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社内稟議で不承認となる代表的な6つの理由とABC案的思考法【前編】

社内稟議は、新規プロジェクト発足や新規投資を"意思決定"する場であり、数回の持ち込み・改善を通じて、取り組みの"成功確度を高めるフィードバックの場"だと考えている。

LIFE PEPPERでも、新規持ち込みが活発だが、そのほとんどが初回〜2回目では「不承認/改善して再持ち込み」となっている。

その不承認の理由を抽象化して考えると、一定のパターンが存在していることが分かるため、「社内稟議で不承認となる代表的な6つの理由」としてまとめてみようと思う。

自分の立ち回り上、LIFE PEPPER社内では下記のような大きめの意思決定の持ち込み・推進を任されることが多く、年間で20~30テーマで持ち込みをしているため、一定体系化されたノウハウだと自負している。

情報システム部門の立ち上げ、毎年の商談獲得戦略/予算組み、SFA導入、副業制度立ち上げ、プロジェクト管理ツール導入、新入社員オンボーディングの仕組み、納会企画、インシデント発生時の対応方針、新規プロダクト開発方針、インサイドセールス立ち上げ、海外リモート制度、承認ツール導入・承認文化づくりなど

全ての不承認理由を網羅できているわけではないが、少なくともこれらは「持ち込み案の精度・作り込みの課題 = 意思決定に必要な情報準備の課題」と言える。自分が新規持ち込みをするときや、他の人の持ち込みに対してフィードバック・改善案を考える時に参考にしてもらえると嬉しい。

また、記事の最後では、「社内稟議で不承認となる代表的な6つの理由」を一定回避できる( = つまり、必要情報を準備できる)フォーマットとしてLIFE PEPPERで社内流通している「ABC案シート(議案提案書)」を紹介する。
このシート使用するだけでも案の質を高めることは可能だが、「社内稟議で不承認となる代表的な6つの理由」の内容・陥りがちなポイントを抑えた上で利用すると、より大きな効果を持つため、自分の持ち込みに課題があると感じる人は、ぜひ使ってみてほしい。

社内稟議で不承認となる代表的な6つの理由

  • 明確な目的・目標の設定の欠如

  • 投資対効果が書かれていない / 読みの精度が低い

  • 根拠の欠如

  • 目標達成へのキラーとなる戦略・工夫の欠如

  • 多角的な検討・全体最適思考の欠如 / 1案しかない

  • 他社事例の調査不足

自分の体感値にはなるが、上記の6つが、「初回/2回目の持ち込みでの不承認理由の8割」ほどを占めていると思う。

それ以外の不承認理由としては、持ち込みした内容が「実は他ですでに進行している」「別の場で議論済みの内容で、すでに明確な理由がありその持ち込みが承認されることは当面ない」などのケース。

上記6つは「課題が存在し解決したい事には同意だが、持ち込み案の精度・詰めが弱いために不承認・再度持ち込み」という、準備を改善することで、回避できる不承認理由に当たる。

6つの理由を、具体的なイメージを持ちやすいように「営業管理ツール / SFA(Sales Force Automation)の導入」をテーマに紹介する。

明確な目的・目標の設定の欠如

1つ目は「明確な目的・目標の設定の欠如」
身近に見えている課題を解決すべく持ち込みを行う事になったり、課題提起から時間が経過しているケースでありがちな不承認理由。

何を解決したいのか、何を成し遂げたいのかが不明確だから、プロジェクトの開始や投資をしようという意思決定ができない というパターン。

SFAの例では、

営業・顧客管理にスプレッドシートを使用しているが、データ量が大きくなっており、動作が重くて使い勝手が悪い。事務作業で時間を取られてしまう。

など、目の前の課題を起点に持ち込みを開始するも、上記の「動作を快適にする」「事務作業工数を下げて、より営業活動に集中できるようにする」という目的・目標設定だけではSFAの導入意思決定には至らない。

発生するフィードバックとしては

  1. 目的・解決する課題の範囲をもっと広げるべきではないか

  2. 目的・解決する課題は良いとして、最適な手法はSFAではないのではないか

  3. その目的・課題解決のために、SFAを導入するのはオーバースペック / 投資対効果が合わないのではないか

  4. SFA自体の導入検討を進めるのは良い動きだと思うが、SFAを導入するケースはもっと大きな課題・別の課題も同時に解決するために導入することが多いのではないか。その設計はどう考えているのか

  5. そもそも今回の目的・ゴール・課題ってなんだっけ?

というようなフィードバック。

明確なゴール・目的・目標が設定できているかの確認や、設定したゴール・目的・目標の範囲が狭い可能性を考えると、案の質を高めることができる。

投資対効果が書かれていない / 読みの精度が低い

2つ目は「投資対効果が書かれていない / 読みの精度が低い」

新規の取り組みでは、必ず何かしら金銭的な投資 / 時間・工数的な投資が発生する。そのため、その取り組みを通じて得られる「投資対効果」を記載する必要がある。

よくある間違いとしては「正確な投資対効果の予想はできないから、予想を立てない」というケース。

投資対効果の予想は「確実な数値」と「読みの数値」が混在しているもので良く、「読みの数値」の部分も一定の根拠に基づいて、仮の数値を置き、実績の数値がブレる可能性もあることも加味して意思決定をするのが良い投資意思決定の方法だと思う。

※そもそも、実行前から全ての投資対効果・結果を予測することはほぼ不可能なため、不確実性がある中で、意思決定をしていく必要がある。

読みの数値も含めた投資対効果予想を作ると、不確実性がある部分については、意思決定後の実行段階で実績数値を見ながら、プランや目標自体を微修正するという思考になる。また、仮置きした読みの数値自体が目標となるため、不確実性のある部分の実行段階で、仮置き数値を達成するための工夫をする思考が生まれる。

仮に、「正確な投資対効果の予想はできないから、予想を立てない」という考え方で動き始めてしまった場合は、上記のような動きは生まれないため、成果が小さく着地してしまったり、途中で頓挫する可能性も高くなってしまう。

根拠の欠如

3つ目は「根拠の欠如」
明確な目標設定や投資対効果予想を行う意識ができると、「数値」を扱うことになるが、この根拠が弱いと得られる効果が予想とは全く異なる着地になってしまうことがある。

そのため、「根拠」は一定納得感がある、ロジカルなものでないといけない。

例えば「工数削減の効果」に関して言えば、

  1. 現状発生している工数・時間の正確さ = 課題の大きさ

  2. それがどれくらいまで削減されるか = 効果の大きさ

が投資をする基準になるが、「営業メンバーがパツパツです、忙しいです」だけでは、なかなか承認されづらい。※勿論、具体数値を出さずとも、誰が見ても明らかに課題があり、解決する必要があるケースもある。

ただ、削減できる時間・コストなどが、大きな論点になる場合は、なるべく具体的に現状かかっている時間と、取り組みを行った後の時間が重要。この読みの精度が低いと不承認になる。

「読みの精度」を高めるには、具体的にどんな取り組みを行うのかと、その設計が重要で、意思決定をする場で「ああ、そういう体制に変わるなら、確かに〜〜という効果がありそうだ」と思ってもらえるだけの設計がないと、得られる効果に関して理解を得られない。

これに関しては、3つ目のパートでも詳しく紹介する。

目標達成へのキラーとなる戦略・工夫の欠如

4つ目は「目標達成へのキラーとなる戦略・工夫の欠如」

全体の進め方や進めるための会議体・チーム、明確な課題設定、ゴール設定がされていたとしても、目標達成のための戦略自体が弱い・存在しない場合は、不承認になりやすい。

個人的には大きく「状態目標を達成できる戦略」「浸透・実行戦略」二つの戦略を持つ必要があると思う。

SFAの例で言えば、
前者の「状態目標を達成できる戦略」では、SFAで毎日入力する内容やそれによって得られるデータ次第で、得られる効果が変わる。

ただ、意思決定段階でこの具体設計がされていなかったり、解像度が低い場合には、意思決定したとしてもプロジェクトが順調に進むことが見えなかったり、投資対効果の効果が見えてこない状態になる。

そのため、持ち込み段階の理想としては「フリートライアル期間ですでに使わせてもらっており、こういう入力体制に切り替わります。それによって、こういうダッシュボードが見れるようになります。現状の管理体制では〜〜に該当する部分ですが、明確に○○、××が改善されます」など、得られる効果がより強くイメージできるように、一部進めてしまう = 具体戦略/設計を詰める ということが重要になる。

後者の「浸透・実行戦略」に関しても同様で、浸透・実行フェーズの戦略で一番ありがちなのが「感情論・根性論」だけしか浸透戦略/実行戦略が存在しないこと。

「どうやって浸透させていくの?」という問いに対して、「感情論・根性論」の範囲で、あまり戦略性がなく、浸透・実行し切る確率が低いと感じられてしまうケースは下記のようなものがある。

  • 毎日自分が確認します、リマインドします

  • 週に一度、定例会を開き、進捗を追っていきます

  • 気合いでなんとかします

心意気的には良い姿勢だけど、投資の意思決定としては、より成功確率が高まる設計・戦略を取りたいところ。

良い例としては

  • プロジェクト開始1ヶ月は「入力項目作り / ダッシュボードづくり」を行い、既存の入力体制・シートの代替ができるかを検証します。2ヶ月目の○○日からは、既存の入力シートを廃止・アクセスできない状態にして、SFAで入力するしかない状態に切り替えます。

など

いろんなパターンの正解が他にもあると思うが、「絶対に浸透する / 絶対に実行し切れる設計」ってなんだろう?と自問自答、案の改善を考えることで、「感情論・根性論」の範囲を抜け出して、戦略性のある浸透・実行戦略を企画できる。

多角的な検討・全体最適思考の欠如 / 1案しかない

5つ目は「多角的な検討・全体最適思考の欠如 / 1案しかない」
新しい取り組みを開始する際、課題の解決方法や目標を達成する方法は、様々なパターンがある。

どんな決定でも人的・時間的・金銭的な投資が発生するため、様々なパターンの中で、最適だと思える意思決定を行う必要があるが、「多角的な検討・全体最適思考の欠如 / 1案しかない」と感じる場合は、不承認/再度持ち込みとなりやすい。

多角的な検討

定める状態目標・そこに至るための戦略・体制が、多角的に検討を行った上でベストだと思える案になっているか。

また、その検討の過程で様々な案のメリットやデメリットを整理したものが、意思決定の場で分かりやすく伝わり、意思決定参加者の持つ情報が、持ち込み者と同じレベルまで整理されるかどうか。

これらが意思決定を円滑に進める上で重要になる。

そもそも多角的に考えられていない場合は、「この視点は抜けているんじゃないか」という思考した過程の範囲に関するフィードバックが発生する。多角的に考えているが、その比較検討の過程が伝わっていない場合も同様で、情報を再度分かりやすく整理してから再検討となる。

全体最適思考

全体最適思考は、この多角的な検討・意思決定を行う上で必要な思考。対義語は個別最適思考で、案が個人やチームのみを考えた上での最適解となっていないこと、一部の課題の解決にとどまらず、事業部・全社が舵を取るべき方向として有意義なものかという視点で最適かどうかを指している。

個別最適で考えるとベストな案でも、全体最適で考えるとベストではないケースも多々存在する。

SFAの例では

SFAを入れることで、営業チームの管理や工数削減になることは考えられていても、営業活動のその後の支払い・請求周りの管理や、案件受注後のフローとの連動性など、既存のスプレッドシートでの管理体制を変更することによって生じるデメリット、不明点が生まれてしまうため、それらまで一定解決できるイメージがないと承認されづらい。

 1案しかない

多角的な思考や全体最適思考をすると、その過程で様々な候補案が生まれるが、1案しか資料に記載がない場合は、過程での比較検討が伝わらなかったり、意思決定参加者の持つ情報が、持ち込み者の持つ情報に追いつかずに意思決定が進まなくなりがち。

1案しかないことが必ずしも悪いことではないが、多角的な思考・全体最適思考で意思決定参加者が議論できる場を作るためにも、可能性のある複数案は議論のテーブルに乗せることが好ましい。

他社事例の調査不足

6つ目は、「他社事例の調査不足」
社内稟議に上がるほとんどの持ち込みは、他社事例が存在している。
持ち込み者の思考力だけで案を作ることも良いが、他社の良い座組みを取り入れた方が、短期間で案の質が高まることも多い。(SFAの導入も、バックオフィスの仕組みも、営業体制も、基本的には他社で先をゆく事例が存在している)

案の質が低いと感じる時には、他社事例を仕入れると、案の質自体も良くなるし、意思決定も他社の取り組みも鑑みて判断できるため、スムーズに進みやすい。

ABC案シート(議題提案書)で持ち込みの質UP & 意思決定速度を向上

LIFE PEPPERではABC案シート(議題提案書)と呼ばれる、議題を提案する際のシートをあらゆる持ち込みで準備する文化を作っている。

今回の記事では「社内稟議で不承認となる代表的な6つの理由」をメインに書いたため、このシートの具体的な利用ステップや作る上でのコツは省略しようと思うが、ABC案シートを持ち込みの一番最初に発表し、その他情報・詳細情報は補足資料として後から発表を行うと、一定は「社内稟議で不承認となる代表的な6つの理由」で陥りがちなポイントを考え抜いた案を持ち込むことができる。

また、意思決定議論の場がシャープになる。

  • このABC案シートのどの案を採用するべきか

  • 別の視点を加えて別案を生み出すべきか

  • ベースはABC案のどれかを採用し、上がった論点に関して改善を行なって再度持ち込むべきか

を補足資料の情報を含めて、議論を行えば良いため、短時間で論点が明確になり意思決定が迅速に進む効果がある。

稟議や提案での持ち込みが、何度もやり直しになる・案の作成に時間がかかるという課題を感じている人は、「社内稟議で不承認となる代表的な6つの理由」に注意しながら、ABC案シートを作成してみてほしい。

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