昔からの味が好き

いくつになってもお袋に怒られています。お袋は90歳、特別養護老人ホームで暮らしています。私は、毎週、お袋のリクエストを聞いて食べ物を差し入れます。その差し入れについて「また、こんなの買ってきて、あんたは何度言ったらわかるの」と怒ります。お袋の注文は難しいです。

健康的じゃない物を食べたい

私のお袋は、数年前から特別養護老人ホームで暮らしています。幸い、特別養護老人ホームに入ってからは体調をくずすことなく、入院もせず元気に暮らしています。寝たきりで一人暮らしをしているときは、年に一回程度、入院していました。特別養護老人ホームに入ってから食生活が改善されたからだと思います。しかし、お袋は、ホームで出される食事が嫌いです。

ホームで提供される食事は、バランスが取れた健康的な食事です。お袋は、健康的な食事が嫌いです。特に薄味は苦手です。大好きなのは、味がしっかりしている物、昔から売っている物です。そこで私は、一週間に一回程度、お袋の注文を聞いてそれを届けます。お袋の注文は、簡単なようで難しい注文です。

「江戸むらさき」がいい

この前は、ご飯を食べるのに、つくだ煮ののりが必要だと言うので買って行きました。私が買ったのは、ビンのラベルに漁師が作業をしているイラストと商品名「〇〇（産地名）ののり」と書かれたヤツでした。しかし、お袋は怒りました。「なに、あんた、あんな高いヤツじゃなくていいのに。昔からあるでしょう、ほら、江戸むらさき。」

お袋は、のりのラベルに産地名が書いてあることから、どこかの名産品で高級なのりだと思ったようです。お袋が言う「えどむらさき」は、私が子どものころからある、伝統的なつくだ煮のりです。お袋に言われたあと、スーパーで「江戸むらさき」を探しました。しかし、売ってません。ネットで調べるとオンライン販売をしていました。しかし、私が買った「〇〇ののり」よりも超高級な値段でした。その後、お袋は「ごはんですよ！」で納得してくれました。

昔からあるヤツがいい

おかずは、肉が好きです。しかし、歯が悪いから噛めません。そこでシュウマイを買って行きました。私が、ちょっとガッツリしたシュウマイを買って行ったら怒りました。お袋は「あんな立派なヤツじゃなくていいの、崎陽軒の小さいヤツでいいのよ」と、言います。私が買ったのは、スーパーのお惣菜コーナーでパックにされた２個入りのシュウマイです。崎陽軒まで買いに行かれません。

また、甘い物も大好きです。ゼリーが食べたいと言うので、果物の缶詰が入ったゼリーを買って行きました。やっぱり怒りました。「またあんなゼリー買って来て、くだものなんて入ってなくていいの、あたしが言っているのは、あんたが昔好きだったヤツよ、何にも入ってなくて、３個ぐらい入っているヤツ。」

お袋が言うゼリーは、味がほとんど同じで、オレンジ（みかん味）、赤（イチゴ味）、むらさき（グレープ味）の３色、３個がパックになったヤツです。お袋は、私がこれを好きだったと言います。しかし、私はこれが好きだったわけではありません。これしか買ってもらえなかっただけです。

まだ外食できません

お袋が好む食材は、昔からある物です。また、昔からある物は値段が安いと思い込んでいます。今日の注文は、ハムと納豆でした。えっ、どこのメーカーにすればいいんだろう…。

特別養護老人ホームは、まだまだ外出、外食ができません。面会もガラス越しです。不自由な毎日を送っています。せめて好きな物を買って行かれたらと思います。

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