放送大学 物質・材料工学と社会(’17)第14回 材料評価とコンピュータ設計

今回は個別の材料というよりはメタな話題。わりとナウい話。

シラバス

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https://www.wakaba.ouj.ac.jp/kyoumu/syllabus/SC02060200201/initialize.do
物質・材料工学と社会(’17)
Materials Science and Engineering in Our Society ('17)
主任講師名:谷岡 明彦(東京工業大学名誉教授)、里 達雄(東京工業大学名誉教授)

- 執筆担当講師名:里 達雄(東京工業大学名誉教授)
- 谷岡 明彦(東京工業大学名誉教授)
- 放送担当講師名:里 達雄(東京工業大学名誉教授)
- 谷岡 明彦(東京工業大学名誉教授)   
- ゲスト:秋鹿 研一(東京工業大学名誉教授)

概要

- 材料特性としては力学特性(引っ張り強さ、弾性率など)や機能特性(電気特性(電気伝導度など)、磁気特性、光学特性、熱特性(融点、膨張率、比熱など)、表面特性(ぬれ、摩擦など)、物理特性、化学特性、生物学特性)があり、応用上重要な指標である。

- 高分子材料の力学特性の特徴に粘弾性がある。ゆっくりとは粘性的に応答するが急激に引っ張ると断裂する。この特性は血液やアスファルト、マントルなどでも見られレオロジーという分野で扱われる。

- 材料の開発に当たっては、製造プロセス - ミクロ構造・組織 - 機能特性の3つが互いに関連している。

- 電子顕微鏡には透過型電子顕微鏡(TEM)と走査型電子顕微鏡(SEM)がある。TEMは高倍率で、回折を利用すると結晶構造を分析できる。Al系合金中の析出物やCuの集合の配列などを観察できる。SEMでは例えばラネールテニウム触媒でもミクロ構造が見えるほか、後方回折散乱を用いると結晶の方位を表示することができる。

- ラネールテニウム触媒の残存するアルミニウムが酸化されているか金属なのかというのを知りたい。原子の内側になるK殻やL殻は外部の影響をされず、また原子番号が大きいほどエネルギー準位の間隔が狭いため原子の同定に使える。入射X線が電子をたたき出すと、外殻の電子が落ちてきてエネルギー準位差に相当する蛍光X線を出すのでこれを計測する(蛍光X線分析)ほか、たたき出された電子の運動エネルギーを測ることで価数の変化などさらに微細な電子間相互作用を検出できる(X線光電子分光XPS)。

- 赤外線分光(IR)は極性のある分子の分析に用いる。窒素は極性がないため赤外スペクトルがないがRu-NNではピーク波数がやや小さくなり触媒が活性化されたことを意味する。高分子鎖の配向を測る上でも有用。

- 様々な材料の評価をする際に、ミクロな構造が橋などの巨大構造物のワイヤーの作りこみに影響するとか、水素の拡散という短時間の挙動が遅れ破壊という長期の現象に関係するといったことがある。マルチスケール・マルチフィジックスシミュレーションが最近は発展している。

- 代表的には量子論を直接解く第一原理計算、原子分子集団の運動を見る分子動力学法MDやモンテカルロMC法、その密度場などを見るセルラーオートマトンやフェーズフィールドモデル、マクロには有限要素法(FEM)がある。これらはパッケージソフトウェアがある。平衡状態の相図の計算を行う統計計算熱力学ではCALPHAD法が確立されてきたのでかなり実際の材料を扱えるようになった。

- 材料のミクロ構造が応力-ひずみ曲線に与える影響はFEMでやるととても時間がかかるがフェーズフィールド法では短時間で解ける。またAl-Zn合金でのZnクラスターの析出はモンテカルロ法で再現することができる。これらの入力条件は材料の製造プロセスに反映される。燃料電池のプロトン透過膜はフッ素を多数含む高分子ナフィオンで、MD法ではプロトンが水と衝突しながら受け渡されていく。といった様子が観察できる。

- 高分子など材料設計の高度化により考慮すべき運動が多岐にわたる。また実験不可能な高圧・高温領域も知る必要があり、スーパーコンピューターの発展が貢献している。昨今のデータサイエンスの発展も重要で、今後は膨大な探索、最適化部分を対象にマテリアルズインフォマティクスやマテリアルズインテグレーションによるスピード向上が起きると考えている。

感想

X線光電子分光や蛍光X線分析は面白いですね。色素の回(12回)ではπ結合のHOMO/LUMOのエネルギー準位が問題でしたが、今回は内側のエネルギー準位を測定することで結合状態に左右されにくい元素の性質を測るということのようです。またIRについては、学生時代に固有値分解の応用例としてO2とCO2の運動モードの違いを考慮して温室効果への影響を議論せよという課題があり、( ゚д゚)ポカーン だった記憶があります。

シミュレーションは手法が細分化されてて手法ごとに学閥ができてしまっている感もありますが汎用的な良いイントロだったかと。CALPHAD法はしらんかったですねー。マテリアルインフォマティクスまで入れるととても1回では収まらない。

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