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究極の支援目標/平穏な暮らし

障害福祉サービスは、個別支援計画に基づいて提供されます。また、個別支援計画は、サービスを利用する人の希望を実現するためのものです。基本は、ご本人が福祉サービスを使ってどんな暮らしをしたいかということです。しかし、利用される人の中には自分の希望を伝えることが難しい人がいます。さらにそのサービスがグループホームのような生活支援では、個別支援計画の作成が難しくなります。

私は障がいのある人が利用する社会福祉法人を経営しています。そこでは総勢50人ぐらいの人がサービスを利用しています。サービスの種類は、相談、日中活動、生活支援(グループホーム)です。それらすべての事業において個別支援計画が策定されています。

利用者の希望を聞く

利用者の皆さんには、定期的に希望を聞きます。日中活動では、お菓子を作りたい、受注仕事がしたいと希望を伝えてくれます。言葉で伝えることができない人は、写真を見せたり、実際に道具などを見せて選択をしてもらいます。

また、グループホームにおいては、食事やガイドヘルパーの希望の他、将来の生活に向けて洗濯の練習をしたい、お金の使い方を手伝って欲しいなどの要望があります。私たちの仕事は、ご本人の希望に寄り添い、その実現に向けて課題となることを明確にして支援をすることです

しかし、私の法人の利用者の多くは、自分の希望を明確に伝えることができません。すると支援者は、支援者の思いや願いで支援計画を作成してしまうことがあります。そこには「~しましょう」とか「~ができるようになりましょう」と書かれています。

「楽しそう」を増やす「辛そう」を減らす

そこで私は、感情に注目してその場面をたくさん集めてくださいと支援者にお願いをします。そのうえで計画は、楽しそうにしている場面を増やしたり維持できるようにします。また、辛そうにしている場面はどうしたら減らせるか、どのように環境を改善するかと考えます。

あるグループホーム利用者の場合です。その人は言葉による希望の聞き取りが難しい利用者です。担当支援者からの報告では、辛そうにしている場面は、その利用者がリビングで一人になってしまったとき、他の利用者が怒っているときです。楽しそうにしている場面は、リビングにみんなが集まっているときです。さらに支援者との会話をしているとき「〇〇さんいた」とか「〇〇さんいる」という発言が多いという報告がありました。「いる」という場合は、肯定なのか疑問なのかということがだいじです。また、その発言のときの感情に注目することもだいじです。

平穏に暮らす

報告から、この利用者は何かをして欲しいとか、何かをするというよりも、人の輪の中にいたい、人が好きということがわかります。そこでこの利用者の個別支援計画を記した書類には、グループホームのリビングに利用者が集まっている写真だけを大きく載せました。

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個別支援計画は、ご本人に説明をして書類に承諾のサインをいただかなければいけません。この利用者の場合は、写真に写っている人の名前を一人ひとり読み上げて指で確認しました。そのあとで利用者は、サイン欄にグルグルと何重もの丸を書いてくれました。嬉しかったことは、この利用者がこの個別支援計画の書類を折り畳んで毎日、持っていることです。日中も、ポケットから取り出して眺めてくれています。

利用者はこの個別支援計画に満足してくれています。しかし、この個別支援計画はたいへん難しい支援です。「~をしてください」とか「~をしたい」という希望は、何を支援すれば良いかが明確です。この個別支援計画で求められていることは平穏な毎日です。

それは、この利用者だけでなく、そこで暮らす、働く、すべての人がおだやかに毎日をおくれるようにするということです。この利用者は、このホームを代表してみんなの幸せを願ってくれている、そんなふうに考えることができます。

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