MSワラント
MSワラントとは、上場企業の資金調達のひとつです。かんたんに言うと、市場に出回っている株よりも安くてお得に買える権利を発行して、お金を調達する方法(エクイティ・ファイナンス)です。このページでは、MSワラントの仕組みや、一般的な資金調達「公募増資」との違いなどについて、わかりやすく紹介します。
MSワラントの仕組み
MSワラントとは、「Moving Strike Warrant(ムービング・ストライク・ワラント)」の略で、日本語に直すと「行使価額修正条項付新株予約権」です。要約すると、「前日の株価終値よりも安い価格で購入できるように、購入価格を修正する新株予約権」となります。株ではなく、新株予約権※を受け取るのがポイントです。※新株予約権とは、発行した企業に対して権利を行使することによって、その企業の株式の交付を受けることができる権利のこと
なぜ株ではなく、新株予約権を受け取るのかというと、投資家側が損失リスクを抑えるためです。つまり、新株予約権の購入代金として、低額のオプション料を支払っておき、好きなタイミングで株へ変換することができるのです。仮に、行使価額が低く、投資家側が株に変えたくなければ、変えないという選択をすることもできます。
さらに、行使価額修正条項付なので、文字通り、新株予約権の行使価額を修正することができます。一般的には、前日終値の90%程度に設定することが多くなっています。具体的なケース(90%)で見ると、前日終値が1,000円の日は900円(=1000円×90%)で新株を購入でき、前日終値が900円に下がってしまったときは810円で新株を購入できる、というしくみです。
ただし、行使できる下限価格も設定されているので、「株価下落→行使→株価下落」のスパイラルが無限に続くということは考えられません。
「MSワラント」と「公募増資」の違い
MSワラントと公募増資(株を発行して資金調達する一般的な方法)を比較しました。
①「割当先」は、MSワラントは特定の第三者(証券会社等)に比べて、公募増資は不特定多数です。よって、個人投資家はMSワラントには応募できませんが、公募増資には応募することができます(しかし、必ず買えるとは限りません)。②「機動性の高さ」では、MSワラントに軍配が上がります。機動性とは、「すばやく資金調達まで進められるか」という点です。すぐに資金調達がしたい企業にとって、この機動力の高さがMSワラントが調達企業に選ばれる理由であると考えられます。
③「希薄化のスピード」は、MSワラントは新株予約権の権利が行使されて初めて株数が増えるため、段階的に変動します。一方、公募増資では、一度に増加します。④「調達金額」は、公募増資であれば、引受先があれば確実に資金調達が行われますが、MSワラントは株価が想定よりも下がりすぎた場合、権利の行使が進まず、予定していた金額が集められない可能性があります。
有識者の見解
MSワラントについては、有識者の方々の見解もみると、より理解が深まると思います。参考になる記事を一部引用して掲載しますので、合わせてご覧ください。
MSワラントは仕組みが複雑であること、行使期間が長期にわたることが多いことから、投資家に嫌気されることが多く、日経新聞によれば、昨年9月から今年3月16日までに発行を発表した54社のうち6割の34社で株価が下落しています。MSワラント発行に際しては、なぜMSワラントでなければならないかなど、投資家に対して十分な説明責任が求められるでしょう。安易な発行が増えれば、投資家の信頼を損ないかねないのは確かです。
公募増資や他のエクイティ・ファイナンスを選択できない企業が,MSワラントを選びがちであるという結果からは2つの論点がある。1つはゾンビ企業といった不適切な企業の退出を遅らせ,社会にとって望ましくないという議論と,企業と市場間の情報の非対称性が高く企業の将来性を市場が見抜けない企業に対して資金が供給され,社会にとって望ましいという議論である。
長期パフォーマンスが悪いという結果からは,情報の非対称性が高く企業の将来性を見抜けない企業に資金が供給される効果は強いとは言えない。しかしながら,約20%の企業ではMSワラント発行の2年後に企業価値が改善していることを忘れてはならない。
MSワラントが,情報の非対称性の問題は大きいが有望な投資案件に対し,資金が供給される仕組みとして用いられがちになることが望まれる。
まとめ
MSワラントについて簡単にまとめました。希薄率が高く、権利行使の下限価格も著しく低いMSワラントもあるので、増資をする意味をしっかり見極めて、投資判断をするようにしましょう。
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