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台湾と日本の証拠開示

台湾では、弁護人が事件記録をまるごと見られるのをご存じでしょうか。
台湾と日本の証拠開示をおおづかみにするために、あるとき書いた拙稿が役立つかと思ってご紹介します。


突然ですが、検察官の手元には、一件記録とでも呼ぶべき資料群があるはずです。


検察庁は、「事件記録」「受理」したり(事件事務規程4条)、「事件記録」「移送」したりしています(同87条)。
つまり、手に持って「これ」と指さすことのできる、一群の資料が確かにそこにあるわけです。

「全面証拠開示」という言葉があります。「全面」という言葉の外延が不明確なのが、どうにも気にかかります。
しかし、「受理」したり「移送」されたりしている「事件記録」はそこに確かにあるわけなので、「全面」と言うかわりに、「事件記録」と言うのであればずいぶん明確になるでしょう。


では、「事件記録」を弁護人がそのまま見ることはできないのでしょうか?

分かりやすい仕組みの国が身近にあります。台湾です。
台湾では、検察官が裁判所に事件記録を丸ごと送致します。それを弁護人が、そのまま見ることができるし、PDFで受け取ることもできます。

ところが、台湾では、裁判員制度の導入が議論され、それと共に日本法の証拠開示を輸入しようという動きがあるというのです。つまり、「事件記録」をそのまま見る仕組みをやめて、請求証拠の開示、類型証拠開示、主張関連証拠開示、という仕組みにしてしまうという考えです。
もちろん議論が起こります。

それがきっかけで、私は2018年に台湾に講演に呼んでいただいたことがあります。
日本の証拠開示の仕組みや実務がどうなっているのか、そして、台湾が法制を転換するということが一体何を意味するのか、ということを説明しました。

帰国してからもどうしても気になったので、「論文を提供させてもらえないか」と申し出ました。そして書かせていただくことになりました。
『日本の証拠開示法制及び実務を踏まえた、台湾における証拠開示法制の検討』というタイトルにしました。

その論文は、日本の状況を歴史的な流れから俯瞰しながら、事件記録をそのまま開示する法制である台湾と対比するという構成になっています。
異国の方に紹介する都合上、日本の刑事手続内での資料の流れも、ゼロベースで解説を加えています。

台湾の方に限らず、日本の実務家・研究者・一般の方が読んでも、日本の状況を俯瞰的に捉え、その意味を相対化するために、役に立つかもしれないと考えました。
また、事件記録をそのまま開示する法制の優れた点、そうではない法制の問題点も、ある程度整理して理解することができると思います。

以上のようなことから、その論文をここで公開することにしました。

このPDFが全文です。

ご参考になれば幸いです。

翻訳は李怡修さんに実施していただきました。謹んで御礼申し上げます。
本PDFの掲載については、出版社より許諾を得ています。
律師リンク(掲載稿)

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