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18世紀末と19世紀中頃のロイヤルコペンハーゲン製ブルーフラワー・カップ&ソーサーの比較

この度、19世紀中頃のロイヤルコペンハーゲン製、ブルーフラワーのカップ&ソーサー (左)を入荷したので、資料コレクションとして所持している、18世紀末の同類の作例(右)と並べて比較できる機会に恵まれました。

双方、カップの直径が83mm程、ソーサーの直径が145mm程のたっふりとしたコーヒーカップです。

18世紀末の品にはロイヤルコペンハーゲン製であることを示す三本線に加えて、ペインターナンバー"3"が記されていることから、この時期に同窯に在籍した Christian Ahrensborg によって1780-1802年の間に絵付されたことがわかります。

こちら19世紀中頃の品にはペインターナンバー"4"が記されていることから、Lassen(Larsen) Anthon によって1853-77年の間に絵付されたことがわかります。

まずは磁胎を見比べていきます。18世紀末の品は少し青くグレーみのある色合いで、カップ胴部分にはモールドが入っています。後にブルーフラワー・カーヴとされる型です。

19世紀中頃の品は、白さが増し、磁肌も滑らかになっています。18世紀末の品に比べて、目立った黒点や歪みもなく、精度が上がっていることが明確にわかります。こちらはカップ胴部分にモールドは入れられておらず、つるんとしており、後にブルーフラワー・プレインとされる型ですね。

次に染付による花絵を見比べていきます。18世紀末の品(右)は主に筆先を使い、細密な花のディテールの表現を狙った絵付が施されています。それに比べて19世紀中頃の品(左)は主に筆の腹を使い、コバルトの濃淡による表情の表現を狙った絵付になっています。

18世紀末の品(右)は非常に細やかで生真面目に絵付されているぶん、少々縮こまった印象になるのに比べて、19世紀中頃の品(左)は広範囲にわたって施されており、伸びやかで小慣れた印象を持ちますね。

ハンドル部分の装飾も少し異なり、19世紀中頃の品(左)に比べて18世紀末の品(右)は細かく線描が施されています。この差異も後のブルーフラワー・カーヴとブルーフラワー・プレインの違いに繋がる部分がありますね。そして、18世紀末の品(右)のハンドルはかなり下に取り付けられており、持ち上げたときのバランスが悪く、19世紀中頃には改善されていることがわかります。

ぱっと見は殆ど同じ「アンティークのコペンハーゲンのブルーフラワー」と短く説明されてしまうことも多い2客ですが、こうして見比べることでいろいろな発見があります。少々の歪みを愛でてみたり、技術の進歩に見惚れてみたり。カップを鑑賞する人それぞれの視点でお気に入りのポイントが見えてくるものと思っています。

たかだか数十年の差があるだけのブルーフラワーの作例を比較し、言語化することが、それぞれ地味ながらも滋味深い魅力のある品々であることを再確認することにつながりました。


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