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アイリッシュコンサーティーナにおける装飾音について #2 カットとグレイスノート

第1回目の記事では,コンサーティーナの装飾音の種類についてまとめました。
今回からいよいよ実際の装飾音の奏法についてまとめていきたいと思います。

※第1回目の記事はこちら。

■カット(Cut)

多くの奏者が使っている装飾音です。
まずはどのようなものか,楽譜で表してみました。

※赤い音符が装飾音です。
※本記事の譜例は「私はこう弾いています」という程度の書き起こしですのであくまでも参考までにご覧ください。

キャプチャ1

~The Ballydesmond Polka No.2 より

キャプチャ2

~Out on the Ocean より

このように,2つの音が続いたときに間を区切るように入れるのがカット(Cut)です。
他の楽器(ティンホイッスルなど)では,装飾する音の指孔を一瞬開けて塞ぐことで,一つ上の音を瞬間的に入れて区切ります。

これをコンサーティーナで行うために,装飾する音より1つか2つ右側のボタンを使います。(※左手のソと右手のドなど左右に分かれるパターンもあり)

笛の装飾音では一つの指を動かすだけですが,コンサーティーナでは2つのボタンを素早く交互に押すことになります。

また,隣接するボタンを使うため,場合によっては曲のコードや音階から外れている音も自然に装飾音として使われることになります。

キャプチャ4

~Siege of Ennis より

この楽譜の一小節目にある装飾音のファ・ナチュラルは,この曲のキーであるGメジャーのスケールの音ではありません。

他の装飾音全体に言えることですが,アイルランド音楽における装飾音は区切ったりリズム感を出したりするためのものなので,装飾音自体のピッチをいかに目立たせなくするかが重要になると思われます。

装飾音は短く大きすぎず,いわば打楽器的に演奏するといったところでしょうか。

さらに,元々の音価を半分に分割して間にカットを入れるパターンもあります。

キャプチャ3

~The Bucks of Oranmore より

この楽譜のように4分音符を8分音符2つに分割する場合と,8分音符を16分音符2つに分割する場合があります。
他の楽器で言うショートロール(Short Roll)のような効果が期待されます。


カットを使っている演奏の一例

手軽に聴いていただくために,Youtubeで公式にアップされている動画の中から分かりやすい使用例を探してみました。
※奏者の方々はその他の装飾音もふんだんに使っていますので,ピンポイントでは聞き取りづらいかもしれません。

アイルランドの奏者で,コンサーティーナの指導にも携わっているMícheál Ó Raghallaighの演奏です。
こちらの動画はコンサーティーナメーカーMcNeelaのデモ演奏で,アコーディオンリードの楽器でも装飾音が効果的に使われている様子が見られます。

The Mist Covered Mountain(Jig)の冒頭は ミララ ラシレ ミララ ♪ラソミ
(EAA ABd eAA AGE)となっており,音符マーク♪の位置にカットのが入っています。

また,Bパート(0:20~)は ラソミ ラーシ ラソミ ミレシ (age a2b age edB)
となっており,♪マークの位置にカットのが入っています。

※聞き取りにくい場合はYoutubeの機能で再生速度の変更(スロー再生)ができるのでお試しください。


■グレイスノート(Gracenote)

カットは音を区切るという話をしてきました。
しかし,著名な奏者の演奏を聴いていると,カットのような短い音が拍の頭など,2つの音が連続していないところでも使われていることが分かります。

キャプチャ5

~Toss the Fethers No.1 より

キャプチャ6

~Willie Coleman’s より

このような装飾音を,2つの同じ音を区切るカットと差別化し,便宜上グレイスノートと呼びます。(単純にカットと呼ばれる場合もあるようです。)

グレイスノートは,拍の頭などにアクセントをつけ,リズムを生み出す目的で使われていると思われます。

グレイスノートを使っている演奏の一例

現在人気のコンサーティーナ奏者Caitlín Nic Gabhannの演奏です。

一曲目のThe Doon(Reel)に注目してみます。冒頭から何度か出てくる
レーファラ ♪シファラファ(D2FA BFAF)というパターンですが,の前の♪にグレイスノートのが高頻度で入っています。
その他の場所でも多数のグレイスノートが見られます。


今回のまとめ

2つの連続する音を区切るように使うのがカット,それ以外の場所(拍の頭など)に入れてアクセントをつけるのがグレイスノートでした。

紹介した例はごく一部です。
装飾音を入れる場所や,入れる音のパターンはいくらでも考えられるので,好きな奏者を参考にしたりしながら追求していくことになります。

さて,だいぶ長くなってしまいました。
次回は問題のロール編です……(笑)。