茶色い惣菜、脂身、子のめし

 子のめしをつくる、または食材を買ってくるときにいくつか頭に入れておかなくてはいけないことがある。アレルギーや好き嫌いとは別の点で。

 それは脂である。魚であれば、脂がのったホッケや、マグロやサーモンやブリのトロなどは自分との共通めしとして使える。問題は肉だ。


 私は子供時代に、たとえばジンギスカンで鉄板に脂を擦り付けるための脂身がチリチリと熱され小さく硬くなって最後に残ったのを食べるのが好きだった。鶏肉ではもちろん皮が最も好きだったし、豚肉では白い脂身が多ければ多いほどいいと感じたものだし、カツならヒレカツなどもってのほかでなんといってもバラ、次に脂身部分が多いロースカツであった。ランプやモモなど赤身は必要としないのであった。豚の角煮などは脂身だけでよいとすら思っていた。それらを考慮にいれて買い物をしなくてはならないのである。

 しかし、この歳になると、なかなかバラ肉や手羽先に食指が伸びない。自分の基準で食材を選び調理すると、子の好みとズレるのである。かといって食材の中でも肉は、まとめて買ったほうが金額的にも調理の手間的にもコストも下がる。惣菜売り場にいくと、ゼンマイの炒り煮や、切り干し大根や、キンピラゴボウや、卯の花煮など、茶色い方面に食指が伸びる。しかし、食卓に並べると茶色い惣菜はことごとく子に不評なのである。

 子供の頃、父母や祖父母が茶色い惣菜を好んで食べているのを見ると「若い頃の食べ物をいまでも好きなのだな、むかしはケンタッキーやトンカツなどあまりなかったろうからな」と感じたものだ。大いなる勘違いであった。

 中学生の頃、いや、小学校高学年だったか──ある夜に、それまで味噌汁の具に入っていると憂鬱だった豆腐が突如として食べたくなり、家族が寝静まった時間に台所へゆき、冷蔵庫にあった豆腐のパックを開け真ん中にスプーンで穴を穿ち醤油を垂らし、バクバクと食べた。《ああ、おれ、いま味覚が変わったのだ》と天啓にうたれたのであった。


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