住宅街のコンビニ
住宅街にある一軒家の玄関を開けるとコンビニがあった。すぐ左は雑誌コーナーでその奥にペットボトルや缶の飲み物が並び、パン、サンドイッチ、デザート、お菓子、カップ麺、白い床に白い天井のコンビニそのものだった。
レジ前にはホットスナックが売っている。レジは電子マネー対応みたいだ。レジのカウンターの向こうには煙草が並んでいる。レジの前に立っていると奥から店員が出てきた。コンビニに深夜や早朝に行くと必ずいる中年のおじさん店員のような人だった。
「ここは……」
「コンビニです」
真顔で、分かりやすく無愛想な人だ。その代わりものすごいスピードでレジ打ちしてくれそうだ。手練れと呼ぶべきか。もう長いことコンビニに立ち続けている、そういいたそうな雰囲気で立っている。
「でもどう見ても家でした」
「コンビニです」
確かにこの家の中はコンビニ然としていて、コンビニ以外に何と呼ぶかといえばやはりコンビニとしかいいようがなかった。
試しにおにぎりをレジへ持ってきた。綺麗な三角形の、のりと白米が分離して包装されたおにぎり。
「110円です」
安売りしないでその金額は安いなと思いながら百円玉2枚をレジに出す。
「90円のお返しです」
ちゃんとお釣りが返ってきた。おにぎりも買えた。
次にお茶のペットボトルを持ってきた。500ミリリットルのお茶だ。
「156円です」
ぎりぎり150円では買えないんだなと思いながら小銭を出す。
「44円のお返しです」
またちゃんとお釣りが返ってきた。お茶も買えた。さっきのおにぎりを買った時のお釣りの小銭を使えば良かった。
じゃあお菓子は、パンも、このプリンもチキンラーメンもジャンプも買えるんだろうな? それらを次々にレジに持っていくとやはり全て買えた。ちゃんとお釣りが返ってきた。
「マルボロ、メンソール8ミリ」
「すみません。煙草は飾りです」
煙草は買えなかった。何十種類も置いてある煙草とそれぞれ種類ごとに振ってある番号は全て飾りなのか。でも煙草が飾りで良かった。煙草も買えてしまったらここをコンビニだと認めてしまわなければいけない。
「でもお客さんいっぱい買ってくれたからサービスであげます」
そう言って手渡されたのは間違いなくマルボロのメンソール8ミリだった。
「ありがとうございましたー」
間延びした声を背に開けるドアはやはり他人の家の玄関だった。マルボロのパッケージに書いてある「いかに煙草は人間にとって害であるか」という内容の文章を眺めていた。振り返るとそこに一軒家がある。それはいたって普通の玄関だった。
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