あした、あさって。

途中、ススキと萩をとって向かうことにした。萩はなかなか見当たらず、ずいぶん探した。ようやく線路沿いの茂みの中にそれらしき群生を見つけ、蚊に食われながら数本切り取った頃には日が暮れかかっていた。プルシャンブルーの東の空にまんまるに少し満たない月が昇っている。
「十五夜は明後日かな」
障子を開けて縁側に丸椅子を置いてその上に持参したススキと萩を花瓶に生けて飾った。
「見える?」
反応がなかった。
「団子買ってこればよかったね」
「あー団子なら食べたいな」
「食欲はあるの?」
「うん」
「日暮れんのはやくなったね」
時折意識が薄れるのか反応がなくなる。
「ご飯まだかな」
呂律が悪いようだ。
1日の時間が決まっていて夕食はいつも18時らしい。
「眠剤のまなけないから」
そういえば眠剤をずっと飲んでいることをわすれていた。
「あーそうか」
腫瘍が見つかり入院した際から夜眠れないことをずっと気にしていた。眠剤なしには眠れないらしい。
「眠剤のべば寝れんの?」
「うん。でも切れると目が覚めるね、6時間くらいかな」
あれからずっと飲んでいるとすると相当強いものだろう。
「日中も寝てるんだったら飲まなくてもいんじゃない」と何度か言ったことがあったが、何より夜寝れないのがつらいという。
庭からざわめかしく秋虫が鳴く声が響いてくる。
「じゃ6時になるから帰るわ、またね」
意識が朦朧としているのは腫瘍の進行よりも薬の副作用によるところが大きいかもしれない。しか腫瘍は徐々に神経や血管を圧迫し、いづれは臨界点に達する。その時がいつなのか全く予測がつかない。体の方は特に痛みなどはないようだが転移は至る所に及んでいることだろう。
「うん。またね。がんばります」
呂律の回らない口から不意に出た、がんはまりますという一言に動揺し、手を軽く握りながら
「あ、うん。がんばってね」
と返す他なかった。
ベッドのギャジをあげて食事にそなえてやりながら、
「お月さん出てるよ」
と言って部屋をでた。

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