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岐阜に生まれ早稲田大学に入った私が大学を休学して毛織物産地”尾州”に飛び込んだ理由

皆様、はじめまして!
"尾州"という繊維産地で毛織物作りをしている平澤良樹(ヒラサワリョウキ)と申します。
まず、このnoteに興味を持ってくださりありがとうございます。

このnoteでは、岐阜県の山と川に囲まれた地域に生まれ育ち、大学から東京に行ってスタートアップなどで働く中、心が動くものを探し続けて気づけば生まれ育った街に戻ってマニアックな繊維業界に入り込んだ私が、尾州産地という世界的な繊維産地にはまり込むまでに至った経緯と、この産地の現場に直接手で触れて感じ学んできたこと、そんな私が考える尾州産地をはじめとした国内繊維産地の未来の在り方についてまとめさせて頂いております。

また、このnoteは、

  • 繊維業界に興味があって産地の現状について知りたい方

  • アパレル産業にいるけど国内繊維産地についてあまり知らないという方

  • 国内繊維産地で仕事をしているが若手の目線や感じていることを知りたいといった方

にも是非読んでいただきたいと思っておりますし、このnoteがこれから先、都心部や地方に関係なく若い方が繊維に興味を持つきっかけや現状を知る一助になれると嬉しく思います。


1. 平澤の自己紹介

皆さん初めまして、三星毛糸インターン生の平澤良樹(ヒラサワリョウキ)と申します。
元々、早稲田大学社会科学部でSDGsを中心とした環境など社会課題に対する多角的なアプローチを学んでいました。
大学1年の夏から1年間、化粧品のD2Cブランドで成長を続けている株式会社Waqooというスタートアップの海外事業部で長期インターン生としてプロダクトの海外展開を学び、大学2年の夏から3年間程、ITコンサルのアナリストとして美容関連企業の新規事業開発を中心に年間3~4件ほど、事業戦略設計やITサービス構築、基幹システム企画/設計などを経験しました。
そこから、少しずつ素直に自分の心が動くものはどこにあるのだろうかと考え始め、大学3年生で休学を決意しました。
その後、2年以上尾州産地にどっぷりと浸かることになり、その中で出会った三星毛糸ではテキスタイル事業部のインターン生として毛織物の企画と製造を中心に、非常に多くのことを学ばせていただきました。

織スタでの作業風景 Photo by Kenta Kawase

今回のnoteでは、2021年の夏に突然訪れてのめり込むことになった尾州という繊維産地で学んできたことをまとめ、私が感じてきた尾州産地の未来についてお話しさせていただきます。


2. 尾州産地との出会い

まずはじめに、そもそも私が尾州という繊維産地に出会った経緯から簡単に説明させていただきます。

三星毛糸 初回訪問時

私は、元々尾州産地がある岐阜県と愛知県の地域で生まれ育ちました。尾州産地は木曽三川という岐阜県と愛知県にまたがる大きな3つの川がある地域の豊かな軟水を資源として繊維産地が発達しています。私はその木曽三川の周りで幼少期を過ごしました。と言っても生まれ育った幼い頃は繊維の産地があることは全く知らず、叔父がアパレル全盛期の頃に日本中の工場を回っていた人で、アパレルのものづくりの仕事について話を聞くことが多く、その中で尾州という産地があることを知りました。幼少期から叔父と過ごす時間が多く、大学受験の時期に1年半ほど叔父と一緒に過ごしモノへのこだわりを耳にする中で、アパレルの中でもものづくりという仕事に魅力を感じるようになっていました。

叔父と双子の兄と(中央が私)

そこで、生まれ育った地域に、日本を代表するような繊維産地があることを知り、もっと深く知ってみたいと考えて、大学を休学して尾州産地の工房を訪れるようになりました。
そんなとある尾州の工房をふらっと訪れた時に見た、テキスタイルを作る職人さんたちのものづくりに真っ直ぐ向き合う後ろ姿が格好良いと思い、1~2時間話し込んで、次の日も工房に行き、どんどんのめり込んで行きました。

木玉毛織様にて

この産地の魅力を周りの人に届けることができないかと考えて、東京で映像をやっている友人と一緒に、尾州産地への取材活動に取り組んだりもしていました。

四葉織房様 Photo by Keigo Mochizuki

尾州産地を個人的に訪れるようになってから、2021年10月30日、尾州の繊維商社で働いている鈴木さんという方から、とある尾州産地のイベントに誘われました。「ひつじサミット尾州」という産業観光イベントです。10月の月末の土日の間だけ尾州産地全体の工場がオープンになるという非常に興味深く面白そうなイベントだと感じ、足を運びました。そこで初めて三星毛糸という会社に出会うことになり、偶然共通の知人がいたことで三星毛糸の岩田さんをお繋ぎいただきました。自分の活動を考えても尾州産地をより深く学んでいくのであれば、そこでしか見られない本物に直接手で触れながら、本質的な価値を見極めていきたいと考えていました。三星毛糸は、世界のラグジュアリーブランドと直接取引を行なっており、企画から製造、お客様に届けるまで、非常に近い距離感で一気通貫して学んでいくことができる環境です。そこで岩田さんに学ばせてくださいと改めてメッセンジャーで連絡し、すぐに直接お話しすることになり、長期インターン生としてすぐに受け入れていただきました。

急にフラッと連絡した大学生の私を受け入れてくれる岩田さんのおかげで、他では得られない多くのことを学ぶことができ、大きく成長することができました。1年半のインターンとして受け入れていただいたこと、非常に感謝しております。

羊まるごと研究所の酒井さんと中村さんと岩田さん ひつじサミット尾州2022にて
岩田さんとICCサミットFUKUOKA2023にて

3. 三星毛糸のインターンの振り返りと学び

次に、三星毛糸で尾州の繊維産地に関わってきた中での学びについてです。
2022年6月、三星毛糸に来た最初の頃は未来創造室という、ひつじサミット尾州や自社ブランド製品の販売などを行う部署で、最終製品への繋がりを学ぶことから始まりました。同時にテキスタイル事業部の学習も始まり、最初から最後まで1年と少しの中で、繊維の基本から織スタという大事な自社工場の生産に関われたことで、サンプル反から現反に繋がる流れも経験し非常に多くのことを学ばせて頂きました。

織スタでの作業風景

正直に言うと、産地における学びは現場での人との触れ合いや手を動かした経験を通して常に深化していくものであり、現状はまだまだ学びの途中で完結するものではないと感じています。産地でこれを見て経験できてよかった、こんなことを知った、といった内容よりも、この1年と少し2022年6月から2023年9月まで尾州産地と三星毛糸で手を動かしながら、人と触れ合いながら感じたことをベースにこれから尾州産地において私が取り組んでいきたいことについてまとめさせて頂きます。


3-1. 織スタでの毛織物製造「織りという仕事を通して見えた尾州の未来の作り方」

結論から言うと、私は織りという仕事が非常に好きになりました。1年前の最初は糸の結び方から教えてもらい、最終的には自分1人で糸から生地までの製造ができるまで経験させて頂きました。仕事の内容を詳しく説明し始めると、振り返りが終わらなくなってしまうので、1年間で学んできたテキスタイルの仕事マニュアルを興味のある方は別記事にて紹介させて頂きます。
今回は、私が三星毛糸と尾州産地の他の機屋さんを行き来しながら織りという仕事に携わる中で感じた、これからのテキスタイル製造の仕事の在り方についてまとめていきます。

織スタでの作業風景

織りという仕事は、機械がやっているように見えて、実は8~9割は人間がやっています。機械があってもそこまで準備する人と機械を扱う人等、人間がいないと成り立たないことが大半です。後継者不足で廃業してしまう事業所が多いのも、人に依存している部分が多く、労働に対する賃金が追いついてこないことが多いためではないかと感じるようになりました。私がインターンしている1年間の間にも、一宮市で60年間続けてきた低速織機の機屋さんが廃業していく姿を目の前で見ました。当時ションヘル織機という旧型の低速織機で生地を織っていた竹内さんは50年間この仕事をやり切ったことに誇りを感じる表情と同時に、どこか少し寂しそうな顔も覗かせていたのを鮮明に覚えています。

竹内毛織 最終日

このインターンの期間は、尾州という産地の未来をどのように作っていくかを本気で考え続けてきた1年間でした。答えが見つかったかと言われるとまだまだ途中ですが、尾州という産地はあくまでも伝統的な部分と工業的な部分の間にあって、どちらのタイプも産地内に存在しているということは明確に見えてきました。どちらの方向に進んでいくのかという議論になりがちではありますが、私はどちらの形態も見て現場の方々とお話をする中で、「伝統と工業のどちらも存在し、共存し続けている」ということに価値の元があるのではないかと感じるようになりました。

究極で言うと、完全機械だけのオートメーションになるのか、手仕事の伝統技能になるのかという話になります。ある機屋さんは1日に1反(50mほど)も織れない効率で進めていて、ある機屋さんは1日に5~6反も織り進める。それぞれ出来上がった反物に果たしてどれだけの差があるのかは単純なモノの価値だけでなく、感性情緒的な価値も含めて考える必要はありますが、どこまで消費者が求めているかは世の中に出して見ていかないと分かりません。人間が衣服を身につけている限り繊維という仕事は無くならないと考えてはいますが、世の中に求められている形で常にアップデートしていく必要があると感じます。「世の中に求められている形でアップデートし続けていく」という意味で、尾州という産地は世の中の変化に対応し易く、優位な立ち位置にいると感じるようになりました。尾州は木曽三川から流れ出る豊かな軟水を源泉に、ウールという繊維を多種多様で表情豊かな生地に変えられることに強みがあり、毛織物の世界三大産地とも呼ばれてきており、ウールだけでなく、コットンやリネンなどの天然素材も扱うことができて、扱える繊維に限りがある他の産地と比べると幅広く対応できることも尾州の強みの一つです。

四葉織房様 Photo by Keigo Mochizuki

尾州の未来を作るには産地のアップデートとイノベーションが必要不可欠です。産地全体でテクノロジーを導入し効率を上げることで産業のレベルを上げていくことは前提ですが、全てが新しくなる必要はなく、伝統的なものと最新のものが混ざり合っていく姿に未来を感じています。基盤をテクノロジーでアップデートした上で、伝統を引き継ぐ織機と、最新のイノベーションを生み出す織機が活躍する。この両軸が混在してどちらも役割が明確になっていることが重要だと思います。古き良きものと新しいものを融合させ、共存していくバランスを見つけることがこれからの私たちに求められていることであると感じています。
そのために、まずは1人ずつ、若いも若くないも関係なく、関わる皆んなが今目の前で変わる/変える覚悟を持って進んでいく。それが産地全体に伝播していった先に未来があるということを、この1年間で肌で感じ、学ぶことができました。
特に、今年2023年のひつじサミット尾州では、その変化と革新の転換点がきていると感じることが多くありました。小さな行動が大きな変化を生んでいく感覚、これを大事にして、これからも小さな変化とアクションを起こし続けていこうと思います。


3-2. ファクトリーツアー「モノの裏側に人が存在することを感じてもらう」

産地の学校の皆様へのファクトリーツアーの様子

三星毛糸の機場である織スタには常日頃から、学んでいることをアウトプットする機会が非常に多くありました。毎日のように外部からの来客が訪れ、日本全国色々なところから年齢層も若い人から年配の方まで多様な方々がやってきて、毎日織りという仕事を丁寧に伝えていく必要があります。訪れる方々は繊維という産業を初めて見る方ばかりのため、そのようなお客様にどうしたら分かりやすく伝わるのか、どうしたらもっと楽しんでもらえるのか。毎日色々な人に身振り手振り説明するアウトプットと、伝わっていなさそうなところはどうしたら伝わるだろうと考え、知識をアップデートしていくことを繰り返していました。2022年末には東京の企業様とオンラインでの工場見学を企画し、織スタと画面越しの皆さんを繋いだ工場見学を通して、近くにいない人にも織りという仕事を理解してもらえるように考えて伝えていくことで、繊維という仕事を前提知識の無い方にも理解してもらえる力を身につけることが出来たと感じています。

2022/8/26に開催したオンラインファクトリーツアー

工場見学に来られる多くの方は、織り現場の手作業の工程を見て「手作業でやっていてすごいですね」と言ってくださります。ですが実際、織りという仕事に携わる職人さんは「すごいこと」をしているつもりは到底なく、昔からそれを当たり前のように毎日こなしてきており、作業を黙々と進めています。正直、この手作業にどこまでこだわる必要があるかは私の中でも答えは出しきれていないのが事実です。糸を一本一本手で通していく綜絖(そうこう)通しという作業は、反物によっては、6000本以上を丸3日間かけてずっと同じ作業を繰り返すこともあり、流石に気の遠くなる作業で疲れも出てきます。機械化して倍以上のスピードで人手をかけずに行うこともできるのかもしれません。しかし、その機械化には想像以上に大きなコストが掛かってくる上に、コストが大きく掛かるというこは、必ず大量生産的な方向性が求められてきます。これから少子化の時代において、嗜好の多様性として少量多品種が求められる時代であると仮定すると、手作業で多様な生地が生産できる場を維持していくことも効率化と同様に重要であると感じています。

株式会社中川政七商店 中川政七さんに織作業を伝授

また他にも、ファクトリーツアーをしているとよく「この手作業はどこの工場も同じことをしているのですか?」と聞かれます。全ての産地で手作業で行っているわけではありませんが、基本的に世界のどの産地でも織りという仕事は同じような機械と同じような工程を通して生地が作られています。古い機械には古い機械なりの扱い方もあり、伝統を引き継いでいくことには必ずしも機械化だけが答えではなく、いかに古い機械を大事に綺麗に長く扱っていけるかも優位性になり得ます。産地の中でも、これから先どのような展開をしていくにしても一長一短があり、機械化してほとんど人間が関わらず工業的に動かしている工場もあれば、古い機械を大事に長く使い続けて人間の手作業が大半を占めるような工場もあります。それぞれに役割があって産地が成り立っているのではないかと私はこの1年間多くの現場の方々と触れ合う中で感じるようになりました。

私はオープンファクトリーで工場案内をする時には必ず、皆さんにその手作業を見てなるべく体験してもらうようにしています。必ずしも手作業でものづくりをすることだけが答えというわけではありませんが、事実としてそのような人間の手が加わった工程を通って私たちの衣服の一部は作られており、世界でも同じような工程を通って私たちの手元に衣服が届いているということをまずは見て感じてもらいたいと思っています。世の中にあるどんなモノにも共通することではあると思いますが、モノの裏側には、必ず人の手が存在していて、それぞれに多くの人の想いが詰まっているということが伝えられると現場の方々の存在とその価値が世の中で見直されていくのではないかと思い、丁寧にわかりやすく伝えられるように試行錯誤している毎日です。


3-3. ひつじサミット尾州「みんなで力を合わせて、伝統産地に新しい風を起こしていく」

ひつじサミット尾州1日目 産地の学校ファクトリーツアーの様子
POTLUCK トレイン オープニングトークの様子 with (株)糸編 宮浦さん,JR東海 吉澤さん

次に、ひつじサミット尾州についてです。
ひつじサミット尾州は、愛知県と岐阜県にまたがる毛織物の世界三大産地尾州の繊維工場が協力し合って行われる産業観光イベントです。私は2022年のひつじサミット尾州に三星毛糸のインターン生として参画し、一日200人以上が参加する主要コンテンツであるファクトリーツアーを二日間通した案内人として担当させて頂きました。また今年2023年は、尾州に関わる1人として、三星毛糸でのファクトリーツアーや、POTLUCK(三井不動産×NewsPicks)とJR東海とのコラボレーションで東京→岐阜羽島間の新幹線の移動をコンテンツ化した取り組みのオープニングトークでお話しさせて頂いたりと、多くの機会を頂きました。

POTLUCK トレイン トークセッション終了後集合写真

私自身、ひつじサミット尾州を通しても毎年成長させて頂いており、1年に1回の自分の成果確認の機会としても非常に大切なイベントとなっております。

「三方良しを作り、産地を皆で元気にする」

産地の学校の皆様へのファクトリーツアーの様子

ひつじサミット尾州は繊維産地である尾州全体の工場同士で協力し合って身近な人からこれまで知らなかった人まで色々な人に間口を広げて尾州産地の魅力を感じてもらうことが目的です。三星毛糸の一員としても私は、いかにイベント参加者の満足度を上げられるか、産地のファンになってもらえるか、そしてそれを産地の発展に繋げられるかを考えていました。私はファクトリーツアー案内人として、イベント数ヶ月前から何度も予行練習としてファクトリーツアーを行いフィードバックを頂き改善を続けました。普段、現場で毛織物作りを学んでいて産地には少ない若手だからこそ、イベントに来てくれた参加者の方の誰もが理解できて誰もが楽しめるようなトーク内容をアウトプットして意見を聞いて改善を繰り返し、満足度を上げられるようにマニュアルを作成したりもしました。
ファシリテーションのプロ(天才)である三星毛糸の岩田さんから教えて頂いたことで、今でも大事にしている学びは、イベントやツアーのファシリテーションでは必ず「三方良しを作る」という考え方です。
産地にわざわざ足を運んでくれた参加者の方々が満足して全ての参加者が楽しかったと思ってもらえるように、まず自分自身が楽しみ、参加者もツアーを作り上げる一員として楽しみ、そしてイベント全体が盛り上がる。そんな「三方良し」の状態を築き上げることが重要であると学びました。実際にそれを今でも多方面で意識して取り組むことで、多くの人が楽しんで行ってくれることを実感しています。
これからも産地の活性化のためにも、常に三方良しを意識しながら、皆さんと共に産地を元気にしていきます。


4. 産地の未来とこれからの在り方について

4-1. 「尾州産地で働くということ」

織スタ前で織スタメンバーと Photo by Kenta Kawase

最後に尾州産地の未来とこれからの在り方について記して、この1年間の振り返りを締めくくらせて頂きます。
私は、織りの仕事をしている時間がとても幸せに感じます。繊維業界の中でも、テキスタイルのものづくりに深く関わったことで、ものづくりというの仕事の面白さを常に感じ続けてきました。テキスタイルのものづくりには、統一された答えがありません。作業的に機械の使い方や工程には、統一された手法がありますが、ものづくりの相手は常に環境に応じて変化し、一つとして同じものはない繊維です。全く同じ反物でも昨日は順調に織れていたのに、今日は全く織り進まないということがザラにあります。もちろん、準備工程における手作業で少しブレがあったり、ミスがあったりすると、織りの作業にも影響するのですが、それ以上に元々の糸の材質やその場の温度湿度などの環境の変化によって作業能率が変わってきます。常に環境や糸の材質、機械の調子に応じて対応していく必要があるため、毎日が探求の繰り返しです。一つ一つをクリアする度に、経験値が上がり知識が深まっていき、常に成長を感じられるのも楽しいポイントではあります。(ただ、ハマればハマるほどマニアックになり、周りには何を言っているのか分からないと言われるのが付きものです。笑)
一方で、楽しいからと言って多くの人がその仕事を続けられるとは限りません。実際に現場にいる人は9割以上が60歳以上の方々で、残りの数%で20代の方が数えられるくらいの現状です。産地にいる若い人は少し変わり者とも呼べますが、基本的に若い人がいない理由は、現場における労働と賃金が見合っておらず、続けられないことは非常に大きな要因です。他にも、楽しいと感じられる環境であるかといった要因もあると思いますが、他の産地や産業には若い人がいて、尾州に若い人がほとんどいないということが紛れもない事実であると感じています。

4-2. 「私が機屋を継ぐなら」

竹内毛織にて竹内さんと

1年以上、色々な機屋さんを見てきて思う、私が機屋をやるならという視点で言うと、次の3つのポイントがあるような機屋に入りたいと思います。それは、「儲かること、楽しいこと、誇りを持てること」の3つです。
第一に、儲かることは大前提です。あえて一番最初に持ってきたのは、そうではない現状があると強く感じているからです。やはり一人一人の職人さんの生活水準を上げて経済的に豊かにすることができなければ、繊維の仕事ではなく、他の仕事を選択するのが当然の流れです。実際に織りという仕事は好きでも経済性が理由で続けられず辞めていく姿を多く見てきました。どうやって稼げる仕事にするかについては、少し長くなるのでまた別途記すorお話しさせて頂きます。
次に、楽しいこと、誇りを持つこと、という目線では、職場環境の充実と自由度は重要だと考えています。楽しいことと誇りを持てることは近い要素ではあると思いますが、自由にのびのびとものづくりをはじめとした活動ができることは楽しさに直結していて、一人一人が楽しくワクワクしながら豊かに暮らしていくことが誇りを持つことにも繋がると感じます。

4-3. 「尾州産地の未来」

テキスタイル事業部マネージャー長谷川さんと織スタにて Photo by Kenta Kawase

今年のひつじサミット尾州2023を見ていて、少しずつ上記の3つのポイントのような流れはできつつあるのではないかと感じるようになりました。1年前よりも現場の人たちの表情が明るくなっているようにも見えました。これまでは一般消費者の方と触れ合うことがなかった尾州産地の方々が、多くの人たちに自分たちの仕事の説明をして、相手からリアクションを頂くこと、自分たちが行っている仕事が世の中からどのように見られているかを認識することができる機会で、誇りを持つことにも繋がる非常に大事な機会だと感じています。産地に訪れる方々の表情も希望を見る目に変わってきていて、そこにチャンスを見出す方も増えてきている気がします。今年のひつじサミット尾州では、私自身もファクトリーツアーもしながら、少し外側からも見ることもできたため、客観的に希望のある非常に良い流れを感じることができました。具体的な変化はこれから増えていくと思いますが、まずは直感的に感じたまでです。
私自身も、この尾州産地の時代の転換点にいられることを非常に嬉しく感じますし、一産地の人間として、まだまだこれから踏ん張る時期も続くとも思います。こんな時代だからこそ、尾州産地のみんなで力を合わせて、皆で切磋琢磨しながら全体で大きく成長していけると、自ずと好転していくと信じて毎日奮闘しています。

私はまず1年間、フランスパリを中心としたヨーロッパに尾州の魅力を伝えにいくと同時に、これからの尾州の未来の在り方を常に探りながら、私にできる私なりの行動を起こし続けていきたいと思います。


5. 最後に

株式会社LEOと三星毛糸の皆さんと送別会 なごのキャンパスにて

最後に繰り返しになりますが、このような大きな学びの機会を頂いている、三星毛糸の岩田社長と社員の皆さん、ひつじサミット尾州関係者の皆様、いつも尾州と日本中の産地について教えてくださるテキスタイルマテリアルセンターの山田さんと岩田さん、尾州内外で色々な素敵な人を繋いでくださる皆様、本当に常に感謝してもしきれない思いです。

皆様と共に、尾州という産地を盛り上げ、今以上に元気に、世界が誇る産地にしていくことが私の使命だと感じております。
これからも引き続き、私平澤良樹と尾州産地をよろしくお願い致します。

三星毛糸テキスタイル事業部 製造・企画インターン
株式会社FABRIC CREW 代表 平澤良樹


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