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まさかの出来事

 他者に対する様々なアプローチによって、大学生活に工夫を施し、必死についていこうとしていた私ですが、希に予想もしない「まさかの出来事」に遭遇することもありました。
 机の改良によってノートテイクのスピードが上がったとはいっても、やっと人並みか、少し劣るくらいのスピードであることには変わりません。故に終業のチャイムが鳴った後も教室に残って板書を書き写し、急いで次の教室へ、ということも少なくありませんでした。それでも追いつきそうにないと感じていた入学当初は、あらかじめ頼んでおいた友人に代筆してもらったり、ノートをコピーさせてもらったりしていました。
 そんな学生生活にも慣れ、2度目の定期試験を控えた頃だったでしょうか。私に『ノート貸して』と言ってくる勇者が現れました。あまりに自然だったので、一瞬面喰らいましたが、私にとっては一大事です。わずか半年ほど前、健常者の世界に飛び込んだ時には想像もしていませんでした。
 
『だってオマエは毎日(講義に)出ているから』
後に理由を聞くと、至極当然というふうにこんな答えが返ってきました。
 
 そう。この頃になると周囲は単位取得上限ギリギリまで講義を欠席する者も珍しくなく、クラスメイトも例外ではありませんでした。しかし、私は曜日によってスクールバスの乗車時間を決めており、大学を欠席する時はその都度、バスの運転手に連絡することになっていました。それを少々「面倒くさい」と感じていた私は、毎日欠かさず登校していたのです。それを、片道2時間かけて通った末に講義を休む気にはなれませんでした。
 こうして、真面目キャラが定着した私はノートを貸すことになったわけですが、試験直前になってもなかなか返ってきません。相手はさぞかし勉強したのかと思いきや、『オマエの字、何て書いてあるのか分かんねぇ。全然読めねーよ』と言われる始末。2人で大笑いするのがいつものパターンです。そして私は、心の中で突っ込むのです。

『オレは最初から(字が)汚いって伝えてるし。脳性麻痺からノートを借りるオマエが悪いんだよ!』と。

こんな自分もノートを貸せることを教えてくれた友人には感謝しています。彼とは今でも定期的にお酒を酌み交わす仲です。

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