近所の店が名店
2020年くらいに書いたこと。
カップ焼きそば、梅干し、地元商店街漬物屋のぬか漬け。家で焼きそばをやたらに食べるので紅生姜は常備している。なので牛丼を家に持ち帰るときに紅生姜は持ち帰らない。
おでん、から揚げ、漬け物、焼豚、練り物&豆腐は、行ける範囲の個人商店で買えるならそれにこしたことはないよ──と、二十代の一時期、頑なにチェーン店でしか買い物や食事をしたくなかった私は、この歳になってようやくようやくそのことを実感する。
自分はつくづく世間一般のひとたちよりも、いろいろなことがわかるのが、遅い。中央値からずいぶんと下回っている。
実感のきっかけになった食べ物は、タコ焼き、お好み焼き、ホルモン焼き、大阪を代表する食べ物の三つ。きっと他の土地では違う名前がそこに入るのだろう。自分の暮らす地域ではその三つが突出して「近所の店が名店」の代表格だと感じる。漬け物も焼き鳥もコロッケも練り物もおいしい店が生活圏にはあるけれど、私が最初に気がついたのはその三つだった。少し足をのばして名店とされるところのを食べてみてうまいなと感じはしたが、これなら近所の店も負けてないなと感じた。だから大阪以外のところから来た友人がせっかく大阪に来たからタコ焼きやお好み焼きを食べたいと言うと「それは旅先で地元のひとが普段使いするお惣菜屋さんに行くようなものだと思うよ」とは伝える。有名店に案内したこともあるし自分もそれに同行して「さすがに有名なだけはあるな」と感じたこともあるけれど、「泊まっているホテルの近くで適当に選んでもそれはそれでいいものだよ」とも言う。
開高健のエッセイで、モンゴル遊牧民の家で羊肉の塩茹でをご馳走になった際、盛り付けられた皿に持ち込んでいた七味唐辛子を振りかけ「こうやるとさらにうまいだろう?」と現地の人に勧めた、と。相手は「うん、そうだね、うまいね」と言いながら「でも、自分はこっちでいいね」と元の皿を食べ続けたというエピソードがあって、その話がとても好きだ。