放送大学 物質・材料工学と社会(’17)- 第12回 情報機器Ⅱ - ディスプレイ

液晶、有機ELとプリンターなど。

シラバス

シラバス検索 (「2019年度 1学期 」「物質・材料工学と社会」で検索すると出る。直リンページはないらしい)
https://www.wakaba.ouj.ac.jp/kyoumu/syllabus/SC02060200201/initialize.do
物質・材料工学と社会(’17)
Materials Science and Engineering in Our Society ('17)
主任講師名:谷岡 明彦(東京工業大学名誉教授)、里 達雄(東京工業大学名誉教授)

- 執筆担当講師名:谷岡 明彦(東京工業大学名誉教授)
- 放送担当講師名:谷岡 明彦(東京工業大学名誉教授) 
- ゲスト:バッハ・マーティン(東京工業大学教授)、秋鹿 研一(東京工業大学名誉教授)

概要

- CCDイメージセンサーはカラーフィルターの下に半導体p-n接合を用いたフォトダイオードの配列からなり、光の信号を電気信号に変換する。

- 液晶は液体と結晶の転移がはっきりしておらず、ネマチック位置に規則性なし、コレステリック螺旋状、スメクチック層状の配向の種類がある。シアノビフェニル系の場合、液晶分子は極性のある部分(シアノ基)、ビフェニル部分(固体的性質)、ペンタンの部分(液体的性質)がある。液晶はディスプレイでは配向膜に挟まれており分子は膜近くでは配向膜に沿った方向を向く。2枚の配向膜は90度傾いていて分子は少しづつ配向が捻れている。このため電磁波の偏光が捻れながら進む。外部から電場をかけることで分子配向が一方向に揃い偏光は変化しない。二重結合、すなわちπ電子は偏光に重要な役割を担っている。

- 液晶ディスプレイはバックライド、偏光板、ガラス基板、駆動トランジスター層、液晶層、カラーフィルター、偏光板などの多数の層から成り、液晶は光を遮るシャッターの役割である。液晶層は電極とは接していない。2つの偏光板は90度偏光が回転している。電場のない状態では液晶は90度偏光させるので光は偏光板を透過するが、電場をかけた状態では偏光が変化せず、偏光板で遮られて黒(非表示)となる。

- 偏光板はヨウ素をドープしたポリビニルアルコール(PVA)が使われている。OH基により分子間で水素結合が働くため、強靭で引き延ばしできる。引き延ばすと方向がそろい、ヨウ素錯体が分子化合物を形成し1列に並ぶため列方向に導電性が生じるのでこの方向の電磁波の偏光成分が吸収される。ビニールフィルムを引き延ばして簡単に実験できる。実際の液晶ディスプレイでは光のひずみを取り除くなど多数のフィルムが組み合わされる。

- 有機ELディスプレイでは赤、緑、青のそれぞれの有機色素を並べて構成する。発光原理は半導体p-n接合と同様である。複数の有機化合物の層からなり電極からホールと電子を注入すると発光層で再結合し発光する。液晶と違い自発光であるため構造が単純で薄くすることができるほか、フレキシブルにすることもできる。

- 複写機の感光ドラムは帯電器で全体的にマイナスに帯電しておりアルミニウム基板上にフタロシアニン(CGM層)とCTM層が積層されている。レーザーを照射すると正孔・電子対が生成される。正孔は照射部分の感光ドラムの電荷をキャンセルすることでパターンが転写される。これにトナーという負に帯電した微粒子が未帯電部分に静電気で付着し、プラスに帯電した紙に付着し熱で定着する。トナーはポリエチレンやスチレン系樹脂を母体とし色素、摩擦帯電性を制御する添加剤からなる。

- 色素の分子の多くは2重結合を持っており、π電子が発色に役割を持っている。C-Cの2重結合ではp電子の対称性の異なる軌道のために+/-の組み合わせにより安定な状態(HOMO)と不安定な状態(LUMO)が形成され。そのエネルギー差が吸収波長となり白色光を反射した際の色はその補色となる。このエネルギー差は2重結合が増えると、また周囲に助色団という原子団があると狭くなる傾向があり、様々な発色を可能にする。

- ピエゾ式インクジェットプリンタでは圧電セラミックス(チタン酸鉛)が電圧で変形することを使う。結晶中のTiに2つの安定な場所がありこの間を動くため変形が発生する。

感想

こうやって解説を見ると、液晶ディスプレイがいかに複雑な構造であるかがよくわかります。これが有機ELより先に実用化され、コモディティな電子部品として大量に製造されている現状は歴史の偶然なのか必然なのか。

いわゆる色のついた材料に共通するのはC=C2重結合にあるπ結合で、可視光に相当するエネルギー差の準位が形成されるためとのこと。と、なるとなぜ人間の目は可視光を見ているのか、その生物学的・進化的な意味も知りたいところですね。

レーザープリンターは、何度見ても静電気のコントロールがすごすぎて魔術に見える。

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