あいうえおもいで 【お】

【お】おばけ

母方の祖父が亡くなって、最初の夏。

私は小学6年生で、お盆の時期に合わせて両親とともに母の田舎に来ていた。母や叔母、祖母と一緒に居間に精霊棚を設置し、提灯や御膳、先祖の位牌、そして新盆を迎える祖父の遺影を飾った。

ひと通りの作業を終えてから、たいして広くはないその居間でぼんやりとテレビ(たぶん高校野球)を見ていた時。




私を呼ぶ祖父の声が聞こえた。すぐそこからはっきりと。




驚いて祖父の遺影を振り返った。
その間せいぜい1、2秒。
でもその一瞬の間でいくつもの思いが頭の中を駆け抜けた。

お盆で本当におじいちゃんが帰ってきた!?
おじいちゃんと話してみたい!
(祖父は晩年入院していて、私は最期の時に立ち会えなかった)
でもちょっと怖い、何を話そう?
そもそも帰ってきたからって会話できるのか?
遺影に話しかければいいの?
いやいやいやちょっと待て、亡くなった人の声が聞こえるはずがない。
でも空耳にしては本当にはっきり聞こえたけれど…。




なんのことはない。
私をびっくりさせようと、叔父がいたずらで精霊棚の陰に隠れながら私の名前を呼んだのだ。

叔父の声は祖父の声と瓜二つだった。親子なのだからそれもそうだ。
種明かしされた後はみんなで爆笑したけれど、ほんの一瞬、そこには本当に祖父がいたかもしれない。

子どもの時の、一瞬のおばけ的体験。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?