りんごの皮が剥けない

 私はりんごの皮が剥けない。正確に書くと、ナイフや包丁で剥けない。いつもピーラーで剥いている。こんなことではナイフ一本しか持たぬ状況で無人島に流されたときに困ってしま──わないだろ、そういう状況になったら皮を剥かずに、かぶりつくだろう。大根のかつらむきもできない。だから刺身のツマもつくれない。でも家で大根を煮るときは、子が苦味を感じにくいよう皮を厚めにストンストンと包丁で落とすのでそもそも薄く剥くことがない。自分で食べる大根おろしをつくるときはそもそも皮を剥かないでおろす。玉ねぎのみじん切りも上手でも速くもない。包丁でやることがめっきり少なくなってしまった。カレーをつくる際など玉ねぎみじん切りが必要なときは「ぶんぶんチョッパー」しか使わなくなった。

 ほどよく食感を残した玉ねぎみじん切りと粗挽き肉でのハンバーグ……などもつくらない。家でつくるハンバーグは、あとは焼くだけのモノを買ってくる。ハンバーグに関しては「つくったほうがうまい」「つくったほうが安い」状況が、いまのところない。チルドや冷凍のを買ってくる。七枚も八枚もペッタンペッタン成形して焼かないと足りない食卓ではないからだ。

 何度か書いたように記憶しているが、料理に「愛情」というレシピはない。愛情がこもっているから味が向上することはない。舌の味蕾が受容するのは、甘味、酸味、塩味、苦味、うま味のみであり、あとは食感や匂い、視覚からくる印象で、そこに愛を感じるセンサーはない(なお「愛」という感情があるものとしてここでは語る)。そこにあるのは「手間」をかけるか/かけないかだけだ。少しの手間で味がよくなり、材料費も下がるのであれば、躊躇なくそれを選ぶ。どちらかというと、面倒くさがりではないと思う。楽して旨味があることにしか努力したくない。ただ、それが他人から見ると「楽をしたがっている」ように見えることがあるかもしれない。違うのである、コストとリターンのバランスが(長くなるので略)

 しかし、りんごの皮なんて果物ナイフで剥けなくたっていいけれど、なるたけ魚はおろせるほうがええよ。こないだ三〇〇円くらいでヘダイを買ってきて、ウロコとエラと内臓をおとして、三枚におろして、スープと刺身をつくったけど、「処理済み(ウロコと内臓をとってある)」の買うよりうまいし、店によっては半日〜ひと晩ほど新鮮だったりする。

ヘダイ。ウロコが多いのでしっかりおとす
エラと血あいをとり酒と生姜で出汁をとる
ハナビラタケと塩で味付けしたスープを白飯にかけ雑炊
身はラップにつつみひと晩おく
皮は硬いのでひいたほうがいい

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