放送大学 グローバル経済史('18) メモ13 経済発展の多径路性

経済発展の制約条件を述べた理論と産業革命->工業化、以外の流れによる経済発展について。

シラバス

放送大学 授業科目案内 グローバル経済史('18)
https://www.ouj.ac.jp/hp/kamoku/H30/kyouyou/C/syakai/1639609.html
グローバル経済史(’18)

13 経済発展の多径路性

マルサスの罠:人口は指数関数的に増加するが食糧はゆっくりとしか増産出来ず、結果一人当たり食糧が不足し飢えや戦争が起きるとする。

リカードの罠:生産が増加し労働需要が伸びると(マルサス的に)人口も増加し賃金は一定に保たれるので資本と雇用の増加が続く。一方食糧生産は徐々に開拓が困難になり限界費用が増加するため(収穫逓減)地代が増加して食糧コスト及び生存賃金が増加し、資本家は利潤が得られなくなる。土地資源の制約による近代産業の成長を停滞させるメカニズム。

実際には1870年ごろから出生率、死亡率が低下し賃金が増加しても人口は増えなくなった。また肥料の利用による収量向上や新大陸からの安価な食糧の流入により、どちらの罠も実現しなかった。

杉原薫先生インタビュー。東アジア(中国、日本)では17世紀から18世紀にかけて人口が急増したが耕地面積は微増であり、よって一人当たり耕地面積が減少した。揚子江下流域や日本での勤勉革命(Industrious Revolution, )は土地生産性を徹底的に上げていく労働集約的な生産性向上である。ヤンデフリースの説ではヨーロッパを対象に、消費意欲の向上が経済成長と市場の確立をもたらしたとし、速水・我々の説では人口扶養力の向上が目的であり生産を主たる注目点とするなど、問題の定式化が異なる。戦後の東アジアの奇跡においては労働者のスキル、特に対人スキルや社会スキルなどが重要とみる。熱帯地域ではインドが例外的に大きな人口扶養力を持つ。生存圏という考えでは生産性だけでなく生存基盤の確保(水・熱循環、バイオマスエネルギー、疫病)の仕方から経済発展を見ることでインドの特殊性を理解したい。

斎藤修先生インタビュー。経済成長の指標として生産、すなわち一人当たりGDPを考えると経路の違いを考慮することは難しいが、実際は各セクターにおける資本集約・労働集約の度合い、スキルの必要度、および格差を考慮する必要がある。(資本集約・労働集約, スキルの必要度)という座標で整理すると職人的スキルが重視されるイギリス(高, 高)、T型フォードに代表されるアメリカ(高, 低)、資本の足りなかった日本(低, 高)となる。家族・世帯の概念は重要で妻の労働などもあるため1世帯当たりの収入水準で補正する必要がある。各国の格差を世帯でみると、日本は農:工商:支配者=100:160:177:程度であり、支配者層に足軽レベルが含まれ人口が多いため格差は少なくなっているが層内の格差が大きい。インドでは100:372:2563で極めて格差が大きく、イギリス100:202:602では中間層が比較的多い。今後経済発展モデルの選択にあたっては経路の違いを考慮し新しいモデルを考える必要があるのではないか。

感想

ちょっと話題が分裂しているような気もしますが、前半のマルサスの罠とリカードの罠。マルサスの罠は簡単な微分方程式のモデルであらわされてロジスティック曲線やロジスティック写像などを与えるので有名ですね。リカードの罠は知りませんでした。説明もなかなか複雑でしたが、マルサスの罠に賃金-労働供給のメカニズムを組み込んだものではないかと解釈。

後半の勤勉革命(Industrious Revolution, だじゃれかよ)というのは、人口が多すぎるんだから養うためにはあえて多人数を必要とする産業を伸ばしましょうということですよね。そして格差と身分制度の比較では、江戸時代の日本は一見すると身分間の格差が小さいように見えるが、農民でも小作と豪農、武士でも足軽と老中では所得がまるで違うように身分内格差が拡大した時代ということができるようです。一方インドは身分制と格差がよく一致していた(身分制度が格差の固定化に機能していた)といえるのかもしれません。二人の先生方とも労働者のスキルに言及されていたのが興味深い。

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