あした、あさって。

4、クレマチス

差し出された手の無数の赤い点が痛々しい。
「点滴、毎日大変だね」
聞こえないくらいの声で、ため息のようにつぶやいた。
「うちはどうなった?」
表情は筋肉が膠着したように動かないが、声にいは張りがあり、先月よりも少し生気が増したような感じがする。
「あー、カーポートの屋根直してて、適当だけどね」
スマホで撮った写真をみせた。
瞼が腫れぼったいがはっきり見えているようだ。
「うーん」
病状は落ち着いている。ただ、宣告された余命は過ぎている。今後いつ急変してもおかしくはない。見舞いに来る度に、これが最後になるかもしれないと言う思いでいた。休みの日は予定入れず、基本家にいるようにしていた。
「ご飯は食べれてるんでしょ?」
今日もコーヒーとおやつを持って入ってきたグンちゃんにたずねる。
「うん。なに食いで、かにくいで、って食欲はあるみでだな。なっちゃんさ頼んで持ってきてもらって。こないだも、なっちゃんのコロッケ食いでっていって、なっちゃんのでねどうだめだって騒いで」
「大変だねー。相変わらず、わがままで」
点滴の液体が血管から細胞間に滲み出て腫れている指先を少しつまみながら声をかける。
「食べることしか楽しみがないから」
「まあ、そうだね。いんじゃない」
「なっちゃんに、いつも美味しいのつくってもらってて、ありがとね」
「あー、作んの好きだからいんじゃない」
開き直ったような口ぶりは、本来の快活さと、どこか死を受け入れたかのような穏やかさがあった。諦めといよりは、元の強気な性格に戻ったような感じを受けた。
「しょーがないよ、こうなったら、一日一日生きるだけだ」
「んー。まーグンちゃんに感謝だね。よくやってるなー」
「いろいろ怒られながらね」
「そりゃ、そうだよ、しょうがない」
初夏の庭はとりどりのクレマチスで花盛りだ。





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