秘密計算スタートアップを辞めます。

どうも、アカンパニーの高橋です。

今回は「Acompanyは、もう秘密計算だけの会社じゃありません。」という話です。

この度、Acompanyは秘密計算スタートアップから「プライバシーテックスタートアップ」へと事業の方向性を再定義いたしました。

今回の方針の再定義の背景をこのnoteではまとめていきたいと思います!

これまでのAcompany

Acompanyは2018年6月創業で、1年半の暗中模索を経て、2020年頭から約2年間、暗号化したまま計算処理を行える技術である、秘密計算を主軸に事業を行ってきました。この2年間では、ゼロから独自のSMPC(秘密計算方式の1つ)プロトコル「QuickMPC」の開発や秘密計算コンソーシアムの設立、マーケティングやヘルスケア、走行情報などの領域での実証実験などを実施してきました。

(暗中模索時代、通称アカン期の話は以下のnoteで取り上げています)

このように秘密計算領域にどっぷりとリソースをぶち込んで、やれることはとにかくやってきました。2年間全力で秘密計算領域に取り組む中で2つの大きなインサイトを得ました。

1. 秘密計算利用における法律の壁
2. データコラボレーション全体の課題

それぞれについて簡単に説明します。

1. 秘密計算利用における法律の壁

秘密計算は、大きく2つのシーンでの有益な利用ができます。1つ目は、一切平文(生データ)で扱わないので、セキュリティが高い状態でデータを扱いたいシーン。2つ目は、データの中身を第三者に開示せずに、有益な分析結果だけを得たいシーン。

Acompanyでは、後者の用途での利用をメインに事業化を進めていました。

組織を超えたデータコラボレーション(データ連携)は、マーケティングの領域をトップランナーに非常に大きな価値を生み出しています。

データコラボレーションの対象データを漏洩のリスクやコンプライアンス的に今までは扱えなかったプライバシーデータや機密情報へ広げることで大きな価値創出が可能なはずだ、と考えてここに秘密計算適応を進めていました。

これは逆説的な事例ではありますが、プライバシー保護によって消えた売上の大きさから、如何にこのようなプライバシーデータが価値を持っているかがわかる事例です。

しかし、プライバシーデータの多くは個人データであり、個人情報保護法で保護されるデータとなります。実際に100社を超える企業と話す中で、データコラボレーションに使いたいデータは個人データであることがほとんどでした。一方で個人データは個人情報保護法で第三者への提供が制限されています。これは、個人のプライバシーや利益を侵害しないためにとても重要なことです。

ここで思いつくことが、データを完全に暗号化(無意味化)して個人がわからない情報にして、提供する秘密計算ならば個人データの提供にならないのでは!?という発想です。

しかしながら、これは法的な位置づけとしては個人データの第三者提供と変わらないという評価になります。そのため、秘密計算はデータの漏洩には非常に効果があるが、実は最も大きな制約になっている法律対応という部分では現時点では有効打にはならないということです。

この部分は、秘密計算の社会実装において非常に大きな壁です。しかし、秘密計算はその性質上データの中身は一切知られず扱えるので、アウトプット(分析の結果)が個人データではないものに関しては第三者提供にならないという評価も可能ではないか?と議論も繰り返されており、新しい技術と法規制の枠組みを模索されている状況にあります。

2. データコラボレーション全体の課題

また、そもそも企業がデータのコラボレーションを行う場合には5つのステップが存在します。

1. 法的アセスメント:法的リスク評価と規制を踏まえた技術選定
2. 入力(共有):個人データの適切な加工
3. 計算(保管):セキュリティ対応
4. 出力:プライバシー侵害するアウトプットの制限
5. 価値評価:ビジネス的な価値評価

企業間データコラボレーションは、この5つのフェーズをすべて問題なくクリアしなければ達成されません。しかし、この5段階の各フェーズ毎に解決が必要な課題があります。さらに厄介なことに、この課題は複雑に絡み合っているのです。

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例えば、価値がありそうなデータのコラボを検証したいが、個人データを直接共有できないから個人を特定しない加工(匿名加工処理)を行い対応したが、データの情報量が落ちたためビジネス的に価値ある分析ができなくなった。といった事が起きます。つまり、問題が独立していないのです。法律対応とビジネス価値のある技術選定と全体設計をしないと、最終的な価値創出にうまく辿り着けないということです。

これはビジネス上大きなハードルになっています。一般レベルでは、法律、技術、ビジネス企画の能力を併せ持つことはほとんど難しく、それぞれの問題を独立的に評価して、事業化を行います。その結果、一部解釈や方針が変わることで気付かず法律違反をしてしまうということが起きやすい状況にあります。

例えば、大きな社会問題になったリクナビ事件。これは、ハッシュ化をすれば個人情報に該当しないという間違った認識で個人データの第三者提供が行われていた事例の1つです。


秘密計算からプライバシーテックへ

この2年間でAcompanyがターゲットとして捉えている業界のトップカンパニーに位置する企業では、データコラボレーションの探索が進められているなと感じています。そういった取り組みの中でプライバシーテクノロジーが活用されます。例えば、JR東さんは積極的に挑戦する企業の1社です。Suicaデータの販売などはアウトプットの制御をk-匿名化などの手法で保護されています。

こういった背景の中で、Acompanyとしては秘密計算だけではなく、データコラボレーションの5段階をすべて解決し、顧客ニーズである「個人のプライバシーは保護しつつ、法律遵守かつ有益なデータコラボレーションの実現」を支援できる事業づくりをしていくことを決断しました。

大枠としては2つの方針です。1つ目は、秘密計算に限らず、顧客が抱える課題にフィットするプライバシー技術の提供を進めるプライバシーテック事業。2つ目は、技術の急速な変化に追いついていない規制に対して、グレーゾーンの解消や新しい枠組みのチャレンジ、法律要件を満たす新たなスキーム構築などに取り組みます。実は、規制適応については一年ほど前から経産省さんと連携しながら、個人情報保護委員会との協議や秘密計算コンソーシアムの立ち上げなどに取り組んでいました。なので、その取り組みをより力を入れていきたいと思っています。

これらを総括すると、Acompanyは秘密計算スタートアップを辞めて、「プライバシーテックスタートアップ」へと進化しましたということです。

余談ですが、今プライバシーテックは激アツです

現在世界中でプライバシーテックに関連するスタートアップが注目され、TOP VCたちも投資をしています。

例えば、GDPR(個人情報保護法のEU版)などの規制対応のアセスメントツールを提供するVantaは去年4月にSequoiaからシリーズAの資金調達を実施。Vantaは、Ycombinatorで歴代最高点数のアプリケーションを叩き出し評価されるスタートアップです。

また、個人データを管理するためのデータプライバシーインフラのTranscendは2020年6月にIndex Ventures, AccelからシリーズAを調達しています。

その他、中国などでもプライバシーテックは注目されています。

また、ぜひAcompany COOの佐藤さんもプライバシーテックがゲキ熱な理由をnoteに書いているので読んでいただければと思います。

まとめ

Acompanyは秘密計算スタートアップからプライバシーテックスタートアップへと進化しました。世界的にもプライバシーテック領域はまさに立ち上がりはじめている状況です。Acompanyは、技術力を活かしながら、プライバシー保護とデータ活用がシームレスに実現できる世界を目指して突き進んでいきます。

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Acompanyでは、一緒にプライバシーテックの未来を切り拓く仲間を募集しています。ぜひ、少しでも興味をもっていただけたら、カジュアル面談でお話しましょう!Acompanyの採用ページまたは、高橋や採用担当のマッケイのTwitterにDMください!

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