本再生産数」とは異なる.

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