ベリーショートトリップ〜たまにどこかに行っている〜

45 ベリーショートトランス10


雨上がりの朝。ムクドリが3羽、土の上に這い出した虫をついばんでいる。

引越しから約一ヶ月。居間の雪見障子から眺める庭が萌え始めている。
前の家主が植えたチューリップや水仙が顔を出し、カラスナエンドウが日を追うごとに鮮やかな緑を広げていく。いろいろ植えようと考えていた庭だが、こうして手をつけず何が出てくるか見ている方が楽しみになってきた。
眺めているといろんな小鳥が立ち寄っていく。

ようやく庭を眺める余裕ができてきたところで、ベリーショートトランス、終盤戦を振り返ってみよう。

無事引き渡しは終えたが、移り住む準備は全く出来ていなかった。
退去の手続きは2月末として、1月末、すでに借家の不動産屋に連絡してはいたものの、こちらは全く動き出せない。一ヶ月ずらしてゆっくり時間をかけて退去と引越しを進めることも考えた。というのも、新居は旧居から距離にして500mほどで、一丁目から二丁目に移動するだけ。ベリーショートトランス(とても短い移動)なのだ。

当然引越し業者に依頼するつもりもなく、車でピストン輸送を繰り返す予定でいた。1ヶ月、二重居宅体制で進めれば余裕ではある。

しかし、どうも気持ち的に2月中に退去を済ませ、3月いっぴから移り住みたいという思いが強くなり、引き渡しの期日が確定した2月中旬の時点で、2月末退去を申し込み確定した。

2月21日の引き渡しの時点で、やっていたことといえば、段ボールを集めてきたぐらいだ。日程は一週間あるが、フルで実働できるは3日。残りは仕事の合間に進めるしかない。

そこで21日の夜、まず入念な計画を立てたのである。

大まかに言うと、とにかく段ボールに詰め込み、新居にある物置に搬入する。
これは考え抜いたとても入念な計画なのである。名付けて、バナダン輸送作戦。

まず、以前紹介したバナナ段ボールを手当たり次第スーパーから収集してくる。とにかく、この作戦はバナナ段ボールがなければ始まらない。
幸い、今回バナダンは容易に手に入り、1月中旬から少しずつ集めてきて20箱は溜まってきていた。なぜ、バナダンかというと、これは積み重ねをしても全くへこたれないからである。新居の物置はおそらく、家具を省けば家財道具全てが収まるぐらいの容量はある。しかし、普通の段ボールは積み重ねすると重さに耐えられず、下の方が潰されてしまう。バナダンは全く頑丈で通気性もよく保管にも適している。これを使わない手はない。

そして、計画のもう一つ要点は、物を取捨選択せず、とにかく詰め込むこと。
時間があれば、断捨離だの、買い替えだのと考えるところだろうが、そんな暇はなし。さらに、私は極度の捨てられない症候群のため、捨てようか残そうか考え出すときりがないのである。とにかく、「全捨て」ではなく、「全入れ」、ということでバナダンに詰め込んでいく。
そして、段ボールに入れたものをノートに記し、いっぱいになったところで蓋を閉じ、番号をつけておく。ノートを見れば番号で括られた中身が分かる仕組みである。この番号を付けたバナダンをピストン輸送する。
この作戦のもう一つの利点は、新居での荷解きが不要ということだ。とにかく、番号が貼られたバナダンが物置に収められる。日常生活で7、8割のものはなくてもいいものだ。それをそのまま保管しておき、必要なものがあるときだけノート開き、番号を割り出して物品を取りに行くようにする。

2月22日から動き出したこの退去作業は思いの外うまく進んだ。
次々と番号のついたバナダンが搬出されていく。ものが捨てられないたちなので極力買わない主義で一般家庭よりは少ない方だと思ってはいたが、よくこんなにあるもんだというぐらい、詰めても詰めてもバナダンが足りない。

8割方収納を終えた時点で、バナダンの番号は50。それだけではたらず、普通段ボールを加えて60箱を超えてきた。もちろんその中には、割り箸や、使わない紙コップや、果ては納豆についているカラシを貯め入れた茶筒など、「捨てろよ」というようなものも多く含まれている。もう一つの難は貰い物が多いということ。特に妻はどこかに出かける度に何かをもらってくる。大きいところでは、ちゃぶ台、茶箪笥、オカロ(炭で入れて暖をとる家具)、大量の毛糸。これまで一番強敵だったのは、古代式の木製織り機である。これがデカくて大量の部品があり、今まで何度となく処分について問責したが、全く応じてもらえない。しかも、一回も使おうとせず、そのうちやるとのことなのだが、この件に触れると逆ギレされ喧嘩になるので口にすら出せなくなってる。自分のものは捨てられないくせに、相手のものは捨てろというのはお互い様で、それが始まると時間がいくらあっても足りない。とにかく、捨てるのは後、「全入れ、凍結保存」だ。

2月25日。退去まであと3日。家具以外の運び出しは8割程完了したが、まだ、終わりが見えない。

夜な夜な詰め込み作業が続いた。

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