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2020年10月の記事一覧

〈掌編小説〉 蝶

 その蝶は鮮やかな模様をしていた。どの図鑑にも載っていない模様だった。彼の周りで様子を伺うように舞った後、腕のちょうど採血をする辺りに止まった。あの蝶はいたずらに止まっているのではなく彼の血を吸いに来ている。蝶が去った後、腕には何の跡も残さず、蚊のように痒くなりもしないと彼は言う。彼の部屋でたまに見かけるその蝶を、私は心底気持ち悪いと思う。そして彼はその蝶に餌付けする。窓を少し開けて蝶が来るのを待

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