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第一回教養のエチュード賞 20選

僕の中で印象に残った作品を紹介させていただきます。
一作品一作品が読みものとして優れています。

ゆっくりと紅茶でも飲みながら至福のひとときをお楽しみください。


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1.写真の音

写真家の薄明さんによる記念すべき最初の応募作品です。
写真から感じる「音」について。ヴィジュアルが奏でるメロディやアンビエント。鑑賞において、自分の中に湧き起こるもの。つまり、つくり手のクリエーションと受け手のクリエーションが交わった時に、身体的な感覚へと結びつけることができるか。美しい写真と呼応するような論理的な言葉に惹きつけられます。表現のヒントが散りばめられた珠玉の作品です。



2.夜明けの雨はミルク色 

それは短編映画を観ている気分でした。写真家の方だからでしょうか。心象と風景の行き来が心地良く、映像となって私の元へ届きました。軽やかに、淡々と、実は大切な言葉が並べられていて。
僕の印象として、写真やデザインを専門的にされている方は、作家やコピーライターという言葉の領域で活動している人よりも「言葉」の抜き出し方が巧みです。前者は「抜き出す」ことに優れていて(それも軽やかに)、後者は「練り上げる」ことに優れています(洗練させる)。
kirakirapinkingさんからは言葉を軽やかに抜き出しビジュアル化させる文章力を感じました。
 


3.「食べたい気持ち」が当たり前じゃなくなった日 

「この人にしか書けない」というものは求心力があります。サワネコさんのnoteを読んで改めてそう思いました。この話を応募作品に選んでくださり光栄です。
とても個人的で深刻な自身の抱える問題を、読み手に負担をかけることなく淡々と(それは心地良いほど!)描きます。おいしそうな食卓の写真が、さらに書き手の心象に光を感じます。このアンビバレンスに、戸惑いながらも「生きるということはそういうことだ」と突き付けられたかのような印象が刺さります。そしてそれは紛うことなく希望へと繋がっていく。ごはんが繋ぐいのち。



4.【小説】その理由、あなたにはもう分からないでしょうけれど 

「読む文章」ではなく「読まされる文章」でした。何も起きていないことが、実は最も罪深いのかもしれません。それが読み手の想像力を最も掻き立るのだとすれば、文学とは何とおそろしいものでしょう。マリナ油森さんの筆力と感受性に感謝します。
こちらは恋愛小説です。男女の間に何かが起こりそうな予感、それは不完全燃焼に終わります(そこまで言ってしまっても問題ないと思います)。つまり「何も起きていない」。それが最も背徳的な行為なのかもしれません。
「何も起こらない」ことを書くと、下手すると本当に「何も起こらない」じゃないですか。つまり、「何も起こらない」中でドラマを生むためには相当な技量が必要となるわけです。そして、それが描けるマリナ油森さんの筆力に感嘆しました。



5.★ねじれる 

艶やかで、筆力の高い、小説が届きました。時計職人の繊細でなめらかな指使い。時計と身体が重なっていく。鮮やかなレトリックが月の光と呼応する。
官能小説です。情欲の描かれ方が溜息が出るほど耽美的なので、上品なまま読み進めることができます。そして読後感に胸の中にぽーっと熱い余韻が残る。
岩代ゆいさんの技巧的な筆力の鮮やかさは小道具の使い方にあります。実はもう一作品応募してくれました。その中でも、とある小道具が登場人物の心象を描く役割として登場します。小道具を触媒に、読み手の想像力の余白へ訴えかける。この技巧がまさに官能的ですよね。



6.きみとの足跡 

とても好きな作品です。ていねいで、まごころが込められた一つひとつの言葉で紡がれる「彼」との思い出。時間が流れ、それらが蓄積されていくごとに胸が熱くなります。
文章から城戸圭一郎さんの人となりが感じられるような。記憶のフラグの立て方と、パートナーへ対する労わる想いが心を打ちます。
心あたたまるロードムービーを観たような読後感を味わえます。



7. 神様の原稿用紙 

純文学です。選び抜かれたしなやかな言葉たちは、読み手を物語へと引き込みます。読み手はその力に任せて、言葉と物語を体感していればいい。言葉に教わるのではなく、読み手の中で自然と起こる感情こそが答えです。この小説はそれを見事に体現しています。
すばらしい作品でした。圧倒的であり、ミステリアスである。近代文学を彷彿とさせる物語の種がやわらかな言葉で包まれる。伊藤緑さんの今後の作品も楽しみにしています。



8.結局はユーモアが人間を救う 

怒涛のガトリング式妄想にうっとりします。好きなものを語る時、人はいつもより少しだけきらきらする。痛快な歯切れの良さが印象的だけど、実はコアにあるピュアさが読み手の心を惹きつけているのだと感じました。
ブログやSNS文化によって軽快な文章を書く人がたくさん増えました。「痛快さ」は興味を惹き、「軽快さ」は読み手のハードルを下げてくれます。そういった文章があふれる中、Saeさんは独特の個性を見せてくれます。「痛快」で「軽快」だけれど、隠そうと思っても隠しきれないピュアさが文章に現れている。それはSaeさんの魅力です。この人にしか書けない文章です。
「この人にしか書けない」を持っている人は強いです。



9.評論家は指し示す? 

評論がもたらすもの。アーティストが創作によって「問題提起」をすることに対して、すぐれた評論家が世に与える「新しい価値観の提示」もまたクリエイティブだと言えます。ヒップホップが一次創作を再構築することで新しい世界を見せてくれるように。興味深い考察でした。
このヤギワタルさんのnoteは写真家のワタナベアニさんとのやりとりの中で生まれたものです。その後、このヤギさんのnoteにアニさんは返事を返します。それらのコミュニケーションも含めて心惹かれた作品でした。
ヤギさんの問題提起力には憧憬の眼差しを送っています。問題解決のための文章が増える中、ヤギさんは常に「提起すべき問題」を抱えています。投げかけられた「これについてどう思うか?」という石は、新たな議論や解釈を生みます。問題解決よりもずっとクリエイティブであり、難易度の高い力です。



10.Études Op.1 

短編小説と長い詩の間を演奏するように言葉が流れていく。強く、やさしく、長く、短く、余韻となって消えていく。その言葉で紡がれた旋律は美しく響く。何度でも体験したい。いつだって、未明の雨を感じ、まどろむことができるから。
宿木雪樹さんの文章にうっとりさせられました。それは小説と詩の間を行き来する音楽のような役割で。宿木さんにとっての「教養のエチュード」がそこには描かれていて、何度も、何度も、噛みしめながら味わいました。
秀逸な小説は読むものではなく、体験するものなのです。



11.限りなく絶望の果てにある希望 

「文学は孤独が育てるもの」だということを、この作品は教えてくれます。風景と時間の流れの淡々とした描写が、言葉以上に心象を物語る。暗夜行路に似た美しさと物悲しさを感じました。文章に浸りながらもしばしば息が詰まる。渾身の作品。
一切、暴力的な部分がないにも関わらず、池松潤さんの紡ぐ文章は読み手の心にひりひりとした感覚を与えます。それは空虚さなのか、孤独によるものなのか。それだけで芸術性の高いこの作品は、書き手にも、そして読み手にもエナジーを求めます。読み終えた時に胸に宿る微かな希望。それはこの文章を体験した者だけに与えられるギフトです。



12.奇跡の建築、伊豆の長八美術館を生んだ必然の連鎖 

風土から掘り下げて、読み解く建築。あらゆる事実に要を打ち、次々と柱を立てて物語を構築しています。それはドラマティックであり、ロマンティックでもある。読み進めながら、文章で構築された作品に建築物が生まれるような感覚を味わいました。
ロンロ・ボナペティさんによる建築物のレポート。整然とされた確かな筆力で、多面的に一つの建築を描いていく。レポートであるのに、それは物語となっていて、その世界の中に惹き込まれます。
読み手に起こる感動もさることながら、この文章を書き終えた後のロンロさんの目に映る景色は言葉で現わすことができないほど輝いていたのではないかと想像します。建築と同時に「書くこと」のすばらしさを教えてもらえた作品でした。書くことに真摯でありたい。書くことを通して次の景色を目にしたい。心から。




13.山の上のアイス屋さん【教養のエチュード賞応募作:再掲 2019.7.21初出】

秀逸。「見るな。」という作品の後に読ませていただきましたが、より表現の幅の広さを感じました。やさしくも、切なくも、おそろしくも、読み手の印象を自在に操る筆力と構成力の高さ。優さんの他の作品も読みたくなります。
優さんはストーリーテラーとしてもはや完成されているような気さえします。心の機微を深く理解しながら、ロジカルに物語を組み立てていく。効果的な手法を重ね合わせて、読み手の心を揺さぶります。
すばらしい作品でした。



14.暴走イマジネーション 

おもしろい人が投稿してくれました。積み重ねてきたことを並べるだけで、魅力的な文章になる。「読ませる」文章は細かいテクニックではなく、きっと「生き方」なのでしょう。冒頭から文末まで心奪われました。
tetsu◇映像作家さんのアプローチに最初から最後まで惹き込まれました。tetsuさんのボキャブラリーと感心を抱くテーマの豊かさ。石油のようにコンテンツ(note記事、映像、企画)を生み出していきます。
冒頭のマウントの取るような文章の畳み掛け、下手すれば読み手に不快感を与える可能性がありますが、全ては手の内。熟達した文章の使い手だからこそ、ドキドキさせながらもきれいに整えてしまう。プロの技を見せてもらいました。



15.グリーフケアを通して 

命について深く考えました。当たり前のことだけど「死」は今いる場所の延長線上にあります。思っているより身近なところに。その繋ぎ目に起こる摩擦をケアする看護師さん。その物語の数々と紡がれる言葉に心打たれました。
訪問看護をしていた頃の紫りえさんの実体験が綴られています。ここに書かれた言葉に「生」と「死」を感じます。そこはかとなく受け入れるものではなく、それは日常に明確に存在しています。看護師さんがケアをしてくれると言っても、ケアする側の彼女ら(彼ら)の消耗された心は、誰がケアをしてくれるのでしょうか。僕たちは日常に対し、より想像力を働かさなければなりません。目の前に当然かのように佇む奇跡に感謝しました。




16.この手から物語が生まれるとき 

創作の喜びが、そしてnoteの楽しさが詰まった記事でした。積み重ねてきた体験と、自分の中にある感情、確かな取材、そして想像力。それらが掛け合わせって紡がれる物語。読み手はその中に小さな〝自分〟を発見します。「これは本当に創作なの?」と思わせるくらいに。
とある物語の創作秘話について書かれたnoteです。創作ドキュメンタリーが投稿されるということも含めて興味深いことでした。物語が生まれるに至る過程、小説を書くための下拵えから、執筆、公開、そして読者からの感想を含めての一連をケイさんの確かな筆力で描かれています。
今回投稿された中で最もnoteらしい(noteだからこそ)の記事でした。
フィクションに対してリアリティを付加させたいという人はぜひご覧になってください。とても大事なことが書かれています。




17.おもいびと 

大作。序盤で、江戸川乱歩の小説がふとよぎりましたが、物語は穏やかな質感を残したまま独自に色合いで展開されていく。その牧歌的なやりとりと、時に哀調を帯びたシーンとの出会いに、どんどん物語へと引き込まれます。作者は過剰に語りません。それは物語の力を信じているからです。
クマキヒロシさんの小説です。クマキさんもまた既にご自身の世界観を築き上げられていて、その豊富な資源から物語を生み出されているかのような印象を受けました。
筆力への自信と、読み手への信頼がなければ、この小説は書き上げることはできないはずです。クマキさんは紛れもなく小説家だと思います。
8000字を超える大作をありがとうございました。




18.【短編小説】 落ちる 

落ちた「声」はまるで飛び降りた自分のようで。何度も何度も「死」と向き合い、「生」を考えたようでした。「声」をテーマに死生観を考えさせる、力のある小説。「現在」からの脱却。僕たちはこの主人公にそれぞれの過去を投影させる。
Kojiさんの小説。確かな筆力と独自の世界観。視覚的な仕掛けだったり、絵としてヴィジュアルに訴えかける力。そこには人間ドラマとしての深みもあり。文章でも視覚的にも全力で楽しませてくれました。多才なクリエイターを発見できた喜びは一入です。



19.オジサンがくれた夏休み  【教養のエチュード賞応募作(再編集 版)】 

泣いた。瑞々しい郷愁が感情だけでなく、肌感覚として蘇ります。それは僕にも同じような体験があったからなのか。年を重ねることの喜びは思い出が増えることにあるのかもしれません。頭の記憶より、心の記憶。豊かな思い出をくれたオジサンに乾杯。
かなったさんの小説(実体験でしょうか?)。細部に渡る文章での再現性はおそらく実体験が元になっているのだと想像します。
すごくよかった。もはや読み手というのは、文章を読みながら先を想像していきます。それは映画であれ、舞台であれ。愛おしくなるようなオジサンとのやりとりは、その冷静な先読みを忘れさせてくれます。つまりは物語へ夢中にさせるということです。
そして、これは個人的な記憶に基づいたものですが、このノスタルジーな田舎の風景と愛すべき人物が重なった時、涙腺を止めることはできませんでした。



20.アルボンディガス争奪戦【レシピ小説】 

食卓には物語がつきもの。二人の間に紡がれた物語が、ぬくもりある料理を忘れられないものにします(たとえば「おあずけ」という散々なものであっても!)。物語が人物と料理へ奥行きを与えます。どちらが主役かなんて野暮な問い。全て含めて一つの味となる。

最後に届いたnoteです。塩梅かもめさんはスペインに住んでいらっしゃる方で、コンテストの締切に間に合いませんでした。理由はスペイン時間で準備していたからです。
そのことを知り、自分が書いた応募要項を改めて確認すると「2019年10月1日~10月31日23:59まで」とし書かれていませんでした。「日本時間の23:59」と書かなかった僕に落ち度があるように思い、作品をエントリーさせました。世界の広さと、それでも繋がれる喜びを知った体験でした。

小説の中で料理が行われ、最後にレシピの紹介をするというおもしろい構成。物語に想いを馳せながら料理し、味わうこともまた、すてきな食卓の楽しみ方です。そこに新たな物語が生まれます。
構成だけでなく、物語ももちろんすばらしいです。料理のシーンはまるで音楽のように心地良いメロディが聴こえてくるようでした。



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