フゼイってなに
〈2024年6月マガジン〉の記事です。気が向いたらマガジン読者のみの有料記事にします。
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子と二人で外出した先だった。午前中のプールで既に二時間は身体をつかった子はそれなりに体力を消費している。いまのタイミングで昼めしをいれとかんと、このあとあかんなというとき近くに餃子の王将があった。子連れだとひとりでの行動とは違ったスケジューリングが必要となる。「なあ、あそこの王将でお昼ごはんいま食べようと思うんやけど」と言う私。「あっちのコンビニの奥に食べるテーブルあるからそこがいい」と言う子。しかし、昨日の昼めしも公園でのコンビニめし、ファミマのファミチキとファミチキバンズでのハンバーガーだったのである。ここで昼めしをコンビニの軽食コーナーにすると昨日と似たようなモノを選ぶに決まっているのだ。子連れだとひとりでの行動とは違った選択が必要となるのである。
なおファミマのホットスナックにある〈鶏つくね串〉は「これ税込160円でええの」というくらいの味なので試してみるとよか。ファミチキとファミチキバンズだけ購入したはずが、店員が間違えて鶏つくね串を入れてしまい、会計を済ませたあとだったので「それなんぼなん」「160円です」「ならええわ、面倒やらからもらっとくわ」という会話があって、偶然に食べたのだがとてもうまかった。子綺麗なつくりの焼き鳥屋で、どうぞとそれなりの皿に置かれてうやうやしく出されたら《さすがやな》などと感じてしまうほどの……とまでいうと言い過ぎか。
話を戻すと、渋る子を説き伏せて、王将に入る。メニューを開いて「餃子がええか、それとも麺がええ？」と少しだけ急かす。この後に乗らねばならないバスの出発時刻まであと二十五分だったのだ。子はメニューを眺め「海老の天ぷらが食べてみたい」と言った。王将はジャストサイズと銘打った小皿（海老の天ぷらだと税込352円）もあるが、これならひと皿（税込594円）頼んで二人で分けりゃええかと決める。子だけではなく私もそれなりに体力を消費している。餃子は普通のではなく〈にんにく激増し餃子〉がよいと言うのでそれを二人前。
餃子の王将の〈海老の天ぷら〉はうまいのだ。独特の衣は好き嫌いが分かれるだろうが、私は好きだ。添えられたレモンを絞りかけ、通称マジックパウダーと呼ばれる卓上の粉（山椒が混じっている味付塩コショウ）をパラリと振りかけ、餃子のタレを少し垂らす。できたて熱々なので子は最初苦戦するが、フーフーと息で冷ましてひと口ふた口目から「これうますぎるな」と気にいる。そして皿に添えられたキャベツを時折口にし「このサラダをときどきつまむのがええねんな」と言う。〈にんにく激増し餃子〉は、二つテーブルに用意された小皿に、餃子のタレと、酢に黒胡椒を振ったのを用意して、「どっちのタレでもええから好きに食い」と私は言う。子は意外にも酢に黒胡椒のほうを好んで食べる。〈にんにく激増し餃子〉はうまいんだけれど本当にニンニクが激増しで、その後二時間ほど口の中がニンニクだった。もし昼食で食べその後に会社に戻らなあかん勤め人だと歯磨きしないと「ニンニク食べました？」と言われるかもしれない。
昼めしを食べ終えた後は、バスに乗りスーパー銭湯へ。露天風呂にはいっているときに小雨が降り出す。露天コーナー部分にいた他の客の八割ほどは内風呂へ移動するが、私と子はそのまま露天にいる。コロナ禍以前に、ここへきた時も確か途中で雨が振り出したのではなかったか。数年前の子は雨を嫌がったが、今日は小雨が降る露天風呂に並んで座り、「裸やしもうお風呂で濡れてるからさらに雨に濡れても平気なのが面白いな」「露天風呂は雨にかぎるな」などと話していると、少し離れたところで湯につかっていた爺ちゃんがニコニコしながら「そうやな、これが風情というもんやな」と言う。子は「フゼイってなに？」と爺ちゃんに訊く。爺ちゃんは少し考えて「──さっきキミのな、お父さんが言ったみたいに、いまのこの景色が面白いって心が思うことや」と言う。「お風呂の水面に雨が落ちてピンピンはねてて面白いもんなあ」と子は応える。私は《きみがさっき海老の天ぷら食べたとき「このサラダをときどきつまむのがええねんな」と言ったのもフゼイやで》と思う。
そのあと内風呂の熱めの湯にもう一度つかりなおしたあと、風呂からあがり、フルーツ牛乳を飲み、セブンティーンアイスを食べ帰宅。
帰宅途中に、「サイゼリヤの〈ポップコーンシュリンプ〉、餃子の王将の〈海老の天ぷら〉、あとひとつでおいしい海老料理のトップ３が決まるな」と会話をする。子は「あとひとつはもう決まってんねん、トット（私）がつくるエビフライやろ」と言う。
朝から六時間つづけて子と外出だったのでへとへとになり料理をする気がせず、コンビニでスパゲティを買って子の晩めしにする。
〈了〉
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