パロ・アルトの冬学期、資本市場とインパクト。

1月6日、冬学期がはじまりパル・アルトのキャンパスに戻ってきた。カリフォルニアのイメージには全く似つかない寒さだ。

貧乏生活のため、ハワイ経由。東京(夜9時発)→ハワイで朝から夜まで12時間乗り継ぎ(夜10時発)→サンフランシスコ(朝5時着)という、強行軍を試した。ビーチで12時間ゆっくりと言えば聞こえがいいけど、1日で2度の夜行便は、2度とごめんだ・・・。

Quarter System(4学期制という名の実質3学期制)を引いている大学では、1月6日から授業が始まる。東海岸の2学期制に慣れてしまっている僕としては、本当に冬休みが短い。

豊富な授業が取れる反面、冬休みでの体験(短期インターンや海外での視察プログラムなど)が限られるのは、トレードオフとなっている。

秋学期を振り返ると、「コーポレート・ファイナンス」、「アカウンティング」、「最適化とシミュレーション」、「組織行動論」、「戦略的マネジメント」、「リーダーシップの実験室」、「ビジネス倫理」と、ほとんどの授業が必修だった。

多くの同級生にはだいぶドライだったようだが、戦略コンサルティングでも投資銀行出身でもない僕は、経営の中で我流で体験したことを基礎から体型的に整理でき、非常に面白かった面もある。

ただ、より楽しみになのは、いろいろとテーマを持って授業を自由に選択できる冬学期以降となる。

今学期考えたい個人的なテーマの一つは、「(機関)投資家の視点から見る『インパクト』の意味」だ。

セルフ・ブランディングを越えた「インパクト投資」の可能性

インパクトのスケールを目指している組織には、Equityでの調達にしろ、Debtでの調達にしろ、あるいはPhilantholopyにしても、多かれ少なかれ資本が必要になる。

実務家としての自分は、HLABで行いたい事業とインパクトに対して資本コスト(と自由度の制約)が高いと判断し、いずれに手法でも調達をせずに事業を伸ばすことを選択した。これが正解かどうかは正直わからない。

事業成長とインパクトの拡大を効率的に実現するために、資本調達が効率的であるケースがあることに間違いなく、「投資家」サイドからの目線は一度考えてみたいテーマだった。「インパクト投資」がなぜワークするのか、の問いに対して、個人的に満足のいく説明を受けたことがないからだ。

社会的インパクトの分野において「先進的」とされるベイエリアにおいて、多くの関係者がキャンパスを訪れるが、その多くは「自称」インパクト投資家だ。

ほぼ自己勘定で投資を行う「オミディア・ネットワーク」や「エマーソン・コレクティブ」などを除けば、ほとんどのケースで「インパクト投資」は、

「我々は他のファンドと違う、社会にもいいことをしてますよ」
(だから、自分たちにお金を預けてください。)

という、ベンチャー・ファンドにとってのテーマによる差別化、ブランディングの要素とに過ぎないになってしまっているように感じる。そこに、ビジネス・モデルのイノベーションが存在するようには思えない。

そもそも、現行の資本主義システムにおいて、外部の資本を預かる投資家にとっては、リターンを(一部)諦めてインパクトを追う合理的理由が存在しない

外部のお金を預かる投資家が投資可能なのは、たまたま利益追求を求めた先にインパクトがあった場合のみだ。(したがって、発展途上国における通常のインフラ投資が、それっぽく「インパクト投資」と呼ばれたりする。)

一方、資本を受け取る社会起業家側にとっても、そのインパクト投資家から資本を受け取る理由が全くと言っていいほど存在しない

よく「プライベート・セクターにおける経験に基づく専門性を活かせる」と言われるが、これも資本に紐づく理由が特にない。特殊なケースをのぞき、投資銀行やコンサルティングに身を置く若手を雇った方が、時々アドバイスをくれる方がいるよりも実務家としては助かるし、もう少しマクロなトピックに関して重要なのは、より深い関わりで歩みをともにする理事会/取締役会やアドバイザリー・ボードの構成だと感じる。

資本市場に「インパクト」を位置付ける取り組み

しかしながら、企業が無法地帯でゲームを戦っているのかというとそうではない。例えば、既存の法的枠組みの中で、フィデューシャリー・デューティー(Fiduciary duty)の順守が求められている。

だとすれば、現状の資本市場の中で、いかに「インパクト」「社会善」をゲームの中のルールに位置付けられるのかが、キーとなるはずだ。

こうした可能性に関しては、オクスフォード大で学部長だったコリン・メイヤー教授の「Firm Commitemnt」や、ロンドン大に「Master of Public Purpose」学位を新設した経済学者、マリアナ・マッツカート教授の「The Value of Everything」などで、理論的な検討が行われていて興味深い。

「資本市場と機関投資」と「インパクト投資」などの授業で、こうしたテーマに焦点があてられている。全く答えのない世界ではあるが、全く門外漢なキャピタル・マーケッツを学びながら、こうした内容の考えを深めたい。

幅を広げる意味で、「インセンティブと組織設計」「ビッグデータ」「組織成長の戦略論」「長寿社会のビジネス機会」など、今まであまり馴染みのないテーマの授業が揃っていて、チャレンジングだが楽しみな3ヶ月になりそうだ。


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