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わたしwithくまさんの消しゴム

1年ほど前の記事を唐突に引用して申し訳ないのだけど、わたしにもこういう思い出があった。

今でもあるのかわからないけど、わたしが小学校1年生くらいの頃、香りつきの文房具が流行っていた。
友達が持っていたのはくまさんの形をしたいちごの香りがする消しゴム。
大きさとしては普通のペンケースにえんぴつと共に収まるサイズだったかな。

ある日の休み時間、友達はなぜか、そのかわいいくまさんの耳をちぎってわたしに渡してくれた。
5ミリくらいのかけらだったと思う。
くまさんの耳をちぎったら、残ったそれはもうくまさんではなくない?
なぜちぎった?かわいさ半減では?

まぁとにかく、いちごの香りがするくまさんの耳を受け取った。
さぞいい香りがすると思ったんだろう、6歳くらいのわたし。
5ミリになったくまさんのいちごの香りを、勢いよく吸い込んだ。



くまさんのかけらが消えた。



それはもう本当に一瞬の出来事だった。
あれ?くまさん落としちゃったかな?と思った。
でもどう考えても落ちるわけがない。
右手の指できつく挟み込んだくまさんの耳。
さらに香りを閉じ込めるように添えた左手。
念のため教室の床も見渡してみるがくまさんのかけらはどこにもない。

行きつく先は、わたしの鼻の穴しかない。

え、わたし今消しゴム吸い込んだ…?
それにしては鼻に違和感が全くない。
本当にびっくりするくらいひとつも違和感がない。
いつもの呼吸。いつもの鼻の通り。
咳払いをしてみるも出てくる気配のないくまさん。

違和感がないのはいいが、わたしが吸い込んだのは友達のくまさん。
香りを確かめたなら、返却せねばなるまい。
いっそのこと丸ごと渡してくれてたら、吸い込まれることもなかったくまさん。
しかし出てこないのだから、返却のしようもない。


「すっごくいい香りがしたから、さっきのかけら、くれない?」


友達が快諾してくれてよかった。
もしも直ちに返却を要求されたら、まだ上手に嘘がつけなかったわたしは、消しゴムを吸い込んだ女としての人生をスタートさせていたかもしれない。
おいおい、えんぴつも吸い込んでみろよなどと言われ、いじめられる人生になったかもしれないのだ。あだ名が掃除機になった可能性もある。
その友達が誰だったのか、20年以上経った今は全く思い出せないけれども、生涯感謝し続けるにちがいない友達。大切な消しゴムをくれてありがとう。


こんなしょうもない話を読んでくださっているみなさまは、本当は鼻には入ってなくて床に落ちて転がっただけなんじゃないの?と疑っていることだろう。
5ミリの消しゴムなんて転がってしまえば予想よりずっと遠くへいってしまうし。
でもこれは断固として否定しておくよ。まじで。ほんとに鼻にいたから。くまさんの耳。

だって、ちゃんと鼻から出てきたのだから。


でもそれは違和感があって病院に行ったとか、親が異変に気付いたとかではない。

くまさんを吸い込んでから、どれくらいの日数が経ったのかは全然覚えていない。
数日だったのかもしれないし、数週間経っていたのかもしれない。
とにかくそれは体育の授業中だった。
クラスのみんなで体育館をぐるぐる走っていたときのこと。

なんだか鼻に違和感がある。
何かが落ちてきてる。鼻水ではない。なにかコロッとしたもの。



これ絶対くまさんの耳やん!!!!!!



わたしの異変に気付いた人はいない。いなかったと思う。
このまま隠密にくまさんの耳を処理するしかない。
鼻に指を突っ込むわけにはいかない。そんなことをしては、汚い女子のレッテルを貼られてしまう。
しかるべきタイミングで鼻をスンっとして見事くまさんの耳をキャッチした。
たぶん数日ぶりの再会である。
しばらくわたしの鼻にいたくまさんの耳は、果たしてくまさんの耳なのだろうか。もはやわたしの鼻ク〇なのではなかろうか。

無事キャッチしたくまさんを、わたしは迷うことなく華麗に放り投げた。
今思うと、どうしてそっとポケットに忍ばすなどの選択肢がなかったのだろう。そんなもん捨てて、掃除する側の身にもなってほしいよ。

でもたった6歳くらいだったわたしは、とにかく消しゴムを吸い込んだことを抹消したかったのだと思う。
最初からこのかけらは、わたしの中になんてありませんでしたよ、と。
その懐かしき校舎も体育館も、建て替えられてもうなくなるから許してほしい。
抹消したかった出来事は、色褪せることなく記憶に焼き付いている。
忘れてしまいたい。




この話、あまりにも恥ずかしくて人生でだれにも話したことない。
あと20年以上前って書いたけど、30年近く前だったことに気づいて震えた。


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