放送大学 物質・材料工学と社会(’17)第8回 ファッションと航空機
繊維は化学産業の中でも特殊な位置を占めるようです
シラバス
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https://www.wakaba.ouj.ac.jp/kyoumu/syllabus/SC02060200201/initialize.do
物質・材料工学と社会(’17)
Materials Science and Engineering in Our Society ('17)
主任講師名:谷岡 明彦(東京工業大学名誉教授)、里 達雄(東京工業大学名誉教授)
- 執筆担当講師名:谷岡 明彦(東京工業大学名誉教授)
- 放送担当講師名:谷岡 明彦(東京工業大学名誉教授)
- ゲスト:鞠谷 雄士(東京工業大学教授)
概要
- 綿花から綿繰り機で取られた綿は振動でもつれをほどいたのち、糸車でねじりながら紡ぐことにより長い繊維にする。18世紀の産業革命の中でジェニー精紡機、ウォーターフレーム精紡機が発明され、自動化、量産化が進んだ。布にするための方法として織るか編むかされる。織った布は縦糸に横糸を交互に通したもので、豊田佐吉のG型自動織機(無停止杼換式)はシャトルを改良した効率の良いものである。19世紀にジャカード織機が発明されパンチカードで入力したパターンを自動的に織ることができるようになり、日本では西陣織の近代化がすすんだ。
- 編み物では布の切れ目なく筒状の構造を作ることができるため、現在では軍手など立体構造も縫い目なくコンピューター制御で編むことができる。
- 天然繊維として綿、絹、ウールを挙げる。綿の主成分はセルロースで繊維長は2-8cm程度と短く繊維を紡いで長くする必要がある。絹の繊維は直径15-50μm、長さ800m-1200m。ウールは2-18cm。それぞれ保温性や透湿性、光沢の有無など違いがある。
- ウールはクチクル(表皮細胞)がコルテックス(皮質細胞)を巻いており、後者はオルソとパラという吸湿性の異なる2成分からなり縮れの原因となる。これはさらにマクロフィブリルの集合体で、マクロフィブリルはマトリックス(高硫黄タンパク)とミクロフィブリル(低硫黄タンパク)からなり、これはαヘリックス構造のコイルド-コイルロープと呼ばれる繊維状物質である。ケラチンというたんぱく質でシステインというアミノ酸のペプチドである。
- コットンは中空構造のセルロースで軽く保温性がある。
- シルクは2本の三角形の断面を持つフィブロインをセリシンが包んでおり、アルカリ性溶液に着けることでフィブロインを取り出せる。絹の風合いと光沢はフィブロインの構造による。その内部はフィブリルの集合体である。グリシン、アラニン、セリン、チロシンというアミノ酸からなる。
- これらの繊維の特徴は化学式では確定せず、3次構造や分子の配向性、結晶などナノ-ミクロオーダーのより大きなスケールの特徴を見る必要がある。
- 化学繊維として最初に合成されたナイロンはナイロン66と呼ばれ、アジピン酸ヘキサメチレンジアミンが重合されたもの。
- 化学繊維の合成には、高分子を重合したのち溶液を用いる溶液紡糸、溶融高分子を使う溶融紡糸があり、前者は湿式、乾式、乾湿式などがある。通常はこの段階ではガラス状のためこれに延伸、熱処理で分子配向や結晶化度が制御される。量産では時速360kmのスピードでこれらの処理が連続的に行える。分子配向を繊維方向にそろえることで共有結合により強度が向上し、結晶化で耐熱性が得られる。
- CFRPは軽くて強く、構造材として優れる。CFRPに使われる炭素繊維の原料はポリアクリロニトリル(PAN)で、このままでは高熱で分解するため200-300度で耐炎火系にし、1000度で炭化される。さらに熱処理を行うことでグラファイト構造の繊維が得られる。今後自動車での利用が進み飛躍的に増加すると思われる。
感想
ファッションと航空機というのはやや強引なまとめのような気もしますが、繊維は化学的性質のみならず製造方法が面白いということですね。また天然繊維も想像以上に内部構造が複雑。絹はアルカリ溶液で処理するとあの美しい光沢と風合いが得られる(三角形の断面が重要らしい)とのことですが、それを古代から知っていたというのは驚きです。
紡績、織物については、別の授業で産業革命の歴史を習うと出てくるわけですが、ジャカード織機なんか完全にコンピューターで、演算機能はないがデジタル入力と制御というコンピューターのI/Oに相当する部分の源流はこういうところにあるのかなあと思ったりします。
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