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後悔しない事業売却のための心構えと5つのステップ

現在の日本では、年々スタートアップへの資金流入が増加しており、2022年には8,774億円と過去最高の調達額となっています。一方、調達社数に目を向けてみると、2018年の調達社数が2,915社だったのに対し、2022年の調達社数が2,224社と約700社数も下がっています。1社あたり平均調達額に直すと、2018年が1.7億円に対し、2022年が3.9億円と、2倍以上の開きになっており、より少数の企業に多額の資金が流入していることが読み取れます。

一方、スタートアップの出口として有力だったIPOを見てみると、2023年のIPOは96社となっており、ここ10年であまり大きな変化がないことが読み取れます。

このことから、シードなどの初期ラウンドでは資金調達ができたものの、その後の調達ができず大きなグロースができない、また、IPOを目指して事業を推進してきたものの、想定よりグロースができずに苦労しているスタートアップが多いのではないかと推察します。
またVCの立場からしても、ファンドへの資金流入が加速した2013年あたりに立ち上げたファンドが満期を迎え、出資先の処分に苦労しているファンドが多く、他のファンドや事業会社に売却したり、経営陣に買い取ったりしてもらうケースが多いと聞いています。

こういった際に一つの選択肢として近年より注目されているのがM&Aによる売却(株式譲渡)です。昔はハゲタカファンドが一方的に買い取るなど、少しよくないイメージがあったかとは思いますが、今は色んなケースも出てきており、悪いイメージを持つ人は減ってきているのかなと思います。スタートアップに限らず上場企業でも、一部事業をカーブアウトさせ、ポートフォリオの再編を図るなどその動きは加速しています。

ただ、多くのスタートアップ経営者にとって事業売却ははじめての経験で、色々わからないこと、不安なことが多いかと思います。私は過去に2件ほど事業会社の立場で事業売却を経験しています。その経験を踏まえ、後悔しない事業売却をするために必要なことを書いてみました。何か少しでもお役に立つことができれば幸いです。


目的を整理する

なぜ今のタイミングで売却をするのでしょうか。大きな資金、ノウハウを注入してより事業をドライブさせたい、プライベートで資金が必要で株式を現金化したい、個人的な理由で事業を伸ばすのに注力するのに疲れた、など理由は様々かと思います。他の選択肢(他の会社と事業提携、マイノリティでの資本提携をする、既存の他のメンバーに交代する、他の株式を自分で買い取るなど)を踏まえた上で、売却をするという判断ができているのであれば先に進むのが良いかと思います。事業環境などは日々変わっていくこともあり、売却すると判断したらできるだけ早く動くのをおすすめします。

最低限の知識を身につける

売却すると決めたら、必要なフローについて、本を読むなどして最低限の知識を身につけましょう。(売却に限った話ではないですが)
また、売却時、できるだけ減点要素が少ないことに越したことはないので、現時点で社内の法務、労務、税務、システムなどで不安点があればピックアップしましょう。すぐ解決できるのであれば解決した方がいいですし、難しければ解決の方法を整理しておくだけでも、後々楽になるかと思います。

信頼できる人に相談する

売却すると決めたらできるだけ信頼できる人に相談しましょう。最低限の知識を身につけたからといってそのまま活かせるとは限らないですし、経験者だからできるアドバイスは大いにあるかと思います。知り合いにそういう方がいればその方を頼るのも一つですし、いないのであればFAや仲介をやっている会社に問い合わせをしてみて、相談してみましょう。私でも相談に乗ります。

ここで注意していただきたいこととして、あまり信用できない人に相談するのは避けましょう。M&Aなどの情報は非常にセンシティブですし、「可能性があるかも」という噂があるだけで取引先との関係や社員のモチベーションに影響する可能性があります。実績も大事ですが、信頼できるかを一番の要素として選ぶのが良いかと思います。複数のFA、仲介と契約して依頼することも可能ですが、個人的には一つの会社、担当者と専属で契約し、候補先の発掘から契約締結まで全部任せる(一緒にやる)ことをお勧めします。ただ、会社によっては、候補先の発掘が得意な会社、担当者がいたり、契約交渉が得意な会社、担当者がいるので、そこを見極めた上でお願いするのが良いかと思います。契約形態も会社によって少し違ったりするので、契約条件も確認しましょう。

優先度を整理し、絶対条件を明確にする

信頼できる人を見つけたら一緒に優先順位を整理しましょう。最低売却金額、従業員の継続雇用、事業シナジーなど、譲れない条件や、優先度が高い条件について、予め整理しておくと、いざ色んな会社が候補先として出てきた時に優先順位をつけやすくなります。また、予め条件を候補先に伝えておくことで、余計な交渉時間を省くことができ、より条件に沿った会社との交渉に集中することが可能となり、成功の確度が高まります。

候補先と話して確認する

候補が絞られてきたら実際に候補先と面談をしましょう。面談は相手先の求めている条件や考えを知ることができるいい機会です。候補先も色々と質問をしてくるかと思いますが、質問内容によって何を重視しているのかを知ることができます。また、実際に話すことでこの会社、この人と一緒に今後も事業を進められそうか(DD担当者がPMI担当者だとは限らないですが)も知ることができるので、そういった直感的な情報も判断の一要素として入れるのが良いかと思います。

最後に

以上、今回は売却時にできるだけ後悔をしないための心構えとステップについて書いてみました。実際にはDDの対応や契約交渉、想定外の出来事への対応などハードなことが多いかと思いますが、今お伝えしたようなことを意識に持ちつつ、行動していくことで、少しでも納得感のあるディールができるかと思います。
私でも何かお役に立てることがあれば相談に乗りますので、何かありましたらご連絡ください。

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