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孤高なる巨星の去る朝に

……彼は長いあいだそうやって坐っていたがやがて東の空が本当に白み始め、しばらくすると神の創った本物の太陽がもう一度、分け隔てなく全てのもののために昇ってきた。

完璧な小説は存在する。 コ―マック・マッカーシーのある小説のある一節を読んだとき、そう思いました。

コーマック・マッカーシーは、僕にとって、世界について最も完璧な小説を創造する偉大な作家のひとりで、彼の作品を知って以来、つねに敬愛の対象であり続けました。

しかし、マッカーシーは別の作品でこうも言っています。

この世に完全なものなどない(エン・エステ・ムンド・ナーダ・エス・ペルフェクト)。

氏の訃報を伝える早川書房公式の記事の最後の一文において、幾度も書籍で目にしてきたマッカーシーの略歴の結びがひとこと変わったことで、彼がこの世を去り、異なる世界へ越境したことが事実なのだと思い知らされました。

マッカーシー作品はいつも流血と暴力に満ちている。けれど彼の作品を読むたびに嗅ぎ取るのは乾いた血や銃の硝煙と鉄の匂いではなく、地に揺れる植物、地を駆ける獣、狼、馬、地を歩む人の、孤独ないのちの匂い、荒涼としており残酷で無慈悲であるが生命に満ち溢れた荒野の匂いでした。

最も残酷で最も美しい世界を小説を通じて書き記し、果てなき荒野の暗闇に耀き続けた孤高なる巨星の死を、心より悼み、冥福を祈ります。

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