ベリーショートトリップ〜たまにどこかに行っている〜

42 ベリーショートトランス7


年明け早々、私は本契約、すなわち、物件の引き渡しと代金払いまでの手続きに追われることになった。

引き渡しと支払い期限は契約から2ヶ月。もちろん、売主次第である程度融通も効くらしいが、それまで住宅ローンの手続きと保険や登記関係を終わらせなければならない。仮審査をお願いした七十七銀行の審査はすでに通っていて、そのまま本契約を取り交わせば話は早いのだが、土壇場でちょっと待ったがかかった。

仮審査の際、不動産屋のHさんが手書きした概算の書類には金利0.65%と記載があった。まあ、そのぐらいなら妥当かなというところで本審査もそのままだろうと思っていたが、七十七銀行から年末に送られた本契約見積もりを見ると変動金利0.875%とある。

住宅ローンには金利以外にも保証料、手数料とあって、必ずしも金利だけで比較はできなのだが、無条件で0.875%の提示には乗れなかった。

銀行担当者が連絡をくれるとのことだったが、連絡はなく、再度不動産屋のHさんに連絡し相談したい旨を伝えた。

銀行担当者Eさんは忙しいのかなかなか打ち合わせの調整が取れなかった。というのも、Hさんが紹介した七十七銀行のEさんは仙台支店の人で、普段は岩沼におらず、こちらに用事があるついでしか会えないらしい。そのことは何度かやりとりしてのちわかった。

Hさんは受け答えは明瞭でそれなりに頭も切れる感じなのだが、ちょいちょい理解不明なやりとりをかましてくる。会って話すと憎めない感じだが、その後も何度か首をかしげるようなことをかましてくるのだった。

はじめの申し込みの際、住宅購入について相談した際も、
「私だったら、まあ家は買わないですね、もし、将来東京で仕事とかしたくなったらとか考えると、まあ賃貸でいいかなと。こんな仕事していてなんなんですが」などとさらっと言う。
それが営業テクニックならかなり高度なものだろう。結局、その売り込み気のなさや言葉に裏が感じられないことに妙に親近感を抱き契約に至ったということは否めないから案外戦略なのかもしれない。

さて、今度は銀行のEさんであるが、こちらも銀行員らしからぬ感じで気が抜けてしまう。
金利については0・65%で進めてもらえればそのままお願いしたかったが、下がっても0.75%までで、もし他の銀行にそれ以下の提示で審査が通ればそれを元に上司に申告し下げることはできるかもしれないという。電話での話しぶりからまだ20代ぐらいのような感じだった。

それではと、他銀行を当たってみることにしたが、ネット銀行での審査はなぜかすぐ弾かれてしまった。思い当たる節はクレジットカード口座の入金不足を度々やっているからだろう。
しかし、地方銀行は軒並みの数字。信用金庫はさらに高い。

いろいろ調べた挙句、正月3日からやっているイオン銀行に赴くことにした。(35 「新年悪夢」 の内容はその時のこと)。

窓口にいた中年の女性担当者に斯く斯く然然、相談をもちかける。

イントネーションにどこか北東北なまりの感じのある担当者Iさんは
「シチシチさんで仮審査通っているなら大丈夫ですよ」
とにこやかに応じすぐさま見積もりを出してくれた。とりあえず仮審査を申し込むことにしたが、金利はなんと0.43%。地方銀行は太刀打ちできない数字だ。

その後Eさんに連絡すると、他銀行の本契約で数字の入った書類が提示されれば値下げに応じられるが、それでも0.65%が限度だという。

イオン銀行の仮審査は翌日すぐに結果が来てそのまますぐ本審査を申し込むことした。結果は2週間ほどかかるという。

そこで七十七に0.65%で手を打ってもらえれば決まりだった。しかし、その都度上司にお伺いを立てなければ決められないらしい。結局返事待ちということになり、その時点ですでに勝敗はイオンに武があった。

2週間を待たずしてイオンから本審査の結果連絡が来た。諸所の連絡が七十七よりイオンの方が2テンポほど早い。

翌日審査結果と契約内容の書面が届き見てみると、そこには金利の数字は乗っていなかった。代わりに店頭金利からの値引き率という形で数字が記載されている。この辺もイオン方ははすでに見抜いているのかもしれない。店頭金利というのは定価のようなもので、金融機関が定めた金利でそこから値引き率を差し引いた適用金利が実際に掛かる金利ということになる。なぜこのような表示なのかそのカラクリはわからない。結局、イオンの契約内容書類を七十七に提示しようがなく、何度か見合わせてほしい旨を七十七のEさんはHさんを介して伝えてきたが、最後までEさんとは直接顔をあわせることはなかった。

2月に入り、イオン銀行に契約することに決め、Eさんにお詫びとお断りの連絡を入れた。

イオン銀行は保証料はなく、住宅ローンで必ず入らなければならない団体生命保険も特約が付いても金利上乗せがないため相当お得感が感じられた。買い物も5%割引がつく。しかし、精査してみると、手数料については借り入れの2.2%というところで、計算上、七十七が0.6%まで下げた時とトータル的にはトントンであることがわかった。イオン銀行なかななか手堅い。

さらに2月中旬、最後の契約手続きに際して窓口に赴くと担当のIさんが開口早々

「金利、さらに0.1%下がりました」という。

「どういうことですか?」と尋ねると、日銀が金利上げ幅を0.5%まで引き上げたことを受け、イオンは逆に変動金利を0.1%下げ顧客の取り込みに打って出たという。

地方銀行危しである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?