あした、あさって。

コスモス

彼岸を過ぎても気温は下がらず猛暑がつづいた。
容態は依然として安定している。たとたどしいが会話もでき、食欲もあるようだ。
グンちゃんが夜オムツの取り替えが大変だと言うので漏れないようにする当て方と腰を痛めないやり方の手引きをした。終えてベッドの脇に顔をだすと、開口一番に
「1週間で4キロ太ることある?ないよね?」
と聞いてきた。
「毎週体重測ってもらうんだけど、こないだ4キロ増えてるってなって多分測り間違えだんだと思うんだ。んだげど太ったって気にして」
「1週間で4キロ増えることありますか」
何故か敬語でしきりに聞いてくる。
「無いね。食べてんのそんなに?」
「食べてるかな。だからあんまり食べないようにしようと思って」
「いや、普通は痩せるのに、太ることはないから、食べれるんなら食べた方がいいよ」
「そうですか」
「多分浮腫のせいもあるのかもね」
「そうですか」
「わかりません」
「食べた方がいいですか」
「はい」
「そうですか」
「じゃあね、また来るね」

家を後にして、車に乗ろうとした時、砂利が敷かれた道の脇に低い丈のコスモスが蕾をつけてるのに気づいた。
砂利道の片方は堀川に面し、川縁は鬱蒼とした葦に覆われてる。車から降り、何となく、葦の間をゴソゴソとかき分け、斜面を数メートル降りて水際にでた。干上がった河岸は水底が剥き出しになっている。ひび割れた黄土色の泥と同じ色の水はほとんど静止たように流れが遅く、淀みのあちこちに泡が滞留している。
鮒だろうか、わずかに残っている浅い水の中から一匹の魚が跳ねあがりぽちゃんと音をたてた。
川の水はお湯のように暖かく、生臭い匂いを放っている。葦の茂みの奥からジージーと聞こえる虫の声は日照りに耐える地面の叫びのようだ。
川の幅は20メートルほど。向こう岸には田んぼにつづく砂利道が敷かれているだけで何もない。
ただどうってことない風景が広がっている。










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