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ゲーム・オブ・サロンズ(Fresha・ GlossGenius・Treatwellについて)

この物語はビューティーテックの成長が著しいアメリカ、ビューティーサロンを抱えるヨーロッパ、独自のサロン文化を築いた日本が主な舞台である。

激しい競争が続くサロン管理システム業界では、新興勢力の台頭や成長限界に達したサービスの衰退が起きていた。

技術革新によるスマートデバイスの登場、巨大資本による大規模なM&A、世界規模の疫病などにより、ゲームチェンジが繰り返される壮絶な戦いに刮目せよ。

注目サービス3選

Fresha

Freshaは2015年に無料のサロン管理システム「Shedul.com」としてイギリスで創業。2018年にオンライン予約システム「Fresha」としてリニューアル、IG/FB/Gの予約連携に対応。カスタマー向けの予約アプリの提供も開始した。累計で1億8200万ドルを調達。創業者はPM兼エンジニア兼エンジェル投資家のWilliam Zeqiri

課金モデルは新規顧客の予約手数料20%(顧客リストに登録された顧客、ウィジェットやSNS経由は自動で除外)、2.19%+0.2$のカード決済手数料、メッセージマーケティング機能の3つ。

COVID-19以降、サロンのオフラインのサービスをオンラインに移行する流れがあり、「Shopify化」としてFreshaのカスタマー向けアプリから商品の購入を可能にする予定。商品の在庫管理は当初より機能が備わっている。

GlossGenius

GlossGenius」は2015年にアメリカのNYで創業。中小企業の経営者向けのサービスとして予約管理・決済管理・顧客管理・損益管理(P&L)・サイト構築などが可能。IG/FBの予約連携に対応。累計で1900万ドルを調達。創業者はメイクアップアーティスト兼フルスタックエンジニア兼元GS証券アナリストのDanielle Cohen-Shohet

課金モデルはスタンダードプランが月額24$(エクスクルーシブプランは月額44$)、2.6%のカード決済手数料、スタイリッシュなカードリーダー端末49$(1台毎)の3つ。

売上だけでなく領収書のアップロードを含めた支出の管理が可能。COVID-19以降、補助金需給の需要が高まったことを受けて、銀行と提携した中小企業向けの補助金申請サービスも提供している。

Treatwell

Treatwell」は2007年にオランダでオンラインによる美容予約サービスを開始した。2015年に日本で「ホットペッパービューティー」を運営するリクルートに買収された後、2016年には同様に買収されたイギリスの「Wahanda」と統合して、本拠地をロンドンに移して「Treatwell」でのリブランドを実施。しかし、2021年にはリクルートからスペインのUALAに売却された。

課金モデルは新規顧客の予約手数料35%、エントリープランで月額29€、2%のカード決済手数料。

創業者はLaurens Groenendijk。Wahandaとの統合に伴い、Wahanda側のLopo Champalimaudが引き継ぐ。さらに元リクルートのKei Kajiにバトンタッチした後、現在は元BCG経営コンサルタントのGiampiero Marinòが代表を務めている。

各勢力の比較

FreshaとTreatwell以外は商圏が異なるため、競合にあたるわけではないが、各サービスの規模を比較すると以下のようになる。

※数字が不明なところはインタビュー記事などからの推測も含む

Freshaはカスタマーアプリの新規予約で収益を出すモデル。GGは集客機能はなく、サロン経営者向けのツールとして上位プランを作るモデル。Treatwellは成果報酬と月額料金の両方を組み合わせている。

Freshaの強み

①サロン管理システムとして完成している
サロンの予約管理システムとしては完成形に近い。余計な機能がなく、必要な機能は揃っている。サロンからユーザーにまでシンプルで使いやすいことで高い評価を得ている。

②利用できる国や言語が多い
基本的にはEUが対象になるが、サロンの場所を問わず世界中で利用が可能。アメリカでの利用サロンも伸びてきている。UAEなど観光地も対象であり、旅行先での予約ニーズにも対応している。

③新規集客の成果報酬制
多くのサロン管理システムが無料トライアルのある月額料金制となっているが、サロン管理を使うだけなら無料で利用できる。新規判定も明確な基準があり、サロン側の運用に問題がなければ不満が出る可能性は低い(新規の予約経路がFreshaになっただけと主張するケースはある)。

Freshaの弱み

①サロン管理システムと集客サービスが分離している
Freshaにサロン情報を掲載して、Freshaから新規予約を受け付けるには「Fresha Plus」というサービスに申し込みをする必要がある。そのため、契約サロン数に対して掲載サロン数が少ない。
※Treatwellなら2600件あるロンドンのヘアサロンが301件しかない

②基本無料のため利用されていないアカウントが多い
さらにアカウントを使わなくとも放置できてしまえるため、閉店や休業したサロンもカウントされている。月額課金のサービスとサロン数では単純に比較できない。120カ国のサロンも実際には米英豪加の英語圏に集中しており、EUでは弱い。

③カスタマーアプリの利用者が少ない
サロンの既存顧客をアプリのユーザーとして誘導する仕組みになっていない。ウェブサイトでの利用者数の多さに比べて、カスタマーアプリの利用者数が少ない(Similar webベース)。

Freshaの機会

①新規集客による売上アップ
Freshaのカスタマーアプリの利用者を増やすことで売上の拡大を見込むことができる。バーティカル(別エリア利用)・ホリゾンタル(別領域)の両面でカスタマーの追加利用が期待できる。

②成果報酬による競合他社からのシェア獲得
イギリスやアメリカには有力なサロン管理システムが多く、ほとんどのサービスはサブスクリプションモデルを採用している。サブスクリプションの料金も安価であり、料金面で競争力を持つには成果報酬は効果的。

③カレンダーの同期とデータ移行
TreatwellのGoogleカレンダーやiCal同期機能、リンクウェルのようなサイトコントローラー、GGのホワイトグローブサービスのような他社との同時利用や排他的移行にさらなる商機が見受けられる。

Freshaの脅威

①UALA
スペインを中心としたヨーロッパ内で30,000のサロン(スパなどもあるのでprofesionales表記)が利用している。Treatwellが加わると単純計算では60,000サロンになり、Freshaと同等の規模になる。UALAは小規模な予約管理であれば無料プランがある。さらにTreatwellがUALAとサービスを統合する可能性がある。

②COVID-19
欧米では未だにコロナウイルスの蔓延が発生しており、社会情勢が安定していない。新規集客の成果報酬はロックダウンと非常に相性が悪い。

Winter is Coming.

GlossGeniusの強み

①ハイソサエティなエクスペリエンス
高級感のある高品質なクリエイティブがサロンとカスタマーの支持を得ている。「ウルトラプレミアム」など各種名称にもセレブな世界観を反映。ウェブサイト・カードリーダー・メールテンプレ・SNSテンプレなどのクリエイティブセットも充実。

②ホワイトグローブサービス(DX)
エスタブリッシュメントなサロン向けに紙の予約台帳や顧客台帳、VAGAROなど既存の予約管理サービスからの移行を促す「ホワイトグローブ」サービスを提供している。

③コストパフォーマンスが高い
他社サービスに比べてシンプルかつ安価な料金プランが支持されている。サロン管理はスマートフォンアプリがベース。日常の操作時間を最小限にするUI設計。支出管理、損益管理、四半期ごとにP&Lを始めとしたレポートの出力が可能。No Show時(無断キャンセル)のキャンセル料の徴収も可能。

We Do Not No-Show.

GlossGeniusの弱み

①新規集客ができない
オールインワンサービスと謳っているが、カスタマーアプリでのマッチング機能は提供されていないため、新規集客はできない。

②オプション機能が少ない
Freshaとは異なり、VoucherやMembershipsの購入やサブスクリプションに対応していない。商品の在庫管理はできるが、発注はできない。PCでは予約管理しかできない。Shopify化の比較に関しては出資者にShopify創業者Tobias Lütkeがいたことで取り上げられたと見た方が良い。

③複数店舗に対応していない
Freshaとは異なり、多店舗を経営しているサロンでロケーションの追加ができず、導入がしにくい。コミッションなど報酬計算の機能もない。

GlossGeniusの機会

①グローバル展開
純粋なソフトウェアやアプリケーションだけであれば、地域を問わずに利用が可能。ただし、決済や端末に関しては各国に適した形でサービスの提供が求められる。

②フィンテック化
アメリカにはコロナウィルス経済対策として、給与補償プログラム(PPP)があったが、GGではクロスリバー銀行と提携して、PPPの申請機能をリリースした。マネー系の機能に商機が感じられる。

③マーケットプレイス化
FreshaやTreatwellなどと同じようにカスタマーアプリでのプロフェッショナルとのマッチングサービスの提供が可能と考えられる。

GlossGeniusの脅威

①VAGARO
VAGAROはアメリカ・カナダ・イギリスを対象に125,000のサロンが利用しているサロン管理システム(新規集客はない)。料金体系はユーザー課金モデルであり、月額25$ + 1ユーザー毎に10$。GGはVAGAROを強く意識しており、月額24$でユーザー数は無制限としている。根本的にVAGAROの方が多機能であり、クリエイティブ面・料金面での強みがなければ競争力は失われる。

②StyleSeat
StyleSeatはサロン予約のマーケットプレイスとしてオンライン決済への統一を進めている。料金体系は月額料金が無料かつ決済手数料3%。新規顧客の手数料は驚異の50%(最大50$)。スマートプライシングやプレミアムアポイントメントでの顧客単価向上も可能。

業界の将来性
欧米のサロン管理システムはレッドオーシャン化している。月額料金は30$以下が標準であり、収益性が低く将来性も見えない。新規集客の成果報酬の最適解は未だ確定していないが、少なくとも既存顧客の来店に手数料を払うモデルは成立しない。

サロン目線では月額料金が安いか無料となる代わりに多くのサービスには隠された手数料(hidden fee)が多くなり、申し込み時にはわからないようにされている点が問題視されている。

さらに新規集客の成果報酬が高額になるという問題が生まれつつあるため、日本のようにマーケットプレイスでありながらもバランスの取れた月額料金+決済手数料で利用できるサービスが求められる可能性もある。

現状ではFreshaのようにサロン管理システムからスタートして、マーケットプレイスを始める形であれば将来的な成長が期待できる。また、Shopifyのように日本などのアジア圏を含めたグローバル展開を期待したい。


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