ベリーショートトリップ〜たまにどこかに行っている〜

44ベリーショートトランス9


2月21日。引き渡しの日。
売主と司法書士を交え登記の手続きと、代金の支払いを行い、譲渡が完了となる。
雨の予報だったが朝から穏やかに晴れていた。

10時、再度不動産屋の事務所に赴く。

すでに司法書士のKさんが書類を広げ準備をしていた。
私はイオン銀行の方で諸々の手続きは勧めてもらっており、サインをするだけだった。
肝心の売主Sさんの方、なかなかお見えにならない。
10時半すぎた頃、事務所のドアが開いた。
「いやいやどうもどうも」
作業着姿で入ってきたSさんはさっきまで家で物置を作っていたという。
「時間まだ大丈夫だと思ってたら、10時になってだんだわね、すみません」
この前の調子でヘラヘラ笑いながら席に着いた。

司法書士のKさんはいかにも法律家という感じでまったく無反応。
「それでは手続きのご説明をさせていただきます」
と事務的に説明を進めた。
私は説明を聞いているようで聞いておらず、ただ銀行の入金の方が気になっていた。
「これさ、6分の1と6分の1っていうのはさ、6分の2っていうことでないの?」
突然Sさんが説明に割り込み、Kさんは意表を突かれたようにきょとんとした。淡々とした説明が突然とぎれ、一時沈黙が流れた。
「はあ、それはですね、あくまで別々ということででして、りんごとみかんを一緒にできないということです」
私はまったく何を言っているのかわからない。
「ん、そうなの、まあいんだけど」
Sさん質問しといて別にどうでもいいらしい。
「あの、6分の1って何のことですか?」
私は質問せざるをえない。
つまりは家の前の私道の持分について、共有している6軒のうちで所有権は6分の1ずつ分割し、共同管理をする取り決めのことを言っているらしい。
そこで、何が6分の1と6分の1かと言うと、私道部分の6分の1と私道に接している敷地の分の6分の1のことを言っていたのだが、足して6分の2になるかというと、りんごとみかんは足せないというわけだ。

それから20分ほど説明が続き、登記手続きは完了した。

あとは代金の入金なのだが、前日ちょっと危うい出来事があった。
本来、この場に銀行担当者がいて、住宅ローンと支払いについての説明が入金と同時に行われるのが通例らしいが、イオン銀行は支店があちこちにあるわけではない。そして、預金口座の管理は通帳ではなくアプリで行う。

登記の手続きと不動産屋とのやりとりも最後はイオン銀行で全やってもらえることになり、だいぶ助かったのだが、契約の最後に、私は入金についてどのような流れになるのか確認していなかった。

というのもイオン銀行の担当者Iさんは当然不動産屋のHさんから私へその流れが説明されているものだと思っていて、あえて説明はしなかったらしい。

最後に私がやっておかなければならないことは、前日までにイオン銀行口座に手出し分の金を入れておく事だけだった。

前日七十七銀行の預金からその金額を引き落とし、イオンの口座へ振替を行おうとした。しかし、昨年12月から七十七の口座が1日に引き落としができる上限が50万までになっていたことが判明。引き落としが出来ないのだ。急ぎ、七十七の窓口に行き通帳手続きでことなきを得たが、契約書には日付も記載されており、入金がされなければ面倒なことになるところだった。

さて、実際に掛かる費用は諸々経費を含めるとで1500万ほどになった。借入金は1390万としたが、しかしそのお金はどこからやってきてどこへ行くのだろうか。

前日まで、どうもその辺がわからないのだ。Hさんに確認の連絡を入れた。

[明日の契約についてですが、出金についてはイオン銀行にお任せしておりましたが、どのような流れになりますでしょうか?]

[明日の融資実行と売主様への入金は全てイオン銀行さんの方で行っていただくことになっております。庄司さまが銀行に行って振込みするわけではございません]

[わかりました](ってそれを何で教えてくれなかったのよ)

と言いたいところだが、もうすでにHさんの特性は心得ている。何度となく[住民票をお願いします]とのことで市役所へ6回は取りに行ったが、実際に使用したのは2枚だったし。


11時。
「では登記手続きがすみましたので、これから融資の実施を行っていただきます。イオン銀行さんへ連絡しますので少しお待ち下さい」

Hさんは率なさそうにスマホを取り出し、銀行へ連絡した。

あくまで、融資は私になされ、その金が売主に支払われる。つまり、銀行は私の口座に一旦1390万を振込み、手出し金と合わせた金額を、再度売主、不動産屋、司法書士とそれぞれに振り分け支払いを行う。
これはどの銀行でも同じらしい。
ただ、イオン銀行は全てアプリで管理されており、そのスピードが速い。

11時10分。スマホのアプリを開いた時点ではまだ、手出し分の金額しか表示されていなかった。

Hさんが連絡を入れるとすぐ、預金残が¥14985000の表示に変わった。

そして11時18分。再度アプリを開くと預金残高¥85000に変わった。

他の銀行の場合はどうか分からないが、わずか3分足らずの出来事だった。

「これから、Sさまの口座に振込みを確認に行って引き渡しの一斉が終了になります」

その後HさんとKさんSさん3人はSさんの口座のある七十七銀行へ確認に向かい、私はそこでお別れとなった。

すぐ振込みの確認ができたとメールが入った。

まるで振込み詐欺のような感じがしないでもない。

とはいえ、ようやく入金と引き渡しが終わり胸をなでおろした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?