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まずは何処から来たのか?

絵を描く父と、洋裁をする母の間に生まれた。
感覚の人と職人気質の2人が作りだす家庭という小さい世界から始まった。

父は白い紙と鉛筆だけあれば、小さな私の目の前に色々なものを描き上げてくれた。紙に浮かび上がるように生まれてくる絵に驚きワクワクしたのを憶えている。それは黒の鉛筆1本で描いたデッサンの様な黒い絵だったが、とにかくたくさんの色を感じて美しかった。


母は服を作っていた。持ち込まれた布や、父が買い付けてきた布がアトリエにはたくさんあり、綺麗な糸や洋服の雑誌に載っている美しい世界が全て目に飛び込んできた。そして布から出来上がる洋服・立体、それを着て歩き出す人達。
全てを面白く感じていた。いや、感じていたのだろう。今から思えばそうだったんだろう、という話になる。その時はそれが当たり前で、ただただ目に飛び込んできて、ただただしっかりと当たり前に見ていたとしか言えない。見ていた。楽しかった。

その2人の影響なのか?環境なのか?分からないが、毎日落書きをたくさんしていた。適当にいつでも何処でも色々描いていたような気がする。パンダが好きでとにかくたくさん描いたし(上野動物園にパンダが初来日し日本がパンダブームの後に生まれた)、仮面ライダーのようなものも好きで描いていた気がする。その頃の雑誌や映画のチラシを真似して描いていたり、hiphopが流行り出した頃には(小学校の同級生がビスティーボーイズのファーストアルバム「licensed to ill」のレコードを学校に持ってきて見せてもらい、カセットテープに録音してもらった)、英語の文字やレコードのジャケットを何度も描いていた。それは絵というよりもイラストやデザインのような感じだろうか。
雑誌やチラシも好きで、その雑誌から好きな写真やイラストや色を切り抜いて、いくつもの袋や箱にいっぱいに集めていた。ただの紙切れなのだが、宝物のように感じていた。そこからコラージュを始め、10代はそればかりしていた。(その頃の作品は全て捨ててしまった気がする。後で物置を探してみよう。)

ミシンを触り始めたのも早かった気がする。生活の中にミシンがあり、いつもミシンの音を聴きながら昼寝をしていた。縫う事を仕事にしている母にとっては、子供が洋服や靴下に穴が空いたぐらいではミシンを動かしてはくれなかった。「忙しいから、そんなものは自分で直しなさい!」といつも言われた。小さな頃からだ。だから仕方なく、針と糸を使ったり、ミシンを使い始めた。ミシンを使うことは初めは怖かったのだろうが、全く憶えていない。ただ遊び道具になるぞ!という楽しさが残った。それからは着なくなった洋服や、アトリエにある布を使って、切ったり繋げたり。雑誌から切り抜いた写真紙も使い、ジャケットの背中に縫い付けたり。ただただ布と糸とミシンと紙と色と線で遊んでいた。最後には自分で作った洋服を着て遊びに行ったり学校に行ったりもしていた。洋裁の学校なら分かるが、普通の学校に出来の悪い洋服を着ていくのだから、今考えるとかなり変わっていたのかもしれない。気持ち悪い大男だ。

そんな2人の間に生まれ、育ち、描き始めていた、縫い始めていた。血は争えないというのはこうゆう事なのか。

血の話でいうと、父は長崎に生まれ原爆にあっている。その時代のせいなのか、本当の両親を知らない。18歳の時に戸籍が必要になり役所で戸籍を見たときに、今の両親は本当の親ではないと知ったらしい。私も祖母だと思っていた人が本当の祖母ではないと知ったときは、悲しみはないが一瞬だけ複雑な感情になった。しかし父と私たち家族は最後まで祖母と愛で繋がっていた事を強く感じる。

祖母が亡くなった後、私は一人旅でお墓参りに行き、父や母の親戚と会ってお酒を飲んだ。その時にこんな事を言われた。「あなたのお父さんの本当のお母さんは、育ててくれたおばあちゃんと繋がりのある娘さんだったのよ。その娘さんが一人で子供を産み、育てられなくなったので、あなたのおじいちゃんおばあちゃんが引き取って育ててくれたの。」「そしてお父さんの本当のお父さんは、作品を作る為に旅で長崎に来た画家さんなのよ。その後に長崎を離れてしまったみたいだけど。」

驚。笑。漫画か!そんなドラマのような事があるか!
東京に戻り父親に何気なく聞いたところ、「そんな話は聞いた事がない」と笑っていた。
それが本当なのか、作り話なのか?謎のままだ。
でも人生は続く。死んでもこんな面白い話が続いていくのなら、楽しいものだ。

あるお医者さんが言っていた。
音楽や数学の才能は遺伝しない。絵や運動の才能は確実に遺伝する。それは科学的に証明されている。

おじいさん・おばあさんがいて、父や母がいる。そして私になり、次は実花へ。
右から左だ。美しく描き、美しく生きる。楽しいものだ。

出会ってくれて、ありがとう。乾杯を。

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