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わかりやすく理解する、非営利組織(NPO)の事業モデル(1)

(1)寄付に「頼る」という表現が招く、大いなる誤解。

非営利事業について話す時、NPOや社会起業家に近い立場にいらっしゃる方でさえ、(たぶん何気なく)使ってしまう表現があります。

「寄付に頼らないようにできると良いね!」
「寄付に頼らず、ビジネスとして成立させないと!」

たぶん、裏にあるのは、「寄付に頼るのは甘い」といった考えでしょう。こうした表現を聞くたびに感じるのは、非営利組織の経営と事業モデルに対する抜本的な理解不足です。

Appleに対して、「iPhoneの売り上げに頼らないようにできると良いね!」っていってるようなものです。確かにiTunesを核としたサービス事業もありますが、別にiPhone売り上げそれ自体も立派なモデル、ですよね?

iPhoneが売れるのは、デバイスを利用する顧客体験が優れいているから。同様に、iTunesを核としたサービスが売れたのは、そのサービスの顧客体験が優れいたからに他なりません。

そう、他の様々な事業モデル同様、「寄付モデル」は、寄付者に対して顧客体験を上手くデザインした際に成立する、立派な事業モデルの一つであり、非営利組織が戦略的に取りうる施策の一つです。そこに優劣はありません。

そして、こうした非営利事業が取りうる選択肢としての事業モデルは、他にもたくさんあります。

(2)イシューから始めよ:営利事業と非営利事業の違いとは?

では、そもそも・・・。

「営利事業」と「非営利事業」の違いってなんだと思いますか?

非営利事業の組織運営に関して、プログラムの最初の講義で決まって聞く質問です。

こう聞かれて、すぐにまともに答えられる学生はほとんどいません。先日、ビジネス・スクールの講義で同じ質問をしましたが、30-40代のビジネス・パーソンでもそれは同じでした。

「Non-profit(非営利)」という名前は、時に大きな誤解を生み出します。当たり前のことですが、営利企業であろうが、非営利組織であろうが、利益を生み出さなければ事業は回らないのです。(想像してください。4月1日に、銀行預金が0になってしまったら、どのように出勤すれば良いのでしょう。)

その利益を、様々な事業モデルで作ろうと試みる。限られた資源をどのように投資して、インパクトを最大化するのかの「財務戦略」が事業の根幹にあることは、営利事業と全く違わないのです。

むしろ、複雑に絡まる多数のステークホルダー(利害関係者)が存在する分、より洗練された、複雑な事業モデルが求められるとも言えます。

まず、スタートアップの起業家が「マーケット・サイズはどの程度か?」「成長可能性はあるのか?」と考えているとき、我々ソーシャル・セクターの人間は、まず解決したい社会的な課題や問題を定義します。

そして、その課題が発生する過程や、利害関係者(ステーク・ホルダー)などの社会的構造を深く分析します。最後に、それを最も効果的に解決可能、またはインパクトを最大化できる「事業モデル」を、戦略的に選択していくわけです。

ちなみに、この一連のプロセスを業界用語で「Theory of Change(ToC:変革の理論)」と呼びます。

もちろん、結果的に、その「事業モデル」が、営利事業で用いられるものと同様である可能性も大いにあります。大抵の場合、この方が継続性が高く、インパクトを最大化できる可能性が高いため、これがまず第一に考えるべき選択肢であるとも言えます。そして、通常のやり方で解決が難しければ、より複雑な、他のモデルを考えるのです。

ここをうまく分析しきれず、ToCを確立できないで進めてしまうと、とりあえず理念を主張するだけに留まったり、短期的なファンドレイズと単発イベントの連発で終わってしまったりして、「理念はあれど効果はない」という結果に終わってしまうわけです。

(3)"Not-for-profit"(=非営利)ではなく、"For-purpose"(=目的志向)と考える。

こうした「非営利(Non-profit)」という名前がもたらす様々な誤解を嫌って、営利志向企業(For-profit Organization)に対して、目的志向企業(For-purpose Organization)という言葉が好きです。

Non-profit/Not-for-profitは、決して「非営利を志向する」わけではないのです。それでは自己目的化も甚だしいですね。あくまで、目的を志向する上で、利益の最大化はあくまで手段の一つである、と逆のプライオリティで考えるわけです。

米ニューヨークの教育NPO、「Pencils of Promise」の創設者アダム・ブラウンがこれについて、熱く語っている名著を紹介しておきます。

NYでコンサルタントをしていたアダム・ブラウンが、学生時代にインドを訪れて体感した教育格差の問題を解決するため、会社を辞めて25歳で起業し、右も左もわからないところから組織を成長させる様子が、活き活きと描かれた一冊。関美和さん訳の日本語版も素晴らしいので、ソーシャル・ビジネスに興味ある方にもオススメです。ちなみにですが、アダムのNY大でのルームメイトが、アレックス・ソロス。ヘッジファンドのジョージ・ソロス氏の三男で、氏の慈善事業部門を引き継いでおり、初期の支援者の一人だったとのこと。やはり、どれだけ実力があっても、人の縁は大切です。

さて、以上を踏まえると、冒頭に提起した表現、正しい問いかけは、下記の二つのいずれかであるはずです。

・この社会課題の解決を考えると、寄付モデルより最適なビジネスモデルがありそうだよね。・・・(1)
・継続的な寄付を獲得する上で、今より良い戦略がありそうだよね。・・・(2)

なるほど、精緻な分析を経て、寄付を狙いを定め、継続的に獲得している組織はたくさんあります。寄付金で利益(「留保」と呼んだりしますが)が生み出せている組織は、それは素晴らしいモデルでしょう。

一方で、「日本では寄付が集まらない」といった声もよく聞かれます。こうした組織は、「寄付者にたいして十分な顧客体験を生み出せていない」と解釈して打ち手を検討するのが、正しいアプローチではないでしょうか。

例えば日本の大学。打ち手として、
(1)PFIの活用や産学連携、知財を利用した「事業創出」
という、今盛んになっている動きも良いのですが、
(2)「寄付者の顧客体験をデザインする」というアプローチ
ももう少し真剣に検討されても良いと思います。

(4)ソーシャル・ビジネスにとって、財務戦略は一丁目一番地。一方で、NPOの事業モデルは、体系的に理解されていない。

「お金」はNPOの経営者にとって「も」最大のテーマです。どれくらい必要なのだろう。どこから獲得すれば良いのか。いろんな問題があります。

よく、NPOは財務関連に弱いと考えられてます。株式会社でやっていると「事業として回っている」、NPOでやっていると「事業が回っていない」という、表面的な判断を下す人もなかなか多い。

確かに、課題解決への情熱から事業経営に乗り出す、NPO経営者にとって、当初は「プログラム開発」の方が得意なことは多いです。エンジニア起業のスタートアップのようなものでしょうか。だからこそ、財務は悪戦苦闘しているし、苦心している領域でもあります。

ただ、一般に考えられているより、NPO経営者の多くは、財務を深く理解している、もしくは理解しようと務めていると考えています。普通は事業として存在しえない領域で事業を成立させるべく、事業モデルや財務戦略を考えるわけですから。

現に、アメリカにおいて、NPO/ソーシャル・ベンチャーは、その難易度から、スタートアップや大企業の経営経験を経た中年の起業家が、次のステップとして取り組むステージであることが多いようです。私のような、学生起業が多い日本とは対照的ですね。

では、一体NPOの事業モデルって一体なんなのか・・・。僕自身、体系的な理解がいないまま、がむしゃらに手足を動かし、周り道をしたことが多くありました。

これを体系的に理解できると、事業運営側にとっても、支援者にとっても、非常に社会課題に取り組みやすくなるのではないでしょうか。次回は、僕が個人的に好きな事例も取り上げながら、NPOの事業モデルを少し体系的に整理したいと思います。



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