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袋麺ミッドナイト2

「ラーメンに餃子、ですか・・・?」「不思議か?」「いや、なかなかのせないなと思って(笑)高木さんらしくないというか」「くくっ・・・そう見えるか? でも店でラーメンと餃子セットの組み合わせを食う客は山ほどいるだろう」「あっ・・・」「なぜ具として成立してこなかったのか、焼き餃子とワンタンの何が違うのか、それを自分の口で確かめるんだアキオ」「自分の口で・・・」「俺の家がむかし定食屋をやってたときに、ラーメンに必ず海老天を二本トッピングさせる客がいた(本当)。店の手伝いをしていたガキの俺は酔っ払いがふざけて言っているのだと感じていた。でもその客は毎回それを頼むんだ。なあ、それが正しいだとか間違っているだとか、誰が決めるんだ? あくまで自分だろ」


「このGT-R〈日清 行列のできる店のラーメン〉ってチルド麺は昔からチューンドメンやってきた俺らにしてみりゃ夢の麺なのヨ。ああでもないこうでもないと袋麺に必死で手をかけて・・・そうやって辿りついた地点を吸排気(注*ネギなど薬味)とセッティング(麺の茹で時間)程度で、いとも簡単に超えてしまう」

「うまいですか?」「そりゃうまいよ(笑)スープ、麺。すべてに余裕がある、だからこそチルド餃子をのせたりして遊べる。すると、あれほどいいと思っていたのに満足できないことに気がつく。食べ手の緊張を強いる限界ギリギリのチューンド袋麺では決してやれない余裕だ。誰がつくってもうまいRを退屈だという者もいる。だが俺は同意しない」


「行列のできる店のラーメンに餃子をのせてみる。ラ王醤油あたりを具なしで食べてみる。それでもサッポロ一番 塩らーめんが色あせなかったなら、それは悪魔のサ塩が食い手としてオマエを選んだということだろう」


「真鯛の白子、ガスレンジの魚焼きグリル、ワケギやアサツキでも散らせって? なるほど店で出すならそうだろう。白に緑、なにせ色味がいい。ポン酢で食べるならそれでもいい。でも求めた本質はそうじゃないだろう?アルミホイルを一度握ってから敷く。これで油をひく必要がなくなる」

「酒を振る、塩を振る、最初は下側グリルの火力を強くしゆっくり酒と生臭さを飛ばす。次に上側火力を強くしてパンパンに張った表面の塩に焦げをつける。皮が破れる寸前を見極める。熱々のところを口にいれる、プシャっと皮が弾ける、焦げた塩が舌を突く、それは海が焼けた味だ」

「サッポロ一番 みそラーメンに具はミョウガだけ? やってみればいいじゃないか──いろんなメンがいろんなコトを教えてくれる、うまいモノが正しいとは限らないしまずいモノがすべてダメじゃない、お前がキメるんだすべて──本物のチューンドメンはそれを食べ手に理解させてくれる」

「あの頃、袋麺をチューンしていたのは〈安く〉〈ハイパワー〉だったからだ。独特の癖を愛した? そんなものは後付けの理屈だ。あの頃はパワー(うまさ)さえ出ればなんでもよかったのヨ。それを激変させたのは日清ラ王だ。あのカップ麺が登場したときに、袋麺を弄るチューンドメンの時代はいちど終わった。次は二食入りのチルド麺の時代だ。特に〈行列のできる店のラーメン〉、あれでプライベーターでもショップの味に並ぶことが可能になった・・・でもオレたちはいまだに袋麺をつくり続けている。サッポロ一番塩らーめんに拘り続けている奴もいる。なぜだと思う?──言葉で説明したって無駄さ──読んだことは忘れるが見た画像は覚えてる、そしてやったコトは理解してゆく。読もうとしない見ようとしないやろうとしない奴、そりゃわかりっこないって」

〝湾岸〟調はクセになるな……。

(参考文献:楠みちはる『湾岸ミッドナイト』/小学館・講談社)

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