あした、あさって。

3、ラナンキュラス

4月。庭を覆い尽くす花々が賑やかだ。月に2度の見舞いの度に装いが変わっている。
「いろいろ話たんだけどさ、本人が家に居たいって言うし、グンちゃんもそうしたいみたいだから、今のところ在宅でできる限り見ていければって言う感じ」
東京から月に数日帰って来ているしーちゃんに今後の事を聞きいた。
「そう。どうなるかな?俺もわかんない。老衰の場合は段々だけど、ガンの場合は突然ガクンと落ちる感じなのかな」
「点滴しないと持たないみたいね。こないだ点滴嫌がって1日しなかったら、気を失ったみたいで。まあね、それなりに覚悟はしておかないとね」
しーちゃんの淡々とした話しぶりはいつもと変わりない。
部屋に行くと、この前来た時と変わりない様子だが、だいぶ顔が浮腫んでいた。
「変わりない?」
「変わりないよ。いつもありがとね」
部屋にはポータブルトイレが置かれていた。
「これでしてるの?」
「うん。最初は嫌だったけど、仕方ないね」
グンちゃんが入ってきて、コーヒーとシュークリームを乗せたお盆をいつものテーブルに置く。
「グンちゃんが介助してるの?」
「あー足はたでっからほれ、支えでればな、車椅子さ乗せでトイレまで行くよりはこごの方が楽なんだ。起きれれば起き出ればいのに、すぐ寝るってよごになんだ。それでもこないだ車椅子さ乗せで庭に出て花見せだんだ」
「そう。あんなに山歩いてたのにねー」
少し励ますつもりで話しかけた。
「これで間違ってたのかな、よかったのかなー、どうかなー、リョウはどう思う?」
「何が?」
「病院で治療すればやっぱりよかったのかな」
「あーそれはわかんないよ。でも、まあ、この方が良かったと思うよ」
「どうなるのかな。リョウはどう思う?」
「んー。わかりません」
正直全くわからなかった。しかし、思ったより病状は安定しているようだ。
「放射線すればよかったのかな」
どうしたのか、今日はやたらと問いかけが多い。いろいろ考えてしまうのかもしれない。
「放射線やった時、具合悪るくなって、だめだったでしょ。たぶん放射線が効果あるとしても、体の方が拒絶してもたないから、選択は間違ってなかったと思うよ。家でグンちゃんに見てもらうのがなによりでしょ」
「そうですか」
「病院じゃこんなにしてもらえないよ。足細くなっちゃたね」脛をさすりながら、命は確かに尽きる方に向かっている事をしみじみと感じた。
「骨折ったのいつだっけ?」
「いつだったけな、5年前か、6年前かな」
「チタン入れてからもだいぶ登ってたよね。懲りずに」
本来ならこんな会話の時は、快活に笑いながら、「普通懲りていかないもんだけどな」と言うはずたが、顔の神経が障っているようで、もうしばらく前から笑顔をみることは無くなってしまった。
「こうなると、どうしようも、ないね〜」
硬直した顔で寂しそうに、辿々しく、天井に向かって言い放つのだった。
「こないだ持ってきた花の名前、ラナンキュラスだった」と言おうとして、やめた。

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