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旅立つあなたへ

24年間。

私があなたと向き合ってきた時間です。

4年間の大学生活、そして2年間の大学院を終えてこの春あなたは卒業します。

6年前に大学の入学式に保護者としてお父さんと二人で行ってから、一度もあなたのところに行くことができなかった。そのことが心残りです。

発達障害のあるお兄ちゃんの影で、手をあまりかけられずに育ったあなた。

歩き出すのが早くて 11ヶ月の時にはもう歩き始めていましたが、ちっちゃな頃からやんちゃだったあなたは、ちょうど1歳の誕生日の少し後、食卓のテーブルから落ちたんですよね。もちろん泣くことしかできないから、一生懸命に訴えていたんでしょうけれど、腫れてもこないからと一晩そのままにしてしまいました。翌日、念のために整形外科へ連れて行ったら、右腕だったか左だったか、肘のすぐ下の骨が2本とも折れていたのでした。『お母さん、大人だったら全治3ヶ月の重症ですよ』と先生に言われ、小さな腕にギプスの痛々しい姿に。手をつくことが出来ないのでハイハイが出来なくなり、必然的に歩くようになりましたが、この時は歩けるようになっていて良かったと思いました。幸い、子供だから回復が早かったのか、ギプスは2週間で取れ、すぐに治ってしまいました。本当にホッとしました。

2歳のお誕生日には、既に文章で話すことが出来ました。発達障害のために3歳を過ぎて喋りだしたお兄ちゃんと比べたらいけないのはわかっていても、つい比べてしまうのでした。後になって「口から先に生まれてきたんじゃないか」と周りの大人に言われるほどお喋りになったのは、何か関係しているのでしょうか。

また、こんなこともありました。あれは3歳のときかな、あの時はまだ古い家で、下半分が磨りガラスの入った障子があったんですよね。あなたはそのガラスにグーパンチをして割ったんです。あの時は怖かった。日曜日なのに家には子供たちと私だけ。とりあえずの応急処置をして、お兄ちゃんに頼んで、あなたの手を高く上げて持ってもらっていて。その間にお母さんは割れたガラスと汚れた床をちょっとだけ片付け、自分の服を着替え、急いで救急病院に行きました。結果、手首を12針も縫う怪我でした。後から理由を聞いたら、『こうしたら、どんなになるかやってみたかった』と答えたあなた。好奇心旺盛なのは良いのですが、母の寿命を縮めるのは大概にしてください。

小さい頃からそんな話には事欠かないあなたですが、大人になった今は、少しは落ち着いているでしょうか。

中学2年ぐらいの反抗期の時、何を聞いても『別に』としか答えてくれなかったり、言葉遣いや態度が悪くなったりして、お母さんもだいぶ声を荒げたこともありました。一言も口をきいてくれないこともありましたね。

今ではそんなことなかったみたいに話をしてくれますし、一緒に買い物に行ったら率先してカゴを持ってくれたり、また一緒にご飯を食べに行ったりするようになって、お母さんは嬉しいです。

6年間住んだアパートを既に引き払い、就職する会社の寮に入るまで、2週間実家に帰っている今。この6年間でこんなに長い時間を一緒に過ごすのは初めてです。ちょっとだけぎこちなさを感じるのは仕方ないでしょ?

来週の終わりには引っ越しです。就職したらもう、年に1〜2回、数日しか帰って来なくなるのでしょうか。そしていずれはそのまま結婚…は、ちょっと気が早いかな。多分もう、季節の帰省以外ではこちらに戻ってくる事はないでしょう。それに次男だものね、どちらにせよ家は出る。

少しは寂しいと思ってくれるでしょうか。

お母さんは最近、お父さんからよく「いい加減に子離れしろ」と言われるようになりました。自分では出来ているつもりだけれど、きっと出来ていないのでしょうね。ついつい心配になってしまいます。

今ではあなたの方が、お母さんよりもずっと出来ることが多くなっているというのにね。

先日は、お母さんが運転免許を返納した後のことまで考えてくれましたね。まだまだ50代だもの、大丈夫だと思うけれど、お母さんが目が悪いことを心配してくれたのかもしれませんね。

そんな将来が来るのが、楽しみなような、寂しいような。


あなたがこの家で過ごすのもあと一週間。

引っ越しにはお父さんと二人で行くからね。向こうへ行って家電を買わなきゃね。


あなたの将来が希望に満ちた明るいものであることを祈っています。


新社会人になる次男へ。




2020.3.20    りょう

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