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イギリス中学校のポジティブフィードバック

イギリスに来てから約2年が経ち、セカンダリースクールのYear 7から学校生活をスタートさせた息子は7月にYear 8を終えました。
学期の終わりに保護者に渡されるレポートカード(日本における通知表に相当)には、各科目における「Attainment(達成度)」と「Effort(努力)」の4段階スコアに加え、教師からのコメントが記載されています。これは息子の学業の現状を知るための情報であり、同時に各教師が生徒に対してどのような考えや姿勢をもっているのかを感じることができる、貴重な内容です。以下に、その中からいくつかのコメントを紹介します。

・English 英語
"He approaches his work in English with quiet diligence and determination. He is a delightful member of the class and is making good progress. His written English is now showing very good cohesion and skill. He has certainly come a long way with his English skills. His vocabulary is showing excellent progress. In the film trailer unit, he could describe the scenes in English using a full range of appropriate vocabulary. "
「彼は静かな勤勉さと意志をもって英語学習に取り組んでいる。彼はクラスの楽しい一員であり、順調に進歩している。彼の書く英語は今、とてもよくまとまり上達してきました。英語力は確実に向上しています。彼の語彙力は素晴らしい進歩を見せている。映画の予告編の単元では、適切な語彙をフルに使ってシーンを英語で説明することができました。」

・Physics 物理
"He continues to do well in Physics and listens carefully in class. He shows good interest in the topics studied and is developing his understanding. His end-of-topic tests often indicate effective revision and recall, although at times he would have benefited from learning more keywords and definitions such as for Upthrust and Forces. His calculations were excellent for the Pressure topic with very competent rearranging.  I was pleased that he remembered to put out the correct units, and this reflects his good attention to detail."
「物理の学習はよくできており、授業にもよく耳を傾けています。勉強したトピックに興味を示し、理解を深めています。トピックの終わりのテストでは、効果的な復習と想起がしばしば見られますが、Upthrust や Forces のようなキーワードや定義をもっと学ぶとよかったでしょう。圧力のトピックの計算は非常に正確で素晴らしかった。 正しい単位をきちんと覚えていたことが良かったです。細部へも注意を払っている。」

・Biology 生物
"He is a hard-working individual. He has demonstrated a very good understanding of the topics of Respiration and Photosynthesis. To improve, he needs to revisit the topic of Reproduction, to deepen his knowledge of this important topic area. He would benefit from a little more active in seeking out teacher feedback on how to improve further. Overall, a promising year so far. Well done."
「彼は努力家です。呼吸と光合成のトピックを非常によく理解している。より良い結果を得るためには、生殖のトピックをもう一度見直し、この重要なトピック分野の知識を深める必要がある。さらにレベルアップするために、教師からのフィードバックをもう少し積極的に求めるとよいだろう。全体的には、これまでのところ有望な1年だった。よくやった。」

・Games 体育
"He continues to make excellent progress as a result of his very mature and thoughtful approach to this subject.  Whilist he still lacks a little confidence with his verbal responses, he demonstrates a solid understanding of the theoretical aspects of the subject through his practical delivery. He is well liked by his peers and is always a popular member of any team that he is part of. Another excellent year for him who has represented the school in several activities."
「この科目に対する非常に成熟した、思慮深いアプローチの結果、彼は素晴らしい進歩を続けている。 言葉での受け答えにはまだ少し自信がないようですが、実践的な授業を通して、この教科の理論的な側面をしっかりと理解しています。彼は仲間からも好かれており、所属するチームの人気者だ。今年もまた、学校を代表していくつかの活動に参加した。」

これらのコメントは、スコアだけでは伝わらない、肯定的かつ思いやりのある言葉で、一人一人の生徒が大切に思われていることを感じさせます。そして、改善のヒントも織り込まれ、未来に向けた成長のアドバイスが示されています。

もちろん、イギリスの学校生活2年目の息子には、語学や文化などの様々なチャレンジがあります。その中には、「学業成績を維持し、学習とアイデアのコミュニケーション能力を伸ばすためには、授業で話されることをしっかりと追いかける必要がある」というアドバイスや、「彼の意見や考えを聞くのが楽しみ。クラスでのディスカッションにも積極的に参加してほしい」というようなコメントも含まれています。しかしながら、これらのコメントは改善点を指摘しつつも、基本的には肯定的に伝えられています。

成長のためのコミュニケーションとしてのレポートカード

最近読んだヴィランティ牧野祝子さんの著書「ポジティブフィードバック」(あさ出版、2022年)によると、「ポジティブフィードバック」は成長のための良質なコミュニケーションを指し、単に人への反応・意見・評価といった「フィードバック」とは異なるものであると説明されています。まさに、レポートカードのコメントはこのポジティブフィードバックの一例と捉えられます。

ポジティブフィードバックは、著者によれば以下の4つの「承認」を基軸としています。
1.成果・結果に対して、承認する【結果承認】
2.相手が行った行為(まだ結果がでていないものも含む)に対しての承認【行為承認】
3.相手の存在を承認し、大切に扱う【存在承認】
4.将来の可能性について信じ、期待し、それを肯定的に応援する【可能性承認】

先に紹介した教師のコメントを、これらの「承認」の基軸に基づき以下のように当てはめてみます。

  1. 【結果承認】

    • 「彼の書く英語は現在、とてもよくまとまっており、大きく上達してきました」

    • 「呼吸と光合成のトピックを非常によく理解している」

    • 「圧力のトピックにおいて、彼の計算は非常に的確で素晴らしかった」

    • 「この教科の理論的な側面をしっかりと理解しています」

  2. 【行為承認】

    • 「彼は静かながらも勤勉さと意志をもって英語学習に取り組んでいる」

    • 「トピック終了時のテストでは、効果的な復習と想起が頻繁に見られます」

    • 「学校を代表して、いくつかの活動に参加しています」

  3. 【存在承認】

    • 「彼はクラスの楽しい一員です」

    • 「彼は努力家であり、仲間からも好かれている」

    • 「彼は所属するチームでの人気者です」

  4. 【可能性承認】

    • 「"Upthrust"や"Forces"のようなキーワードや定義をさらに学習するとよいと思います」

    • 「さらなるレベルアップのため、教師からのフィードバックを積極的に求めることをおすすめします」

自身の強みを知る効果

ポジティブフィードバックを受けることで、前向きに進む励みとなります。これを繰り返し受け取ることで、自分の強みを深く理解すると同時に、「自分はまだ成長できる」というマインドセットが育まれると、著者は指摘しています。

イギリスの中等教育は、日本と同様に約10教科の幅広い基礎科目の習得が求められます。しかし、セカンダリースクールを卒業した後は、大学入学を見据えて個人の興味に基づき3-4科目(必須科目は特に設定されていない)を選択し、それらの科目の専門知識を2年間で深める方向へと学びが進化します。つまり、16歳頃からは、自分の興味や得意分野を中心にした学びが強調されるのです。中学校でのポジティブフィードバックは、将来の進路を考える際、自分の強みや得意分野を明確に認識するのに非常に役立つでしょう。

息子は、スコアや偏差値という明確な評価基準に慣れているため、このような新しいコミュニケーションの形式にまだ適応していないように見えます。今後、彼がポジティブフィードバックを率直に受け入れてその効果を体感できることを私としては望んでいます。

最後に、校長から直筆でレポートカードに同封されていたコメントを紹介します。これはとても高い存在承認を示すポジティブフィードバックと言えます。彼女は実際にも非常にポジティブであり、強い影響力を持つ人物ですが、その力強さがコメントからも伝わってきます。

”Dear XXX, this is a wonderful report- you are dearly moving hard and making excellent progress. We are so lucky to have you in our school! "

 参考:国際エグゼクティブコーチが教える 人、組織が劇的に変わる ポジティブフィードバック ヴィランティ牧野祝子 (著)


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